- 糸井
- おまたせしました。大学卒業しました。
人形劇やめました。
- ミロコ
- やめました(笑)。
でもやっぱりお話が作りたくて。
そのころもたくさん絵本を読んでいたので、
絵本を作りたいなあと思ったんです。
私がお話をつくって、
人形劇団時代の絵がとくいな子と
一緒に作ったりしました。
でも、なんかうまくいかなくて。
相手がぜんぜん思ったとおりの絵を
描いてくれないんですよ。
「もっとこう描いて」とか言うと、
「そんなんじゃ私の絵じゃない」と言われる。
自分はなんでこんなに注文をつけるんだろうと考えたら、
きっと「こういう絵がいい」という
想像はできているんだろうなと思いあたったんです。
じゃあちょっと描いてみるかと思って描いてみたら、
まあ、ヘタなりに納得がいったんですよね。
「あ、これこれ、こういうの作りたかったんだ」って。
- 糸井
- 絵の具を買いに行って?
- ミロコ
- ううん。はじめはその辺にあったマジックペン。
- 糸井
- マジック。じゃあまだ「絵を描く私」のことを、
そのときは自分で信じてなかったんだね。
- ミロコ
- そうかもしれない。
まあ、そのへんにあるもので描くというのは
むかしも今も変わらないです。
『つちたち』のラフも、
そのへんにあった紙に描いてますし(笑)。
- 糸井
- 「なんでこんなに注文つけるんだろう。
私にはそういうイメージがあるからだ」。
それ発見したって、なんかすごいね。
そうか、いまやっと「ミロコマチコ」が生まれたんだね。
- ミロコ
- はい、生まれました。
- 糸井
- それは何を描いたの?
- ミロコ
- 『カメピョン』という絵本です。
- 糸井
- よろしいですなあ(笑)。
- ミロコ
- カメ人間の話。
「ぼくら家族はカメ人間」っていう。
- 糸井
- ‥‥よろしいですなあ(笑)。
ちょっと人形劇にも向いてそうですね。
- ミロコ
- そうですね。
うちでカメを飼ってたんですよ。
カメってご飯食べながらウンチしたりするんですよ。
だから
「おねえちゃんは おにぎり食べながら
ウンチしちゃう」
みたいなこと書いて(笑)。
- 糸井
- ああ、なんか全体に暇つぶしのにおいが。
塾でみつあみを見ているような感じがありますね。
- ミロコ
- そうですね。
- 糸井
- 「カメってかわいい」とかじゃなくて、
カメ見てて、
「あ、ウンチした。あ、食べてる」みたいな。
- ミロコ
- 「こうらがはがれました おとうさん」とか。
- 糸井
- ああ‥‥。
『カメピョン』。
それが幻のデビュー作なわけですね。
自分だけが見た絵本ですね。
- ミロコ
- そうですね。
- 糸井
- 気に入ってるの? それ。
- ミロコ
- そのときは気に入ってましたけど、
いまはちょっと恥ずかしい。
- 糸井
- 捨ててはいない?
- ミロコ
- うん、捨ててはいないと思う。
実家のどこかにあるかもですね。
でも、いまのところは誰にも見せたくないです‥‥。
- 糸井
- 想像上の『カメピョン』は面白いです(笑)。
人に見せるには何が足りないんでしょう。絵ですか?
- ミロコ
- やっぱり、描き始めたころの絵が恥ずかしいです。
- 糸井
- 描けるか描けないかもわからないのに
描いちゃった絵ですからね。
でも、それは、
いまにも通じるような絵なんでしょうね、きっと。
- ミロコ
- いや、どうですかね。
でも、あんがいそうなのかもしれないですね。
ちょっと、『ニンジャ・タートルズ』を
かわいくしたみたいな絵です。
手足が人間で、こうらを背負ってて、
顔はカメっていう。
- 糸井
- なんか見たくなりますね。
- ミロコ
- やめときましょう。誰かが捜索に来たらこまる。
- 糸井
- でも話を聞いているだけで、
ついつい引き込まれる要素がありましたよ。
- ミロコ
- ほんとうですか。
『カメピョン』は封印しますけど(笑)、
カメの絵本はいつか作りたいです。
- 糸井
- そのときはなぜ絵本を描いたんですか?
描いて自分で見てしまえばそれでいいんですか?
- ミロコ
- ちょこっと友達に見せたりして、もう満足。
そのころは絵本のコンペがあることさえ知らないので、
どうしたら絵本作家になれるんだろうと。
- 糸井
- もう絵本作家になろうかなと思ってたんだね。
- ミロコ
- なりたかったです。
でもその方法がさっぱりわからない。
大学も卒業したし、何かやらないと怒られる。
実家が会計事務所なので、
親からは実家で働きなさいと言われました。
それで、23歳の1年間は仕事をせずに
絵本をつくりながらずっと簿記の勉強をしていました。
- 糸井
- じゃ、もしかしたら簿記の道に行く可能性があったんだ。
- ミロコ
- ううん。
- 糸井
- え、ない?
- ミロコ
- ないです。
- 糸井
- 親にとっては、あったんでしょう?
- ミロコ
- 親は、あったかもしれないですね。
- 糸井
- で、させてたわけでしょ、簿記の勉強も。
実家は会計事務所でしょ?
- ミロコ
- そうです。
- 糸井
- 逃げられないじゃないですか。
またあの塾の時代と同じで。
- ミロコ
- ああ、しまった。もうそのとき23歳やのにね。
- 糸井
- ねえ。いつもワナにはまってますよ(笑)。
- ミロコ
- そうですね。でも、簿記はけっこう好きですね。
- 糸井
- どっちなんだ(笑)!
- ミロコ
- いや、その仕事には就きたくないけど、
勉強はすっごい面白かったです。
ちゃんと日商簿記2級と全商簿記1級をとりました。
- 糸井
- 昼は簿記の勉強して、夜は絵本をつくって。
- ミロコ
- はい。
実家の会計事務所はその資格が取れたのち、
23歳からお手伝いをはじめました。
それでもらったお給料で、
やっと絵本の学校に通いはじめたんです。
学校というか、週1回ぐらいの塾みたいな感じの、
趣味で来ている人もいるし、
本気でプロになりたい人もいるし、
というようなところでした。
(つづきます)
2016-2-23-Tue
© Hobo Nikkan Itoi Shinbun.