──

世の中にはいろいろな職業がありますけど、
どんな仕事をしてる人でも、
大なり小なり、
「うれしい」って瞬間があると思うんです。

本木さんは、俳優として、どういうときに、
「あ、うれしい」って感じますか。

本木

役者でうれしいとき‥‥あるのかなぁ。

──

ない‥‥んですか？（笑）

本木

いや、思い出せばきっとあるんだけど、
ここまで話してきてわかると思うんですが、
私って、非常に「自虐的」なんですよ。

──

ええ、ご自身への評価が辛いと言いますか、
率直すぎると言いますか（笑）。

本木

そうとうネガティブで、常に不満足。

これって自信過剰の裏返しなのかなぁって、
毎度、こんがらがっていますよ。

──

ご自身で、ご自身に対して。

本木

不器用で、切れた電球の玉を替えるのにも
ひと苦労するくらいだし、
子どもに見せられるような背中もないし、
まったく、役者以前に、
何のために存在しているのかと思いますね。

──

そんなことまで考えちゃうんですか。

本木

考えますよ、ときどき。

それでも人並みの「欲」はあるから、
自分には、絶対に向いてないと思ったけど、
「自虐で結婚してみようか」とか。

──

自虐で結婚て、聞いたことないです（笑）。

本木

いや、ほら、自虐だって、
自分磨きのひとつかもしれないじゃない？

まあ、実際には、
それで許してくれる相手じゃなかったら
結婚できなかったわけですけど、
とにかく
「こんな者でよければ試してみませんか」
と言って結婚して、私が勝手に望んで、
はやめに子どもをつくって、
結果的に今、３人、いるんですけれどね。

──

ええ。

本木

三者三様、それぞれに性格もちがって、
それぞれなりに、
私と妻の遺伝子が分配されていて、
うれしいような、
ちょっと困るなあってところもありまして。

──

はい。

本木

親になったよろこびはあるんだけれど、
なんて果てしない面倒ごとを
抱え込んでしまったんだろうという
思いもあって‥‥。

うれしいって、何だろうなあ。
んー、むずかしいです。

──

でも、本木さんがご結婚なされたときに、
なぜかはよく覚えてないですが、
モッくん、かっこいいなって思いました。

本木

小泉（今日子）さんが永瀬（正敏）くんと
結婚したときもそうでしたけど、
当時は、アイドルが自分の結婚観について
話すということ自体が
なんだか‥‥おもしろいこと、
ちょっと新しいこととして評価されていて。

──

ええ、そうだったかもしれないです。
雑誌で特集されたりとか。

本木

私のときも、たとえば、
ま、少しはお金も持っているはずだろうに、
樹木（希林）さんの買ってきた
何千円だかの古着の着物で、
明治神宮で地味な結婚式を挙げたこととか、
新鮮に捉えられたりしたんです。

──

ああ、そうでした。

本木

結婚相手にしたって、
どんだけ業界の
イケイケ美人と結婚するのかと思ったら、
化粧っ気ナシの19歳で、
「ロッケンロールに婿養子？」という
オマケもありで、「別枠」っぽかったでしょ。

──

そういう全体が、
モッくんらしいなあと感じてました。

本木

たぶん、何かと王道ではないんです。

ほら、なんか、福山雅治さんとかみたいに、
永遠にかっこいい人とか、
かつてのショーケン（萩原健一さん）みたいに、
絶対に女子にＯＫになる人とかって感じは、
私には、ないじゃないですか。

つまりその、「エロい感じ」が、しない。

──

ええっと、そうでしょうかね。

本木

きっと、そうじゃないかなと思うんです。

と言うより、むしろ
「なんか、ちょっとオネエ入ってるよね？」
とか。

──

そんな（笑）、でも、はい（笑）。

本木

ようするに、本来、
役者としては「そのカード」を持ってたら、
有利なはずなんです。

──

ああ、なるほど。エロのカードを。

本木

でも、そう言われたことはなくて、
代わりに、歳をとっても透明感あふれるとか、
どこか正義感が漂うとか、
微妙にエキセントリックだとか。

──

はい、お会いするまでは、
まさしく、そういうイメージがありました。

端正で品行方正なんだけど、
時限爆弾みたいに暴発することもある‥‥。

本木

私はずっとそんなふうに言われてきたけど、
唯一「エロいね」と言われたことがない。
で、役者としてどちらが魅力的かといえば、
絶対、エロさのある人だと思うんです。

ほら、70近くになって
子どもをつくったピカソじゃないけど‥‥。

──

生命力にあふれているような？

本木

それって、役者だけの話じゃないですよね。

一人の人間としても、
「エロのカード」を持っていたほうが、
絶対に、生存に有利でしょう。

──

遺伝子を残す、という意味でも。

本木

芸術的な引力においてもね。

で、そのことをいちばんわかっているのは、
うちの奥さんだと思います。

──

ああ、エロのカードを持ってないことを。

本木

そうそう（笑）。
だって、よく言われるから。

──

そうなんですか（笑）。

本木

うん。

──

まあ、他ならぬ奥さまがおっしゃるのなら、
本当なのかもしれないですね（笑）。

本木

じつは、ふたりとも、
無性的なものを好むというのはあるんだれども‥‥。

が、しかし、やっぱり、どんな役柄であれ、
どこかに色気が漂わないと魅力がないという意見も、
一致しているんです。

──

なるほど。

本木

なのに、自分自身には、どう転んでも、
エロさがことごとくないから、
私の芝居を見ても、きっと、そこが物足りなくて、
「魅力的な人物には映ってないよね」
って、しょっちゅう言われてるんです、家庭で。

──

奥さま、厳しい‥‥（笑）。

本木

いや、でも、それは事実。

＜つづきます＞

2018-03-27-TUE