第5回 まだらの森。
清順 津波のあと、陸前高田の松原へ
案内していただきました。
そこでは、海辺の松の根っこが
1mぐらい下がっていました。
あれを見ていると、松って、
あるべくしてあそこに植えられてたんだな
ということが、よくわかります。
広葉樹じゃ絶対育たないような環境です。

細川 やっぱり海岸べたの、
潮風の強いところですね。
そうですね。
そこではたしてタブがもつかとかというと、
わからないと私は思います。
エノキなどは落葉樹ですが、
潮に強いので、大丈夫かもしれない。
清順 地下水面のことも関係があります。
広葉樹は太い根っこがあって強い、というのも
それは地盤ありきだと思います。
だから、エッジのほうではやっぱり
松になるのかな、とぼくも思います。
細川 地下水面は、確かに問題ですね。
清順 そうなんです。
ただ、まだ松の場合は、
横に根が長く張りますから、
タブなどの広葉樹とは、違います。
そういう意味でも、松は実績があって、
美しさももちろんあってね、
信仰の対象になってきたと思うんです。
もちろん、防砂林という役割もあったし。

僕は黒松については、
そんなにくわしいことは知らないんですが
山の中の仕事が多いので、
赤松については付き合いが長いんです。
丘陵地のどうしようもないところに生えているのは
たいてい赤松です。
ガレ地のようなところに定着する
松の力ってすさまじい。
黒松は、海岸線に大規模に自生していたかどうか
私はわからないですけれども、
案外あったんじゃないかな、とも思います。

いま、この森の長城プロジェクト
うたっている「潜在自然植生」についても、
植林のターゲットになっている場所に
タブその他の常緑広葉樹が
そもそもかつて極相としてあったかどうか、
学術的にも難しい問題だと思うんです。
清順 その「潜在自然植生」が
何年前のことまでを指しているのか、
ぼくはちょっと疑問に思うんです。
例えば100年前、200年前にあった、
というものなのか、
1万年前からあったものを指すのか。
そこが重要だと思います。

例えば海外で調査して、
「こんなのが自生でもともと生えていたよ」
と言われるんですけれども、
それがほんとうなのか、わからない。

それがたとえ100年前から
あったものだとしても──いや、
いってみれば、世界中どこでも、
「100年前に人が植えたもの」だらけ
なんですよね。
ただたんに、そうなんです。
200年前、300年前も同じこと。

そのあたりは、
花粉分析という手法を使って
1000年、数千年の過去の植生を
調べる分野なんかがありますが、
調べだすと、そんなにきれいにならない
というのがわかります。
例えば関東地方の平野で
寒いところに生えていたのはほとんど
シラカシだと言われます。
しかし調べればたぶん
あっちにもこっちにも落葉樹の林があります。
当たり前の話なんですよ、
雷が落ちて山火事も起こり、
大雨で大規模な土砂崩れもあり
森の一定の割合の面積は、
確率的にいって
いつも焼け野原や荒地に決まってる。
そこが草地、雑木林と再生されるわけですから、
全部が単純な遷移の理論で予想される
極相林になることはあり得ない。
いつも「まだら」、それが当然なんですね。

だから、その地域で
「シラカシが偉くて落葉広葉樹が偉くない」
ということではないんです。
様々な条件に対応して
常緑のカシや落葉樹がすみわけ、混在してるだけ。
理論生態学の領域では、
単純な遷移説は
もうほとんど権威がないと思います。

だからこそ、いろんな意見を取り入れて
柔軟に進めてゆくのがいいですね。

清順 例えば落葉樹だって、
取り入れるべきなのかもしれませんね。
落葉樹があることで、葉っぱが落ち、
土をよくして、広葉樹を強くする。
広葉樹のプロジェクトが、
落葉樹があることによって
よりいっそう強いものになるかもしれない。
そうですね。
300kmのベルトの長城を作るというのは
突出したビジョンとして
とてもわかりやすいですが、
細川さんがおっしゃるように、
「できるところからポイントでやる」
「場合によっては高台の
 スカートの部分をやる」
「黒松でやりたいところは黒松中心に」
清順さんがおっしゃるように
「落葉樹があってもいいじゃないか」
というところがあればそうする。
そうしたモディフィケーションが加わって
いい展開になるのがいちばんいいと思います。
糸井 そうだと思います。
細川 ええ。林野庁のやり方と
ミックスしていけば、
そうならざるを得ないでしょうね。
糸井 あと、あのあたりは
港がけっこうたくさんありますからね。
港を活かそうと思うと、
マウンドを作っている場合じゃないというのも
わかります。

細川 やっぱりその場合は
コンクリートでいくというところもあるでしょう。
糸井 うん、そうですね。
(つづきます)
2012-09-28-FRI
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