第3回 おもしろいところ。

このプロジェクトの、植栽を施す
「マウンド」の考え方なんですが、
これは、平らな小規模の公園のような場所だと
うまくいくと思います。
埋め立て地に10mくらいの
丸いマウンドを作っても、
同様にうまくいくでしょうね。
横から散乱光が多量に入ってくるので、
宮脇先生のおっしゃるように、
地面に草が出て、低木、中木、高木、
きれいに生えそろうと思います。
ところが、そのマウンドの幅が
30m、50m、100mになってくると、どうか。
光がどうやって入ってくるのかを、
専門的に検証されていないのではないでしょうか。

木を密植して、管理を手薄にしてしまうと、
全部がモヤシ林になってしまう恐れがあります。
枝もなくモヤシのように育った木は
強風にさらされれば倒れてしまいます。
倒木の散乱するモヤシ林は山火事の危険も高いでしょう。
地べたも日が当たらず真っ暗ですから、
まったく保水力がなくて、
水は土とともに流出して
水害も起こりやすくなりますね。
清順 うーん、そうですね。
細川 そこのところは、財団のなかに
発起人としていろいろな考え方の人に
ご参加いただいているので、
よく検討、検証していかなければと思いますね。
少しずつ、プロジェクトの専門家と地元の考えを
すりあわせながら、
いいモデルができていくといいのかもしれない。
そりゃ、300kmは
つながらないかもしれないけれども。

糸井 どうもこれは、300kmの緑の防波堤を
いっぺんに作る計画に聞こえてしまいますが、
細川さんはそうじゃないとおっしゃっていますね。
細川 そうですね。
東北の海岸線はとても長いし、
複雑に入り組んでいる。
そりゃ、300kmも、一直線には
つながりませんね。
糸井 つながるというイメージは、
わかりやすいのですが、
そこはあんまり考えすぎないほうが
いいかもしれない。
ビジョンとして、わかりやすいんですけれどもね。
細川 さきほども言いましたように、
国有地、公有地、私有地が
入り乱れているということもあって、
全部をつなぐのは、
なかなかむずかしいと思います。
「つながる」というよりも、
点と線で、デコボコもあって、
ということでしょう。
ぽっこりとしたマウンドができたら、
そこから例えば少し離れたところに
また別のマウンドができる。
それをできるだけつなげていく。

そうですね。
極端なことを言ってしまいますと、
数年前、仕分けで話題になって
おおいに誤解されてしまった「スーパー堤防」と
似たものになるかもしれませんね。
糸井 「スーパー堤防」というのは?
「スーパー堤防」は、普通の堤防じゃ
ないんですよ。
川の脇に土砂でもって
安全で巨大な高台を作る、ということなんです。

「全部つながるのに何年かかりますか」
と、国交省に聞かれれば、
400年かかります、とか、答えるしかありません。
400年経たないと
つながらないものをどうして作るんだ、
そんなものは無駄だとなって
予算を切られちゃったわけですけど、
最初から全部つなげる気なんか、ないんですよ。

全部つながなくても、そこは
みんなが逃げてこられる公共の高台になる。
東日本で津波被害を受けたかなりの都市でも、
沿岸に再定住するとしたら、場合によっては
高台を作ろうという話があります。
例えば、高台の裾を
広大な森にしていくとすると、
ある高さの津波が来たときに、
「てっぺんはさらに安全」というようなことは
あると思います。

糸井 そういう「高台作り」のようなものと合わせ技、
という考えもあるのかもしれませんね。
そういうことです。
このミッションのおもしろいところを
うまくすくい出して、
限度を超えた無理はしないという采配を
細川さんがしていかれるのだと思います。
細川 はい。
いろいろな考え方も取り入れて
やっていきたいと思います。
糸井 その「おもしろいところ」というのは
わかりやすいから、
飛びついちゃうんでしょうけど。

そうなんですよ。
清順 うーん‥‥その
「おもしろいところ」という部分で、
ちょっと心配だったところがぼくにはありました。

例えばおっしゃるとおり、100万本の苗を
今年用意したとしましょう。
何平米に、何量目ぐらいの土を持ってくるのか、
ほんとうにその100万本の苗を
植える場所ができるのか、
そこが不安になりました。
ぼくは植木屋のはしくれで、苗を育てています。

さきほど岸先生がおっしゃったとおりで、
常緑樹で密植していくと、
木は、すごく根っこが弱くなります。
木はやっぱり、隣の木を意識するんですよ。
そうすると弱くなる。
太陽にしっかり当てて植えられた木は、
掘るのが大変なんです。
ぼくは、植木を掘り起こす機会が多い仕事なんで、
身をもって経験してるから、よくわかります。

「100万本植えないといけない」
という意識になってしまうと、どうしても
ピッチが短くなってしまうんじゃないかな。
「100万本」という数字が、
世の中には重要だったりするのかもしれない。
でも、森作りのうえでは、
どうなのかな、って思います。
細川 それはわかりますが、
財団としては事業計画なり予算なりというものも
対外的にも出さなければなりませんからね。

清順 震災後、津波の被害がひどかった土地に
いろんな企業や団体が支援活動をしました。
植物や緑や花で活動できることもあるはずだって、
たくさんのボランティア団体が
たちあがったんですよ。
ぼくも、お手伝いできることをさせていただき、
応えられることだけやらせていただきました。

でも、ある政治家が
「こんなときだからこそ、花を植えてください」
といって、花の苗をたくさん、
段ボールに何十箱と、被災地に送ったんです。
だけど被災された方々は、まだそのとき
自分たちのこともできない毎日でした。
植える場所もなければ水も貴重なときに
花の苗が届いて、
結局全部枯らしてしまったことがあったそうです。
その状況を見た人がすごく悲しかったと
おっしゃっていました。

やっぱり受け入れる「器」というか、
場所、人が必要だと思います。
100万本というと、
ぼくら若いもんでも「ギョッ」とします。
でも、その数字に
こだわっていくべきなのか、どうなのか、
と思います。

(つづきます)
2012-09-26-WED
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