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細川 |
岩手、宮城などですでに3か所ほど
植樹に出かけているのですが、
いま地元で調整中のところが
4~5か所あって、今年中には決まると思います。
自治体のそういう動きとは別に、林野庁は
震災で流された
沿岸の150kmの海岸保全林を
10年間かけて復旧していくことになっています。
ほとんどが松ですが、
そのうちの50kmは
今年度中に手をつける、ということになっていて、
宮城県の空港の近くの荒浜地区では、
ブルドーザーを使ってすでに
工事がはじまっています。
林野庁がやる部分もある、
国交省がやる部分もある、
しかも、国有地、公有地、私有地など
土地の持ち主も多岐にわたります。
海岸沿いには神社もずいぶんありますが、
この東日本大震災で、
その多くが津波の被害を受けました。
神社はもちろん私有地です。
来年が伊勢神宮の遷宮の年にあたることもあって、
それに向けて鎮守の森を復興していきたいという
お考えのところもあるので、
お手伝いできればいいなと思っています。
今年、私たちは
100万本の照葉樹の苗作りを目標にしています。
8月からそのための
ドングリ拾いがはじまりました。
時期によって違いますが、
8月はタブ、9月、10月はシイ、カシなどです。
そういった木々のドングリを拾って、
100万本の苗を作ります。
苗は1年で1mぐらいに成長します。
瓦礫を積んだり土を盛るような公共事業は
とてもコストがかかるので、
国や自治体、企業にお任せをして、
私たちはドングリから苗を作ったり、
あとはどうやって苗を植えていくか、
そのノウハウを広めていきたいと思っています。
それが地元の産業にも
貢献していくようにできればいいと思いますね。
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糸井 |
土を作る部分は公共事業に入ってもらい、
植樹は地元産業を巻き込みながらやっていく──。
岸さんはずっと流域保全をおやりになって、
ずいぶん自然と格闘してこられたので、
きっとご意見をお持ちだと思うのですが。
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岸 |
はい。まず、少しだけ気になる部分があって、
申し上げたいのですが、
それは、地域の人たちの黒松に対する信頼が
きわめて強いということです。
松は、これまで防潮林として
数百年の実績を持っています。
あの寒い場所で、はたして
このプロジェクトが進めようとしている
広葉樹が耐えられるかどうかという心配が
地域のみなさんにあると思います。
そこは、ていねいに対応しながら
進めていくべきかもしれません。
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糸井 |
なるほど。
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岸 |
もうひとつは、環境省が
どういう判断をするかです。
植生のことについてはおそらく
国土交通省も、よくわからない部分が
あると思います。
よって、環境庁の協力が必要です。
プロジェクトの計画では、一気にドンと
いきたいところなのでしょうけれども、
環境省の協力が得られる場所で
モデル的に少しずつはじめる、というのが
いいのではないでしょうか。
津波を受ける正面に黒松を置いて、
そこから30mから50mほどの幅の
マウンドを作り、
広葉樹を植えればいいかもしれません。
それにしても、
信頼を得るステップは必要でしょう。
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細川 |
プロジェクトをいっしょにやっている
宮脇昭先生も、松はダメとか、
そういうことはおっしゃっていません。
松もいいし桜もいい。
並行して、その土地の植生のものを、
バックアップしていこうという考えです。
林野庁がやろうとしている海岸保全林は、
海岸の、いちばん海側の部分です。
これは潮風に強い松を主体にやろうとしています。
しかし、松だけではやられてしまうので、
その後ろに土地の植生のものを植えていこう
という考えなんです。
林野庁とも、これから一緒にやろうということで、
協定を結んで進めていくことになります。
同じように、自治体との関係、個人の土地、
それぞれに取り決めが必要でしょうが、
基本的にはその土地の植生のものを中心に
松でも桜でもなんでもいい。
その土地で、桜を植えたいというのなら、
それでいいのです。
しかし、桜でも山椿でも、
その土地の木を利用して、
木の中高低を混ぜあわせていく、
そういうスタンスで考えています。
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糸井 |
さきほど岸先生がおっしゃった
環境省ですが、
環境省はどう言っているんですか?
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細川 |
環境省は、瓦礫を埋めるということについて、
はじめは神経質なぐらいにやかましかったんです。
「瓦礫なんかを埋めて、
そこに植栽するなんて」
「そもそも瓦礫をマウンドにするのは
不法投棄になるからダメだ」
「メタンガスやそのほかの有毒なガスが
発生する恐れもある」
ほんとうにいろんな問題があります。
それは困ります、ということでした。
環境省とは、その点、いろいろ
やりとりがありました。
しかし、今回はやっぱり
大震災という特別なケースです。
西ドイツやオランダでもやったように──
ドイツのベルリンは第二次大戦で
爆撃を受けたあと、戦車でもなんでも
地中に埋めたわけです。
全部埋めた上に、今日の
森のベルリンがあるのですから。
毒性のもの、有害なものはもちろん
排除しなきゃなりませんが
あまり細かいことに気を使ってやってると、
瓦礫はいつまでも片づきません。
毒物を取り除いて使うこと、そしてまずは
丸太や倒木なら埋めてもいい、という指針が
6月14日に環境庁から出されました。
林野庁もそれでいきましょう、ということで、
それではじめて国としての方針が
決まったわけです。
私たちも、環境庁のお墨つきで
林野庁と一緒になって
やろうということになりました。
放射能の問題もありますから、
もしも危ないものがあれば、それは絶対に
排除しなければなりません。
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清順 |
瓦礫に植えることは、僕は
これはべつに、しかたがないことだと思います。
僕が東京都内で仕事させていただくとき、
掘ったら絶対に瓦礫は出てきますもん。
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岸 |
うん、出てきますよね。
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清順 |
もう、ゴミだらけですよ。
この下だって、そうです。
都市部はみんな、どこ掘っても瓦礫です。
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岸 |
1000年昔から瓦礫ですね。
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細川 |
そうでしょうね。
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清順 |
でかい土管とか、びっくりするものが出てきます。
なんでも出てきますよ。
今回の場合は、なにも
臭いものに蓋をするという考え方ではありません。
「ここに使うんですよ」「埋めますよ」
「有害なものは排除しますよ」と
きちんと言って、その上に木を植えるんですから、
すごく正々堂々としていています。
しかも、それが森ができるということに
つながっていきます。
すごくロマンチックだし、いいと思います。
それに対して環境省がなんだかんだって言ったら、
木を見て森を見ず、の類いの話になると思う。
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岸 |
例えば、代々木公園を掘ったら瓦礫があるかな?
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清順 |
見てみたいところですね。
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岸 |
きっと代々、やってきたことなんでしょうね。
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細川 |
そうでしょう。
神宮でもどこでも、みんな瓦礫は
あるんじゃないでしょうか。
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糸井 |
なんだか、緑のこと考えると、
地面のことを考えることになりますね。
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清順 |
そうなんですよね。
土の中がやっぱり重要です。 |
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(つづきます) |