第3回 ただの、いちばんの友だち。

もう3時間くらい、話しているでしょうか。

「インタビュー」というのともちがうし、
友だちとの雑談でもない。

そんな、ちょっと不思議な対話をつうじて、
僕らは「志谷啓太」という人のことを
ひとつひとつ、順番に「知って」いきました。

几帳面で、生真面目で、とてもきれい好き。
悩み出すと止まらなくなって、
シャツのボタンを、いちばん上まで留めていて、
趣味は「コーヒーを淹れる」こと。
(これには、かなりのこだわりを持ってる)

さらには「痛みに弱くて、怖がり」らしい。

らしい‥‥というのは、
志谷さんが郵送してくれた「推薦状」に
そう、あったから。

書いたのは、同じ京都大学の柿添康大さん。

柿添さんは、志谷さんにとって
「2コ上の大学院生」つまり「先輩」なんだけど、
なぜか「タメ口」で話せる、いちばんの友だち。

僕たちは、柿添さんという「親友の目」から見た
「志谷啓太」像を、聞いてみたくなりました。

── 志谷さんって、どういう人ですか?
柿添 「ひきこもり」ですかね。
── それは「おとなしい性格だ」ということの
過剰な表現、ですか?
柿添 いえ、何って言ったらいいのかな、
対人的なスキルが低いわけではないんですけど、
彼は「人の悪意が嫌い」なんです。
志谷 ‥‥。
柿添 人の悪意に直面すると
ものすごい拒否反応を起こすところがあるから
そんなにアクティブには
まわりの人間に、はたらきかけない。
志谷 ‥‥的確だと思う。
── 就職活動に、向いてると思います?
柿添 ハッキリ言って、向いてないと思いますね。

だって、僕もいくつか経験しましたけど、
採用面接なんて、
捉えようによっては悪意の塊じゃないですか。

何か言いたいことがあったら
積極的に言え、みたいな環境に置いといたら
勝手に潰れていくタイプだと思う。

嫌味なく率直なことを言う人だなと思いました。
そして、
柿添さんご自身は「面接に強そう」だな、とも。

── 柿添さんは、志谷さんの「推薦状」を
書いてくださったわけですけど、
あらためて
志谷さんを「褒めて」もらってもいいですか。
志谷 褒めてくれないと思います。
柿添 うん、だって、お前が褒められるって、
あんまないもんね。
志谷 ないね。
── そうなんだ。
でも、ずっと優等生だったんですよ、彼?
柿添 だって、褒めようがないですもん。
── ‥‥どうして?
柿添 褒められるほど、人と付き合ってないし。
志谷 ひどい。
柿添 そりゃあ、そうやろお前。

つまり、あるていど人と話さなかったら、
褒めようにも、褒められんやん。
志谷 ひどいこと言うな。
柿添 黙って座ってるだけじゃ褒められないよ。
志谷 あ、そうなの?
いつ褒められるんだろうと思ってた、俺。

聞いていて、ちょっとハラハラしますけど、
目の前には
いたって「通常モード」の、ふたりの若者。

そうか、学生時代の「友だち」って
こんな感じだったっけなと思い出しました。

社会人になってからは、なかなかできない、
利害関係ゼロの
「ただの、いちばんの友だち」とは。

── ‥‥志谷さんとは、仲がいいんですよね?
柿添 ええ。
── それは、なぜだと思いますか?
柿添 僕は、けっこう誰とでも
うまくやっていけるタイプじゃないかと
思うんですけど、
そのなかで、本当に仲良くなれる人って
ものすごく限られてるんです。
── ほう。
柿添 ざっくり言えば、
「めっちゃくちゃいい奴」じゃなければ
仲良くなれないんだけど、
彼は「めっちゃくちゃいい奴」なんです。
志谷 え。
── へぇー‥‥。
志谷 ‥‥ビックリした。
柿添 褒められ慣れてないからな(笑)。
── じゃあ、志谷さんは
どうして柿添さんと仲がいいと思う?
志谷 うーーん‥‥何ででしょうね。

彼が、僕のことを気に入ってくれてるのは
なんとなく分かるんですけど‥‥。
柿添 いっときなんか、ひと月に20日くらい、
この部屋に寝泊まりしてたこと、あるもんな。
── すごいね、それ。ある意味「異常事態」だよ。
志谷 ほんとそう、家賃払えって感じ。
柿添 気に入ってるんですよ、僕は。彼のことを。
── ひとりの人を、ここまで惹きつけられるのって
つまり「魅力」があるってことですよね。
柿添 だから、採用の面接でも
自分のことを、がんばって伝えようっていう‥‥。
志谷 彼は、この部屋が気に入ってるだけなんですよ。

居心地いいし、散らかしても僕がかたづけるし、
コーヒーは出てくるし‥‥。
柿添 いや、ちゃんと答えろよ。
志谷 ‥‥ごめん。

えっと‥‥うん‥‥そうですね。

恐がりなのかな。
臆病なのかもしれない、人の評価に対して、すごく。

だから、何も言い出せないんです。
評価されないかもしれないって思いが先に来て、
結局、
何も言い出せないまま終わることが多いんです。
── 面接では。
志谷 はい。
柿添 彼に関しては、そのご立派なハコのフタを開けて、
上に覆いかぶさっているものを
取っぱらってみないと
本当のおもしろさが、わからないとこがあって。
── 開けてみたら、おもしろかったんだ?
柿添 ええ、まぁ。
── 友だちって、いいですね。
志谷 はい?

柿添さんが「痛みに弱くて、怖がり」だと
「推薦状」に書いた真意、
そして「ひと月に20日」もいっしょにいた理由が
なんとなく同時に、わかった気がしました。

── 就職活動に行き詰まった志谷さんが
「ほぼ日」にメールを出したことについては
柿添さんは、どんなふうに思った?
柿添 まず「面接で言いたいことが言えない」という
彼の悩みにたいしては
「まぁ、そんなもんですよね」という感想です。
── たいがいそうだよ、と。
柿添 たいがいそうだし、
彼は「よけいにそう」なのかもしれないけど、
それでも、
がんばってみたらいいんじゃないのと
思って見てました。
── うん。
柿添 でも、そのことに関して
糸井さん宛てにメールを送ったことについては
「あ、そこに糸口を求めたんだ」って。
── 意外だった?
柿添 そうですね。そういったか、みたいな。

でも、とんでもなく予想外だったかっていうと
そんなこともなかったです。

彼は「ほぼ日」をよく見てたし、
『はたらきたい』という本を読んでいたのも
知ってたんで。
志谷 でも、本当に実現するとは‥‥。
── 思ってました?
柿添 アイディアはおもしろかったから、
可能性はあるかもなぁとは思ってました。

なんとなく、ですけど。

でもさ、実際、どんな話になるんやろ?
志谷 うーーん‥‥。
柿添 圧迫面接だったら、ビビるな(笑)。
── 「志望動機を言いたまえ!」みたいな?(笑)
志谷 やだなぁ、それ(笑)。
柿添 でも、そろそろでしょ?
志谷 うん。
── 来週の終わりだから、まだ‥‥。
志谷 来週なんですよね、もう。

このとき、糸井重里との「面接」本番は
数日後にまで、迫っていました。

<つづきます>

2012-04-24-TUE