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動物に対する、カスカの人たちの
感謝や愛着、リスペクトを感じるのって、
どういうときですか。
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山口 |
やはり「決して無駄にしない姿勢」ですね。
野生の動物の肉は
本当に、残さず、きれいに食べるんです。
冷凍の野菜なんかは
案外「ペッ!」て捨てちゃったりするのに。
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── |
そうなんですか(笑)。
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山口 |
どうしても食べきれずに残ってしまったら
保存食にしたり
飼い犬に与えるとかして、
ゴミ箱に捨てる場面は見たことありません。
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── |
野生の恵みとは、それほど特別であると。
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山口 |
みんな
「動物たちのおかげで、生きているんだ」
「私たちは
パート・オブ・ジ・アニマルだ」って
いつも言ってます。
あれは、「おそれ」に近い感覚だと思う。
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── |
おそれ。
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山口 |
きちんと食べるために動物を殺すのなら、
問題はないんです。
だけど、一発で仕留めずに怪我させたり、
食べるためじゃなく
ただ虐めたりするのは、すごく悪いこと。
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── |
なるほど。
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山口 |
以前、一発で仕留めるのは無理な距離から
遊び半分に
ビーバーをバンバン撃った若い人がいて
案の定、仕留められずに
ビーバーの歯が折れちゃったことがあって。
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痛そう‥‥。
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山口 |
怪我を負ったビーバーは
「ギャッ」とか言って逃げたらしいんです。
そうしたら次の日に、
その人が、転んで同じところの歯を折った、
みたいな話はしょっちゅう聞きます。
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── |
因果応報、ということですか。
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山口 |
悪いことをしたら自分に返ってくるし、
そもそも
動物のほうが人間より「知って」いる。
カスカの人たちは
「動物には
隠しごとができないから困る」とか、
よく言ってますね。
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お見通しなんですね、人間のことを。
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山口 |
そうそう。狩猟に関しても、同じです。
カスカの人たちは
「動物が獲られに来てくれるんだ」と
考えているんです。
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── |
つまり、ヘラジカやビーバーは
撃たれるのを知っていて、撃たれてる?
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山口 |
そう、自ら「獲らせて」くれている。
自分たち人間が強いから、
かしこいから、武器を持っているから
動物を殺せたんじゃなく、
動物のほうが
殺されるのを許してくれてるんだって。
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── |
だからこそ、
動物に対する感謝や尊敬の気持ちが
芽生えるんでしょうか。
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山口 |
そうなんだと思います。
これ、ヘラジカの肺と鼻を結んでいる
「気管」なんですが‥‥。
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── |
はい。
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山口 |
ヘラジカの身体を解体し終わった古老は
こうして、
森の木の枝にぶら下げておくんです。
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── |
何のために?
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山口 |
はじめは、わたしも気づかなかったんです。
でも、解体されたヘラジカの身体を
スケッチしていたら、
この気管の部分がどこにも見当たらなくて。
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── |
森の木の枝に、ぶら下がっていた。
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山口 |
なので、どうしてこうするのって聞いたら、
この部分には
まだヘラジカのスピリットが残っている、
こうしておけば
風が通り抜けてヘラジカが息を吹き返し、
肉や毛皮を再び身につけて
また、ハンティングされに来てくれるって、
そう言ってました。
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── |
おもしろいですね。
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山口 |
カスカの人たちとヘラジカとの間には、
そのような、
「循環する関係」が築かれているんです。
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── |
なるほど。
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山口 |
あるいは、
ヘラジカでもビーバーでもウサギでも、
調理するときには
かならず彼らの「目玉」を取ります。
そして、ヘラジカの気管みたいに
森のなかだとか
裏庭の藪のなかにポッと置いてくるんです。
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目玉を?
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山口 |
わたしたちには理解にしくいんですけど、
カスカの人たちって
たとえばヘラジカならヘラジカが
「個体であると同時に、群れ全体でもある」
という考えを持っているんです。
そして、それぞれの「目玉」を通して
全体で情報共有をしているというんです。
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── |
へえー‥‥。
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山口 |
なので、自分のからだが焼かれたり、
ゆでられたりする場面を
その「目玉」を通して見せるのはよくない。
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── |
だから取って、森に還す。
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山口 |
わたしが
まだ目玉のついた頭蓋骨を手にしただけで、
おばあちゃんが慌てて
「それ、ちゃんとしとかないとダメだから!」
とか言って取り上げちゃうくらい。
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そんなに厳しいんですか。
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山口 |
動物から恵んでもらった「贈り物」だから
決して無駄にしないし、
還すべきものは、きちんと森へ還す。
カスカの人たちと動物とは、
そういう「ありがとう」という関係性で
ずっと、つながってきたんです。
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── |
カスカの人たちの考え方に触れてから、
「食べる」ということについて、
何か、意識とか感覚が変わりましたか?
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山口 |
わたし、ちいさいころから
動物のこと、本当に大好きだったんですけど、
「動物を食べる」ことについては
なんというか‥‥抵抗がなかったんです。
かわいいとか、かっこいいとかと同じく、
「食べておいしい」のは、
その動物の「大きな魅力のひとつ」だなって
ずっと思ってきたんです。
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── |
ええ、ええ。
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山口 |
その感覚は正直なものだったんですが
でも、たとえば
「動物が好きなのに、食べちゃうの?」
みたいな質問をされたときには
どうにも、
うまく説明がつかないなと思っていて。
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── |
なるほど。
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山口 |
でも、カスカの人たちと暮らしてみて、
彼らが
「動物の生命を奪って食べるんだけど、
動物にすごく感謝していて
動物のことをすごく尊敬していて
動物のことが大好きなんだ」ということを知り、
それまで
どう説明していいのかわからなかった感情に
「あ、こういうことなのかな?」
と整理がついたんです。
なんというか、
「動物が好きなのに、動物を食べることって、
変なことだったり、
悪いことだったりはしないんだなあ」と
思えるようになったんです。
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── |
ふだん、肉を消費するだけの自分なんかは
スーパーで売ってる豚バラ肉と
ブヒブヒ言ってるかわいい子豚とは
ほとんど自動的に
切り離して考えているような気がしますが、
カスカの人たちにとっては、
そこが、一直線で繋がってるんですもんね。
森で出会って、撃って、解体して、
干して、調理して、食べているわけだから。
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山口 |
「あのビーバーかわいいし、おいしそうだね」
って言ってるのを聞くと
「え? あなた本当に動物が好きなの?」と
言われそうなんですけど
カスカにとっては、両立する気持ちなんです。
かわいかったり、かっこよかったり、
足が速かったり、愛嬌があったり、
そういう
動物に対するポジティブな気持ちのひとつに
「おいしい」っていうのも、ある。
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そこに、山口さんも共感している‥‥と。
何せ、カスカの人たちが
「決して、いたずらに殺さない」ことに
尊敬の気持ちを覚えます。
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山口 |
うん、そうですね。
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野生の恵みを無駄にしない、という姿勢に。
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山口 |
ですから、カスカの人たちにとっては
「キャッチ・アンド・リリース」
というのも、ちょっと理解できないんです。
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── |
あ、そうか。
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山口 |
彼らにとっては
せっかく「獲られ」にきてくれた魚を
釣り上げておいて、また川へ戻すというのは
贈り物を受け取ったんだけど、
「やっぱり要らないや」って言ってるような
ものなので。
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── |
なるほど。
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山口 |
そうやってカスカの人たちは、
動物を、自分たちの大切なパートナーとして
暮らしてきたんです。 |
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<つづきます> |