どこからきたのかわからない、
いまだ名前の知らない感情で胸がいっぱいになった。
名前を知らないことも、それを言葉で表せないことも、
もどかしかった。
思い返す「あのころ」や「あの気持ち」がある人、
「あの子」や「あの人」がいる人たちが
心底羨ましいと思った。
東京のことも90年代後半のこともわからない。
誰かが、二度と会えない遠い場所へ行ってしまったこともない。
仕事をしたこともなければ、中学も高校も今も
ごくごくありふれた学生生活しか送っていない。
いや。ありふれたどころか、
私は生まれて19年間まだ恋をしたことがない。
たぶん。
だからなおさら、この本のどれもが羨ましかった。
(誰かと二度と会えなくなるのは嫌だけど)
自分にもしそれらの経験があったら、
もっとこの物語を深く感じることができたかもしれないのに、
と思わずにはいられなかった。
恋をしたことがないからか、
恋をしたことないくせにかわからないけれど、
36ページで涙が込み上げた。
今まで自分の涙の理由を疑ったことなどなかった。
でも何の感情かわからなかった。
読み始めるまで、
これは自分の知っている恋愛ものではないと勝手に思っていた。
(そもそも、あまり恋愛ものの本を読んだり
映画を観たりしないので「知っている」というほど
知っていないし比べるものすらないけれど)
自分が思い描いている
「恋」や「好き」を覆してくれるんじゃないかと。
でも、
「生まれて初めてボクは頑張りたくなっていた」
「彼女がいないともうダメだった」
「好きな人のすべてが正義になる」
「彼女に電話をして、好きだよと言おうと思った」
「この瞬間の気持ちがずっと続けばいいのに」
「明日も、明後日も、何年先もずっと」
「ねぇ、ずっと一緒にいようよ」
「自分より好きになった人のなんの根拠もない言葉ひとつで
やり過ごせた夜が確かにあった」
‥‥噂に聞く恋そのものじゃないかと思った。
がっかりしたわけではない。
ただただ、やっぱりそうなのか、と思った。
もちろん、全く知らない景色を嫌でも頭のなかで
色つきで映像化してしまうような細かい描写や
一つ一つの表現の仕方は
私が今まで感じたことのないものだったけれど、
「恋」や「好き」ということ自体は
いつだって誰がみてもわかりやすくて、
意外と単純なのかもしれないと思った。
「ボク」にしかわからないはずの物語が、
誰の記憶にもあるかもしれない何かを
思い出させたり懐かしく思わせる理由が
ほんの少しだけわかった気がした。
私にとって、「好きな人ってなに?」という台詞が
唯一強く共感できた言葉だった。
なにをもって「好き」と判定していいのかわからない。
四六時中だれかのことで頭がいっぱいになることも
ふとしたときにだれかの顔を思い出すこともない。
仕草や見た目を「いいな」と感じても
それ以上の感情を抱ける人にまだ出会えていない。
知りたい
触れたい
付き合いたい
とか。
それ以上踏み込もうと思えたことがない。
でもそれは、自分にしか興味がなくて、自分が大切で、
自分が一番好きだからかもしれないと気付かされた。
同時に、ますます恋に恋してしまった。
自分より好きになれる人に出会ってしまったら、
いったい世界がどうなってしまうんだろう。
なんか、すごいことができそうな気がしている。
笑われてもいい。
「ボク」のように、自分の人生を普通じゃないと
思えるものに変えてほしいと思っている。
キラキラした部分だけじゃなくて、
その人に対しての自分の醜くて嫌な部分すらも知りたいと思う。
期待しすぎかな。幻想かな。
求めすぎていることが自分からそれらを
遠ざけているのかもしれないけれど、
そんな諸々の理屈を
吹き飛ばしてくれるような誰かを待っている。
「年をとったらとるだけ 増えていくものは何?
年をとったらとるだけ 透き通る場所はどこ?
十代はいつか終わる 生きていればすぐ終わる
若さはいつも素裸 見苦しいほどひとりぼっち」
20歳になるまであと半年。
十代のうちに出会えてよかったものはたくさんある。
人も言葉も音楽も。
その多くに自分の気持ちを代弁してもらうしかなかったけれど、
大きくなるにつれてあまり小説を読まなくなった自分にとって、
本を読んでこれだけ自分の言葉を吐き出せたのは
この本だけかもしれない。
しかも、恋愛について。
「先に続いてるのは未来であって、過去じゃない。」
私はこの本を読んで羨ましいと思ったけれど、
それよりも強く、今を生きたいと思った。
19歳。
何がとははっきりわからないけれど、
まだまだ期待してもいいんじゃないかとちょっと思えた。
「こうしている間にも、刻々と過去に仕上がっていく今日。」
ただ、今までのことも出会った人も
やったことも覚えたことも感情も全部、
これからもひとつ残らず持っていく。
どこまでも持っていく。
感じることだけが全て、感じたことが全て。
世代なわけじゃないし恋愛がどうとか関係ないけれど、
「エイリアンズ」も「サーカスナイト」も好きだけど、
なによりこの本の雰囲気もなにもなくなってしまうけれど、
今を生きたいと思ったとき、
私が聴きたくなったのはこの曲だった。
(たらってぃ)