MOOMIN LOVE
重松清×『ダ・ヴィンチ』横里隆+「ほぼ日」武井 おじさん3人、ムーミンを語る。

第5回  フィンランドはムーミン谷?
    武井 ムーミンママも、
パパに対するラブの気持ち、
あんまり表してないですよね。
つよい絆のパートナーであるってことは
すごく感じるんですけど。
   
    横里 ああ、ママ、自立してる。
   
    重松 ママ、すごいしっかりしてる。
   
    武井 しっかりしてますよね。
そういうところもフィンランド的なのかも。
そういえばフィンランドの人って、
森に入ると家族でも
ばらばらに行動するらしいですよ。
   
    重松 そうだね。
   
    横里 なぜ? どういうこと?
   
    重松 ひとりになるための場所だからね。
   
たとえば家族や友達と一緒に
ベリー摘みやきのこ狩りにいっても、
森に入ったら散らばっていくんです。
まあ、そのほうがお互い
たくさん摘めるわけですが、
それだけじゃないんですよね。
自分のペースで自分の好きなように
森の中を歩いて何かを探したり見つけたり、
何かと出会ったりするんです。
そういえば、湿地散策の会で
ぞろぞろ森に入ったときも、
気づいたらベリー摘みに夢中の人が
あちこちに残りはじめて、
リーダーも放置して歩いていくし、
気づいたら最後はリーダーすら
湿地じゃなくきのこの説明に夢中に
なっちゃって、
いつの間にかきのこ狩りに
変わってたことがありました。
フリースタイル!
でも「この人を放置しといても大丈夫、
道をみつけて戻ってこられるから」
というのが前提にあるんですよね。
森での方角の見極めかたとか
知っているからこういうことができる。
人だけでなく、飼い犬も猫も。
森のサマーハウスでは
放し飼いですっていうお宅、
とても多いんですよ。
猫なんてエサあげないでいても
勝手に森で獲物つかまえて
食べてるから大丈夫、とかね。
まずはただただ楽しいから、
楽しいから森でひとりになるんです。
やがて大人になって、改めて
「あっ、これで心身の
 バランスとってるのか」
ってふと思う、森はそんな存在でしょうか。
  武井 森は、何ていうのかな、
聖域みたいなところで、
自分に還る場所なのだとか‥‥。
 

 

     
  横里 うーん、そんなのないよね、日本?
   
  武井 ない‥‥かなあ。
   
  重松 トイレ?
   
     
  横里 トイレ(笑)!
   
  重松 だからやっぱりさ、
書斎がほしいっていうお父さんの欲望ってさ、
たぶん、森なんだよね。
フィンランドには森がある。
そして男同士だと、サウナだからね。
結構、男同士で
週末に旅行に行く人って多いんだよね、
フィンランドのお父さんたちって。
 

 

男だけで集ってのお休みの過ごし方って
本当に皆さん嬉しそうですよ。
のびのびしてるの。
それこそムーミンとスニフが
楽しくやってるみたいなノリです。
で一見とてつもなくくだらなく、
アホらしくすら思えることで笑ったり
はしゃいでたりするのですが、
同時に大自然の中でのあらゆる技術、
たとえば薪を割るのも焚き火を作るのも
びっくりするくらいに上手なのです。
ああ、この人たちは
大自然にぽつりと取り残されても
嬉々として生きていけるなって
思わせるくらい。
    横里 へぇー。
 
  武井 田舎に、サウナ小屋をあいつが持ってるよ、
なんて出かけていくんですよね。
一日かけて石を焚いて煙でいぶして、
その煙をそーっと逃がして、
かんかんに熱くなった状態の小屋に入る、
スモークサウナっていう、
サウナの王様みたいなのがあって、
それを持ってる仲間がいたらもうヒーロー。
 
    重松 うん、うん。
   
    武井 そこにみんなで行くみたいな。
で、裸でビール飲んで。
   
    重松 うん。
   
    横里 それ、スモークされちゃうんじゃないの?
   
    武井 スモークはね、逃がすの、じょーずに。
熱を逃がさずに煙だけを逃がして。
要するに中に燃やした石だけ残るんですよ。
その石にじゃって水をかけると
こまかな水蒸気がぶわーっと出て。
   
       
    重松 ぶわーっ。うん。
   
武井さんが入ったあのスモークサウナは
クレージーと噂される、特殊な熱さです。
だいたいはスモークサウナでも
80度くらいですね。
やけどしそうだったのも、
クレージーサウナだから。
あれはもう特殊なケースです!
  武井 百何十度になるわけ。中が。
そこで汗かいて、すぐ湖に飛び込んで、
っていうのを夏でも冬でも繰り返す。
初心者は熱すぎて息もしにくいし
軽くやけどしちゃいそうなくらいなんだけど。
   
  重松 みんな、フィンランド、好きだね、
「ほぼ日」は。
   
  武井 好きです。行くと好きになっちゃう。
乗組員も何人も行ってます。
   
    重松 俺ね、フィンランドね、飯さえうまければねえ。
   
    武井 飯‥‥あの、たしかに。
でも重松さんが行かれたのは、
冬至のときですよね?
冬至の日はレストランが開いてなくないですか、
夏至祭とか冬至祭って?
   
