- 糸井
- 絵本の学校に行ってたころは、
実家にいたわけだから、
学校は大阪?
- ミロコ
- 大阪です。
その学校に行ってはじめて、
絵本のコンペというものがあることを知ったんです。
だから学校に行ったのはすごいよかった。
- 糸井
- よかった(笑)。
そこではみんなで切磋琢磨するんですか?
- ミロコ
- いや、何もないです。
へんな学校で、自由にしていていんです。
「私はデッサンがやりたい」
「私は絵本つくりたい」とか、
みんなバラバラに好きなようにやってる。
教えてほしい人は聞けば先生が教えてくれるけど
私の場合はひとりで突き進んでいくタイプだったので
あまり教わらず、
先生も絵本作家だったんで
「僕もつくる」って絵本をつくってたりして、
たまに私の絵を見て
「いいよ。すごくいいよ」とかいう(笑)。
- 糸井
- でも、月謝は取るんですよね。
- ミロコ
- 月謝は取ります。
- 糸井
- 「いいよ」って言いながらね。「いいよ」代ですね。
- ミロコ
- そうですね。はげまし代。
- 糸井
- じゃ、そこで手ごたえは出てきたんですか?
- ミロコ
- うーん、手ごたえはそんなになかったんですけど、
24歳のとき、学校に通って2年目に
青山のピンポイントギャラリーが主催している
絵本コンペに応募したら入選したんですよ。
- 糸井
- おお!
- ミロコ
- そのときに描いていた絵は
いまとぜんぜん違うんですけど、
とにかく入選したので東京で展覧会ができる。
それで、泣きながら東京に行きました。
- 糸井
- なんで泣いたんですか?
- ミロコ
- 猫とこんなに長くはなれるのは初めてだと思って。
- 糸井
- 意外な伏兵が出てきた!
こんなに話しているのに、
いままで一回も出てきてない猫が(笑)。
- ミロコ
- そうなんです。猫がいたんです。
- 糸井
- 展覧会は何日も家をあけるんですか。
- ミロコ
- まあ、1週間ぐらいでしたかね。
- 糸井
- 個展だったんですか?
- ミロコ
- 優勝者は個展なんですけど、私は入選なので、
3人のグループ展でした。
- 糸井
- みんなが観に来るわけですよね。
- ミロコ
- そうです。
絵本のコンペなので、
絵本の編集者さんがいっぱい見にきてくれて、
それを足がかりに出版する人もいました。
私は、その絵本は
出版につながらなかったんですけど、
またべつのギャラリーを紹介してもらって。
- 糸井
- じゃ、絵本作家への道を歩いてる実感は、
もうもったね?
- ミロコ
- うーん、どうでしょう。
コンペ応募用紙の職業欄にはずっと
「事務員」って書いてました。
会計事務所のファックスに、
ギャラリーの地図を送ってもらったりしていました。
- 糸井
- そうか、まだ。
でも、自分ちが会社なのはべんりですね。
- ミロコ
- そうなんですよ。
めっちゃ昼寝とかしてました(笑)。
家が5階で、2階が事務所なので。
あと、犬がいたので‥‥。
- 糸井
- ‥‥え?
- ミロコ
- 犬。
- 糸井
- 犬、また急に出てきた(笑)。
- ミロコ
- いたんです。
「ちょっと税務署行ってきます」と言って、
犬を車に乗せて、
「あの公園行きたいやろ。
車でしか行かれへんで」って、
遠い公園へ連れて行くんです。
- 糸井
- どんな犬?
- ミロコ
- 柴犬の毛が長いような風貌で、雑種なんですけど、
キミちゃんっていう名前。
もう亡くなってしまったけど、
めっちゃかわいかったです。
- 糸井
- 遠くの公園に行ったんだね(笑)。
- ミロコ
- そう、もうキミちゃんからしたら夢の公園。
徒歩ではいけないから。
- 糸井
- そうですね。
‥‥遠さっていう概念が犬の中にあればね。
- ミロコ
- あっ、そうか(笑)。ないんかな。
- 糸井
- ミロコさんの話には、
ついツッコミを入れたくなるようなことが
ありますね。
うまいところに隙間をつくってるというか(笑)。
ボケるぞっていうんじゃなくて、
先にボケといて、
誰かがツッコんだことで話が進むみたいな。
- ミロコ
- ああ‥‥。
まさかツッコまれるとは思わずに
話してるのに(笑)。
- 糸井
- だってさっき、猫が急に登場して、
犬もとつぜん出てきた。
感動しましたよ。
- ミロコ
- そうですか(笑)。
- 糸井
- 猫、それまで一回もいなかった。
- ミロコ
- いや、いたんですよ、ずっと後ろには。
私の話の背景にはいたんです。
たまたま、前にきてなかっただけで。
- 糸井
- はははは。
(つづきます)
2016-2-24-Wed
© Hobo Nikkan Itoi Shinbun.