糸井 |
やっぱり、写真からぜんぶがはじまるんですね。
撮れた1枚の写真のなかに、すべてがある。
いちばん重要なのは写真なんですね。
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ウィック |
そのとおりです。
やっぱり、突き詰めていくと、
写真家としての自分がいちばんです。
前提としては、前後のページと
きちんとつながりがあったり、
ゲーム性があったり、
物語性があったりという要素も
違ったレベルでもちろん大事なんですけど、
ぜんぶのなかで大事なのは写真です。
写真だけを飾って、
ことばも、ものを探す遊びも抜きにして、
それ単体で自分が満足できるような
ものでなくてはならない。
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糸井 |
なるほど、なるほど。
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ウィック |
私の写真は、美術の厳格な決まりというか、
伝統みたいなものに
沿っているものではありません。
なぜなら、自然主義的な感覚といいますか、
ありのままにしたいんです。
こういう部屋がほんとにあるんだなと
信じられるような感じに。
自然な写真であるために、
ドラマティックな構図が
犠牲になってもかまわないんです。
もっというと、そういうふうに撮ることこそが、
自分の特別なところなんじゃないかな、と。
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糸井 |
ぼくは写真については素人なんですが、
おっしゃっていることにはすごく共感します。
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ウィック |
ああ、うれしいです。
だから、私の写真を子どもが見たとしたら、
つくり込まれたものだと
思ってほしくないんです。
そうじゃなくて、どこかにこういう世界が
あるんだな思えるような、
そういう写真にしたいんです。
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糸井 |
だからこそ、読む人は、
その写真に没入することができるんですね。
目の前の写真に写った世界を
自然なものとして受け止めたからこそ、
そのなかで安心して
「あれはどこだ?」と探すことができる。
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ウィック |
そうですね。
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糸井 |
写真から、はじまるんですね、やっぱり。
ことばも写真から導かれるし、
写真に写らないものをいくら準備しても無駄だし、
写真以外のものは、変えることもできる。
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ウィック |
まったくそのとおりです。
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糸井 |
この本にとって、たった一つのルールが
写真なんだっていうことがよくわかる。
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ウィック |
はい。
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糸井 |
だからこそ、その写真を撮るということは
たいへんな作業なんでしょうけど。
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ウィック |
そうですね。
思いついて、ストーリーボードを描いて
作業をはじめたときは
とってもたのしいんですけど、
工程が進むにつれて、追い詰められてくる(笑)。
実際に撮影しようとすると、
ストーリーボードにはいろんなものが
抜け落ちていることがわかるんです。
だから、模型もできて、
ほとんどの要素がそろってるのに、
たった1センチ四方の場所がうまくうまらなくて
そのプロジェクト全体が
危うくなってしまったり‥‥。
そんなときは、もう、すべてを
投げ出してしまいたくなります。
だって、6人のスタッフを雇ってて、
彼らがスタジオで私の指示を待っているのに
私は1センチ四方の場所をどうすればいいのか
わからなくて悩んでいるんですから。
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糸井 |
まさに、作家の苦悩ですね。
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ウィック |
最新刊の『タイムトラベル』でも
ずいぶん苦労しました。
たとえば、ストーリーボードを描いたときには、
このあたりをどうするか、
まったく決めていないんです。
けっきょく、手伝ってくれたアーティストが
つくり込んでくれたんですけど。
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糸井 |
あ、ここにつかってるのは
ババロアの型かなにかですね。
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ウィック |
そうです、そうです。
同じものをここでもつかってます。
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糸井 |
これも、最初は決まってなかったわけですね。
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ウィック |
そう。なんか、いろいろやっているうちに
これに落ち着きました。
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糸井 |
おもしろいなぁ。
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ウィック |
(笑)
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糸井 |
ウィックさん、仕事はたのしいですか。
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ウィック |
ええ、たのしいです。
苦しいところ、投げ出したくなるところを
なんとか乗り越えて、ひとつひとつのものの
置き方、構成を決めていく‥‥。
それはもう、私にとって、純粋なよろこびです。
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糸井 |
ああ、いいですねぇ。
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ウィック |
どのオブジェクトを、どこにどう置くか。
小さな要素をひとつずつ検証して、
ぜんぶの位置を決めていく。
そういうこと、大好きです。ずっとやってられます。
‥‥ああ、いま見てたら、
ここの写真の、ここのブロックを
もう少し減らせばよかったかな‥‥と‥‥
いや、まぁ、いいんですけど。
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糸井 |
ははははは。
もう、最後の質問にしますけども、
ウィックさんが『ミッケ!』に
つかっているエレメントのなかで、
一番好きなものはなんですか?
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ウィック |
‥‥「ビー玉」ですね。
ほら、ここにもあります。
ここにも、あちこちにある。
たぶん、何年も何年も前から、
私の写真のなかにずっと登場していると思います。
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糸井 |
ああ、ビー玉かぁ。
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ウィック |
ビー玉って、それだけでひとつの惑星のようで、
覗き込むと、そのなかに
独自の宇宙が広がっているようで。
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糸井 |
うん、うん。
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ウィック |
私はやっぱり、シンプルなものが好きなんですね。
単純な積み木のブロックとか、素朴なオモチャ。
最近のオモチャは、遊び方とか目的が
はじめから規定されているようで
あまり好きじゃないんです。
なんというか、もっと広がりのあるものがいい。
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糸井 |
ぼくもまったく同じですね。
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ウィック |
ああ、そうですか。
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糸井 |
ぼくは、「ボール」がいちばん好きなんですよ。
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ウィック |
ああ、ただのボール。はい。
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糸井 |
ボールはなんでもできる。
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ウィック |
うん、いいですね。
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糸井 |
ビー玉も同じですね。
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ウィック |
そうです、そうです。
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糸井 |
いや、とってもおもしろいお話でした。
『ミッケ!』のシリーズって、
あと何冊くらい続くんだろう?
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ウィック |
わかんないですねぇ(笑)。
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糸井 |
(笑) |
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(お読みいただき、ありがとうございました。) |