    重松 あ、俺、夏行ったときはそうだったの。
完全に夏休みに入ってたよ。
   
    武井 そうすると森下さんおすすめの
おいしいフィンランド料理店も
閉まったりしているから。
   
  重松 いやいや、十分おいしいんだよ。
十分おいしいんだけど、たとえばね、あの、
出汁という概念をね、
教えてあげたいなあとかさ。
   
  一同 (笑)。
   
    重松 出汁もちゃんとひこうよーって。
   
    武井 そのレベル! それはむずかしいかも。
   
    横里 でも海があるから海産物が豊富なんじゃ?
   
    武井 それが、サーモン、カワカマス、
マス、ニシンは食べるけれど、
日本みたいに魚介の料理が豊富、
という感じではないんですよ。
バルト海のものはあまり食べないよって
聞いたことがあるような。
ヘルシンキのお寿司屋さんには
いろいろ生魚はあったけど。
 
森や島で暮らす夏は
自分たちで網をしかけたり
釣りでとれた魚をいただきます。
そう考えると湖の魚が多いのかしら。
お料理上手(昔は「いい奥さんの条件」)は
バルト海ニシンの料理が何種類できるか。
レストランでは確かに似たり寄ったりですが、
家庭ではいろいろ工夫してる気がします。
ただどれだけ繊細に
微妙な味の違いを演出するかってなると、ね。
お寿司屋さんのお魚は
輸入・冷凍が多いみたい。


  重松 俺、カレリアパイ、
好きだったなー。
 
     
薄くのばした丸い生地に
固めのお粥をのっけて、
葉っぱ型に生地をとじていきます。
このミルク粥はバターたっぷり。
  武井 意外です!
お米をミルクで焚いて、
そのお粥を葉っぱのかたちの
ライ麦パンにのっけて、
焼いたものですよね。
   
  重松 何かねぇ、味があるかなしか、
離乳食みたいなんだけどさ(笑)。
 
これは圧倒的に手作りがおいしいです。
とはいえどれも離乳食(笑)
みたいではあるのですが、
当たり外れがありますね。
一般的にはゆで卵を
フォークの背でつぶして
バターを加えて混ぜた
エッグバターを乗せていただくのですが、
バターとチーズの人、
サラミ&きゅうりのせなど、、
最近はバリエーションも増えてきました。
ちなみに日本人の友人が
ここにストロベリージャムを
のせたことがあるのですが、
フィンランド人に
ドン引きされたそうです。
とりあえず
「しょっぱ系として食べる」もの、と。
    武井 そう、甘いわけでも
しょっぱいわけでもなく、
もそもそしてべちゃべちゃしてる(笑)。
でも、妙にクセになる‥‥。
 
    重松 結構好きだったよ、俺。
あのね、フィンエアーに乗るとさ、
必ずイッタラの器が出てきて、
それでもう何か行った気分になって
うわっと盛り上がるんだよ。
この前、ラップランドに行ったとき、
トナカイの肉を、メキシコのトルティーヤに
巻いて食べるんだよ。
 
    武井 それはオリジナル料理みたいなものですか?
 
全国的かどうかは分からないのですが、
ラップランドのお宅へうかがうと、
あちこちで
このトルティーヤラップをよく食べます。
日本の手巻き寿司みたいに、
好きな具をのっけて巻いて食べるんです。
  重松 それが、スーパーに、
トルティーヤの皮を売ってるの。
   
  武井 ということは、流行り?
   
  重松 意外。
何でメキシコなんだろうって。
   
  武井 とうもろこし文化はないですよね。
   
    重松 ラップランドで普通に、
アフロアメリカンの女の子がいたりとかもして、
それは、自分の育児が終わった後、
今度は恵まれない子どもたちを
引き取って育てようっていうのことが
多いみたいで。
だから、北極圏で遊ぶ
アフロアメリカンの女の子なんてさ、
ちょっとかっこいいなあと思うわけ。
   
    横里 ムーミン谷だ‥‥。
   
    重松 そうだと思う。    


2011-12-30-FRI

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