──

マミーズのパイのりんごは
ざくっと大きく切ってあって、
煮詰まっていないから歯ごたえがあります。
りんごを食べたというよろこびがあって、
くどさがない。
あのみっしりした断面、
まるでパズルのようです。

小松

ひとつのパイにりんごを
１kg以上組み立てなくてはならず、
工場でみんな、泣きそうになりながら、
組み上げています。

──

慣れるまで時間がかかりますね。

小松

手がちっちゃい職人だと、
形を作るのも難しいようで、
「りんご雪崩」が起きてしまいます。

──

こんなにたっぷりりんごが入っていたら、
焼き上げるのも難しそうです。

小松

湿度の影響も受けますし、
お天気が悪いときには
パイが弾けやすかったりします。

──

お客さまからは、
どんな感想が多いのでしょうか。

小松

いまみなさんもおっしゃったように、
「やさしい」「素朴さがいい」という感想を
多くいただきます。
「これまでアップルパイが嫌いだったけれども、
マミーズのアップルパイから食べられるようになった」
という声も頂戴しました。
「子どものころにお母さんが買ってきてくれて、
それ以来、20歳のOLになったいまでもファンです」
とおっしゃる方もいます。
私も、子どもが４人おりまして、
いちばん上の子が19歳です。
ほかで食べるケーキが甘すぎたりして、
なかなか食べつづけられません。
けれども、私はいまも、
朝ごはんに週に２回ほど
うちのアップルパイを出してまして（笑）、
それはすごくよろこんで食べています。

──

そんなふうにずっと食べつづけられるのが
マミーズの味なんですね。
お母さまは、現役ということなのですが、
いまはご自宅で
パイを焼いていらっしゃるんですか？

小松

いえ、工場で、
誰よりも休みなく、
製造しております。
いま78歳なんですが、
誰よりもしんどい時間の、
夜10時から朝６時まで、働いております。

──

‥‥えっ。どういうことですか？

小松

全店舗が閉店して、
売り上げ報告が会社や工場に
流れてきます。
その時点で翌日出荷するものを決めます。
いまは荒川に小さな工場を構えていまして、
母はそこで、夜10時から、
みんなに焼いてもらうパイの
下準備をはじめます。
そこから３時出勤、４時出勤のみなさんが
ぞくぞくと出社してきて‥‥。

──

そうやって、朝にできたてを
出荷するんですね。
お母さまは、朝６時まで工場でパイを作り。

小松

ヘトヘトになって、朝、帰宅。

──

現場監督もしながら、
ご自身でも手を動かしていらっしゃるんですね。
だから味やコンセプトがぶれないのでしょう。
とはいえ、昔と比べて
変更したことなどはありますか？

小松

うちの母は、なんというか、
サービス精神が旺盛なんです。
「いいものを、いいものを」と
つねに思っているので、
小麦粉などの材料を
これまで何度か変更してきました。
小麦価格が高騰し、
価格を上げざるを得なくなったときは、
その分りんごの量を増やし、
パイ自体を大きくして、
品質を下げないようにしました。

──

味を守りながら、
素材の工夫を重ねているんですね。

小松

ただし、いちばんメインの、
産地からやってくるりんごの味は、
もちろん変わりません。
さらにりんごの味つけ、そして、
カスタードクリームのレシピは、
創業以来、一切変わっていません。

──

おお、そうなんですか。

小松

はい。パイそのもののボリュームは
ふくらんでいます。
でも、基本の味は変わっていません。

──

りんごの品種は、
紅玉と、何を使っていますか？

小松

９月になると、まずはつがるが入ってきます。
そこから秋映、シナノスイート、
期間限定の紅玉がやってきます。
ときどきほかの品種も入りますが、
その後、冬の期間はふじを使用します。
ふじは日持ちもいいので、
オフシーズンはずっとふじです。

──

ほぼ日曜日で扱う
冷凍の「焼くだけ」パイの
品種は何になりますでしょうか。

小松

いまちょうど作っている時期でございますので、
採れたてのつがるか、
秋映になると思います。

──

りんごを煮るときの砂糖量は、
品種によって変わりますか？

小松

はい、りんごによって、
砂糖の量も煮る時間も変えます。
あの「積んだ」パイを、
完成させなくてはいけませんので。

──

あのりんごレンガは、
かんたんには作れないでしょうが、
いつか「ミールキット」のほうを買って、
チャレンジしてみたいです。