- 糸井
- コンペに入選して、グループ展もやって、
でもまだ「絵本作家になるぞ!」という野望は
強く持ってはいないんですか?
- ミロコ
- そうですね。
まだちょっとぼんやりした夢の話みたいな感じでした。
その頃、初めて絵本の編集者とかには会ったけど、
人だから、ただの。
- 糸井
- うん、そうですね。
絵本の編集者だけど、人だからね(笑)。
- ミロコ
- 絵本のかたち、してないですからね。
- 糸井
- うん、絵本じゃない。
それは僕、ものすごくわかる。
だいたい、人なんだよね(笑)。
- ミロコ
- そう、人なんですよね。
- 糸井
- でもやる気はあるんですね。
で、どんどん絵本を描いてたんですか。
- ミロコ
- それがですね、なんと、描かなかったんですよ。
- 糸井
- ああ、また意外な‥‥(笑)。
- ミロコ
- 一枚絵の展覧会をしないかって話がきて。
- 糸井
- へぇー。
- ミロコ
- で、絵本とはまったく関係ない展覧会をはじめて、
そしたら数珠つなぎに
「次はうちでやってくれませんか」というのが増えて。
3、4年、絵本を1冊も作らなかったです。
- 糸井
- ああ。絵を描いてたんだね。
楽しかったんですね、それが。
- ミロコ
- すごい楽しかったんです。
- 糸井
- 画材はそのへんにあるものですか。
- ミロコ
- なんと、さかのぼりますけど、
絵本の学校に行ったときにアクリル絵の具を知って。
人の絵本を見て「この絵の具を使いたい」というと、
先生が教えてくれたんです。
「これはね、アクリルっていうんだよ」って。
- 糸井
- それはそうだよね(笑)。
じゃあそこでいろんな画材を知った。
- ミロコ
- アクリルの他は水彩やオイルパステルくらいかな。
でもアクリルで描いてみたら楽しくて、
そういう絵を続けました。
学校では「画材」と「コンペ」の存在を知ったんです。
- 糸井
- もともと何も知らなかったところから、
画材屋に行ったりして、筆だのなんだの、
いろんな道具が手に入っていくわけですね。
- ミロコ
- そうですね。
でも筆も、
アクリル用とか水彩用とかはどうでもよくて、
私は水彩用の筆でアクリルも油絵の具も使っちゃう。
かたさが重要なんです。
だから、お店でも筆先をさわりたいんだけど、
だいたい新品はのりづけされているから、
ほかのお客さんがさわって崩したやつを、
「やった、これこれ」ってさわって選びます。
- 糸井
- さわって選ぶ。
いまは、ある程度画材は安定したんですか?
- ミロコ
- 決まってないです。
毎回画材屋に行って、
「この柄が緑色のがカッコいい」とかで選んでます。
- 糸井
- なかには高いのとかあるでしょう。
- ミロコ
- あるんです。だから、気をつけてください。
- 糸井
- ああ、気をつけます(笑)。
- ミロコ
- きっと高いなりの理由があるんですけどね。
それを5本とか買ったら、
レジで引っくり返らないといけなくなる。
- 糸井
- 画材屋さんも、営利でやってますからね(笑)。
じゃあしばらくは絵本じゃなくて、
絵を描いていたわけですね。
- ミロコ
- はい。
絵の展覧会をずっとやっていたら、
あるとき、大阪のとあるギャラリーの人が
「きみは本当は何がやりたいのかな?」って。
- 糸井
- いたいところをつくね(笑)!
- ミロコ
- なぜそれを聞いてきたのか、
そんな不安定な絵を描いていたのか
わからないんですけど、
「あ、私、絵本がやりたかったんだ」って
思い出したんです。
「絵本がやりたいんです。
でも展覧会がいっぱいあって、
絵本を作る時間がとれないんです」って言ったら、
「じゃあ、絵本の原画展にしちゃえばいいんだよ」って。
その大阪のギャラリーで絵本の原画を展示して、
自費出版みたいな形で出した。
それが、2010年かな。
- 糸井
- ついに。
じゃあはじめてグループ展をやってから
ずいぶんと絵の展覧会をしていたってことですね。
- ミロコ
- そうですね。ずーっとしてました。
- 糸井
- そうやって多くの人がたのんでくれるってことは、
いいと思っているわけだから、
すでにちょっとプロですよね。
展覧会は、ちゃんとギャラをもらっていたんですか?
- ミロコ
- なんと展覧会は、
絵が売れないと売り上げがあがらないので、
お金はもらえないんですよ。
なので売れなければ、
ギャラリーとかけおち‥‥じゃないや、
心中みたいな感じです。
- 糸井
- 売れることは売れるんでしょう?
- ミロコ
- いや、ちょこっとでした。
会計事務所でも働いていたし、
上京後はバイトもしていたので、
生活費はぜんぶ絵ではない仕事でかせいでました。
- 糸井
- その時期はまだ、いまとちがう絵なんですか?
- ミロコ
- いや、ちょっと動物も描きはじめて。
東京にきたころくらいに、
いまのような動物を描きはじめて、
それから少しずつ売れてきましたけど、
まだ生活になるほどではまったくない。
- 糸井
- そんなものなんだ。
- ミロコ
- はい。展覧会はどんなに多くても
2、3ヶ月に1回しかできないですし。
- 糸井
- そうだよね。
毎日描いてたって、
そんなにできるものじゃないですよね。
- ミロコ
- はい、でもしんどいとは思ってなかったです。
いま思えば、ギャラリーの人には
もうしわけなかったですけど。
- 糸井
- それが5、6年続いた。
さあ、やっといまの「ミロコマチコ」にたどりつく。
- ミロコ
- ね。もうそろそろたどりつきますよ。
- 糸井
- そうですか。楽しみです(笑)。
(つづきます)
2016-2-25-Thu
© Hobo Nikkan Itoi Shinbun.