「Dovecotes」
今回の絵は、この夏に訪れたティノス島の風景です。
ギリシャ人にとってティノス島は、
ギリシャ正教で最も重要な教会の一つである
「パナギア・エヴァンゲリストリア教会」
があることで有名なのですが、
私の一番のお目当てはこの島に多く存在する
不思議な「鳩小屋」でした。
この島の鳩小屋は塔のような形をしており、
外壁には鳩穴を兼ねて
幾何学模様や杉の木、太陽の形の装飾が施されています。
それには朴とつな味わいがあって、とにかくかわいらしい。
よくもまぁ鳩のためにこんなかわいいものを造ったものだと
感心してしまいます。
鳩小屋を作る文化はベネツィア人によってもたらされ、
18世紀から19世紀にかけてその最盛期を迎え、
島全体で1000以上もあると言われています。
鳩小屋というと伝書鳩を連想しがちですが、
その目的はなんと鳩を繁殖させて食するため。
鳩料理は一般的なギリシャ料理ではありませんが、
この島では今でも食べられているのだとか。
アテネの至るところでひしめきあっている、
とても清潔とは言えない
ドバトを見ていると到底食べる気にはなりませんが、
食用に飼育された鳩は普通に美味しいのだそうです。
また鳩の糞も、もともと肥沃で農耕に適している
ティノス島の土地をさらに豊かなものにするのに利用されました。
よって鳩小屋は広大な農地に建てられていることが多く、
これがまた素晴らしい景観を作り出しています。
視界を遮るもののない広大な自然の中に、
ぽつぽつと点在する不思議な建造物。
「なんでこんなところにこんなものが」感がすごく、
特にタルバドスという村で見たパノラマには、異世界を感じました。
しかしこの島の鳩、住みやすい環境が整えられ、
丁寧に育てられて、一見とても幸せに見えますが
最終的には食べられてしまうのかと思うと、
鳩的にはアテネでワイルドに暮らす方が幸せなのかもしれませんね。
升ノ内朝子
2019-12-21