第4回 できることのベストを狙う。
細川 まず今年は、海岸線50kmを
林野庁が植林するので、
我々はその後ろ側のほうを
やることになると思います。
それはそうとうな面積になると思いますね。

清順 そうですね。
細川 それは国がやるんですから、
ちゃんとやっていくでしょう。
しかし我々は、
「100万本植えなくちゃならない」と
思っているわけじゃないんです。
今後植栽の必要な場所が
どのくらいのスピードで
あがってくるかということに
関わっているわけですね。

ですから、その間に苗を作っておこう、
ちょうど100万本、今年は作ろう、
ということなんです。
清順 作った苗を、来年のしかるべき時期に
植えなかった場合、
それを養生する場所はあるんですか?

細川 そうですね。そのあたりはいま
あちこちお声がけしているところです。
企業でも、自分のところで苗作りをやりたいと
おっしゃっているところもあるし。
清順 あるでしょうね。
細川 植木屋さんとかお花屋さんとか、
学校とか、いろんなところで、
やらせてほしいといっておられるところが
けっこうあるんですよ。
それは、ほんとにありがたいことだと思います。
清順 木をあげたいとか植えたいという企業は多い。
企業はとにかく1年でも早く植えたいんです。
でも、被災地は「ありがたい話」といいながらも
国との難しい協議があったり
いろんな調整があってはじめて
苗を手にできたりします。
木をあげることはあっても、
それを実際に管理したり育てたりする人が
いないのではないか、ということが心配です。
糸井 そこは清順くんの本職だから
気になるだろうね。

清順 でも‥‥それがね、
いま細川さんにお話をうかがって、
ほっとしました。
これを苗作りから管理したいと言ってくれる企業が
いてるってことは、
ほんとにすばらしいことなんです。
それを聞けただけでもよかったなぁ。
細川 ええ。たとえば大槌町なんかでも
ある企業がマウンドを作るのに
穴を掘って瓦礫を積んで。
そこに植栽する苗木も全部
育てていただいた。
ほかの企業でも、やりたいと名乗りを
あげていただいているところもあります。
清順 いや、ほんとにね、
それがぼく、ほんとに心配で。
苗をあげたいという気持ちは
すごくありますから。
糸井 善意は集まります。
清順 そう。苗とか種はすぐに集まります。
ただ、そのあと管理するのがたいへんです。

苗を育てるって、わりと簡単なんです。
例えばこのテーブルの上に
1000粒ぐらいのどんぐりを植えて、
1年の実生を作るのは、
簡単にできちゃいます。
2年目の苗も大丈夫です。
でも、3年目はもう、ダメですね。
4年目になって数メートルになり、
引き取り手がなかったら
全部抜いて捨てるしかなくなる。
苗ってそういうものです。

苗はいくらでも作れる。
でもそれを植えた場所で、誰がどう管理をするか。
すごい人手と金がかかります。
いまプロジェクトがおっしゃってるような
自然淘汰では、むずかしいのではないでしょうか。
日当たりが悪いところはやはり
内側が枯れて、暴風雨にさらされれば
倒れてしまいますね。

帯状で幅が狭ければ、なんとかなると思います。
細川さんがおっしゃっている
「マウンド」も、とてもいい発想です。
ちいさな丸いマウンドに植えると、
360度から光が入ってきます。
ところが同じ幅を真っ平らにしちゃうと、
中心に光が入りませんから枯れますね。
植林地がでかくなればなるほど、そう。

糸井 でも、ちっちゃいと堤防の意味が減ります。
そこは難しいなぁ。
そうですね。
幅30m~50m、高さ15mくらいであれば
いいのかなぁ。
津波の高さによっては、
それではどうしようもない地域もあるでしょうし、
そんなに大きな堤防は必要ないよ、
というところもあるでしょう。
専門家が参加して細かい検討を始めると、
「ここはいりません」
「ここはできるかもしれません」
というような話になってくるんです。
そうなると、やっぱり
何がなんでも「ベルト」ということに
こだわらないほうがいいと思います。
高台を作って、そのスカートの裾の
フリンジの部分を落葉樹も含めた広葉樹で
うまくやるといいんじゃないでしょうか。
糸井 「建築家」がいて「工務店」がある。
「工務店」にあたる人のことを
計算に入れないといけませんね。
そうかもしれないですね。
現場、施工管理できる人。

糸井 そこがじつはミソですね。
それは国が
やるわけにはいかないんでしょうか。
国の出先の事務所にいる、経験の豊富な人が、
発言できる環境であれば、
うまくいくと思います。
細川 国の機関、林野庁でしょうけれども、
それはおそらくはじめてのケースだと
思うんですよ。
糸井 そうなんですか。
細川 たとえば「裾野」をやるなんてこと、
いままではあまりなかったことでしょうね。
松を植えるだけという話だったでしょうから。

そうですね。
ビジョンも大切ですが、
できるかどうかは、また別です。
できることはできる、というのはわかります。
その、できることの中のベストを狙う。
それにはやっぱり細川さんみたいな
政治家のセンスが必要です。
支えてくれる人たち、現場の人たち、
いろんなことの調整をしていきながら
進んでいくのだと思います。
(つづきます)
2012-09-27-THU
まえへ 最初から読む つぎへ
感想をおくる ツイートする ほぼ日ホームへ