第3回センスがなくても

恥ずかしくない。

光浦
死後にこの作品たちが世に出てきたら
「おもしろい」ってなると思うんですけど。
──
死後のおもしろさ、ですか。
光浦
たとえば、誰からもオファーされていないのに
ブローチの写真やエッセイをまとめて
ホッチキスで製本していた作品集が
死んだ後に出てきて、
「こんなものつくろうとしてたんだ」って。
──
世の中に気づかれるんですね。
光浦
そうです。

「おもしろいぞ」って気づかれる。

──
「そこまでやっていたのか!」と。
光浦
けれども、今の私は自分からちょっと出てきて
「評価してね」ってやっている時点で
ゲスいんですよ。小物。
──
そんな。
光浦
でも小物で下品だということを、
ちゃんと自分でもわかった上での
見せかたをしとるつもりなんです。
──
はい。
光浦
「笑っていいんですよ」って。

光浦
あ、でもちょっとだけ言いたいことが
あったかもしれないです。
──
おお、それはどんなことですか?
光浦
みなさん、作品をつくるためには
センスや才能が必要だって思っているでしょ。
──
そうですね、
創造力とか並外れた何かが必要なのかなって
そう思います。
光浦
作品づくりって、
「自由に自分を表現しました!」

じゃないといけないというか、
センスがないといけないというか‥‥
──
はい。
光浦
でも自由な創造力があるって、むずかしいんです。
そんな人、なかなかいない。
──
たしかに、むずかしいですね。
光浦
さあ、作品をつくろうという時に
自由になれない自分や
創造力がない自分を、
「悪いんじゃないか」と思ってしまって
苦しんでいる人はいると思うんです。
──
はい。

光浦
でも、手芸に必要な才能は器用さと我慢です。

特にブローチは丸の中に限られていますから、
センスはなくても手先の器用さと我慢だけで
感動する作品はつくれるはずです。

はず、と信じたい。
そういうことを、ブローチで言いたいです。
──
私もセンスや創造力に自信がないので、
励まされます。
光浦
作品を生み出すときに、
自分を責めちゃうのはおかしいじゃない。

自由な創造力がないことに悩んだり。
──
はい。
光浦
もちろん、自由な創造力があったら
それはそれで素晴らしいですが
なかったらないで、他のやりかたがある。
──
そうですね。
光浦
自由な創造力がないならないで、
細かいことをグダグダ言わずに
コツコツ、コツコツつくる。

そうすると、自由な創造力がある人とは
また違う作品がうまれるんです。

それはそれで、丁寧でかわいらしいもんで。
──
丁寧でかわいらしいっていう、
みせかたもあるんですね。
光浦
センスや才能がなくても
作品はつくれます。
──
自由な創造力はあったらいいけど‥‥
光浦
ないなら、手先の器用さで勝負。
──
はあー‥‥すごく励まされます。

自由な創造力をもっている人たちと比較して、
自分なんてと思っている人が
きっとたくさんいるのではないかと。
光浦
そうですね。
でも小手先の何かに頼ったりだましたりせずに、
堂々と本気でつくっています。

そうしたら「恥ずかしくないのですよ」と
言いたいです。
──
光浦さんのそのお気持ちは
作品から感じます。
光浦
ありがとうございます。

作品をつくることは、
もっと自由でいいと思います。

(つづきます)

2017-05-10-WED