MOOMIN LOVE
重松清×『ダ・ヴィンチ』横里隆+「ほぼ日」武井 おじさん3人、ムーミンを語る。

第6回 スナフキンになりそこねた男たち。

太陽がいっぱいの、暖かいところ。
最近はタイが多くて、
以前はカナリア諸島とか
南欧が多かったですね。
アフリカに行く人も増えていますよ。
フィンランドの冬は日照時間も短いし、
どんより曇った日が続くんです。
それで太陽を見てないと、
「ああもう!」
って太陽が出ていて
青空が拝めそうな
南に行きたくなるんです。
私も突然トルコに行ったり
(着いたとたんに
 記録的な大雪に見舞われた)、
少しでも南だったらそれでいいと
ドイツに行ったこと
(着いたとたんに記録的大雪)
があります。
悪あがき三昧ですよ、冬のたんびに。
  重松 冬至になると、
フィンランドの人、タイに行くんだよね。
   
  横里 それ、スナフキンですね。
   
  久保 スナフキン。
   
  重松 太陽を求めて行くんだって。
ちょうど1年前、フィンエアーが
ストを打っていたんだけれど、
最初に運行を再開したのが、
ヘルシンキ発バンコク行き。
これを再開しないと
暴動が起きるみたいな感じだったよ。
 
そうそう夏でなく、冬にゆっくり
休暇をとる人もいますから。
南の国でバカンスが
待ってるんだって、だから我慢して、
朝9時でも暗く午後3時には暗い中を
淡々と通勤通学してたんですから。
   
    横里 直行便があるというだけで不思議ですよね。
 
    重松 すごいよね、うん。
   
    武井 夏のヘルシンキなんかも
おっきな公園があるんですけど、
ちょっと太陽出ると、みんな、裸です。
 
カフェのテラスも、
一緒に座ってるお友達のほうでなく
お互い太陽のほうを向いて
座ってたりしますしね。
    重松 そうそう。
 
    武井 でも僕らには寒いんです。
ヘルシンキの真夏って
日本の夏からしてみたら、
寒いくらいなんですよ(笑)。
でも裸。
 
    久保 おばあちゃんとかも、チューブトップで、
   
    武井 日を浴びてます。
   
公園や水辺で水着姿になって
バスタオル敷いて、
日がな一日ゆっくり
読書してたりするんですよね。
やってることが読書ってのが
フィンランドらしいなあとも思います。
  横里 へぇー。
   
  武井 あの冬の暗さを思うと、
太陽の降り注ぐ夏が、いかにすてきか。
   
  重松 そして冬は着込むね。
ホテルで、スリッパの替わりに、
ソックス貰ったもん。
   
  武井 そういえば部屋では靴を脱ぐんですよ。
   
    重松 脱ぐね。
   
    横里 へぇーっ!
   
    武井 日本みたいに、玄関のとこで
靴脱いで上がるんです。
でもルールってわけでもなさそうで、
ひとりだけ全然脱がない人もいたりして。
 
基本的には玄関のところで脱ぎます。
でもホームパーティーなんかのときは
靴もおしゃれの一部なので、
皆さん靴をはいたままです。
で、冬はごっつい靴を履いてますよね。
だからパーティーのときは
家の中で履く用の靴も
持ってくるんです。
逆に夏はね、
ずっと裸足でいたいんですよ。
なので、森の中のサマーハウスでは
外も中も裸足が多い。いったりきたり、
いちいち足をあらったり
拭いたりしません。
ヘルシンキの街角でも
裸足で歩いてる人を見かけますよ。
    重松 でね、結構、みんな、自分の家を、
客に隅から隅まで紹介するよね。
まずは一周するんだよ。
で、わりかし、手作り感覚溢れてて。
 
    武井 大工仕事好きですよね。
フィンランドのおじさんは
ほんとに大工仕事が好きですよ。
 
およよよ(笑)。
  重松 好きだね。うん。
あんまり上手じゃないけど(笑)。
 
   
  武井 あとね、音痴(オンチ)。
   
  重松 えっ、そうなの?
   
    武井 はい、ぼくの知る限りでは、音痴です。
   
    横里 何を聞いて音痴だと思ったの?
   
    武井 カラオケが流行ってるんですよ。
泊めていただいた田舎のもと小学校があって、
そこで同級会旅行みたいなのが開かれてて、
僕ら、2階に泊まってたんですけど、
朝まで1階でカラオケ大会をしてて。
それが、みんな、あり得ない音痴でした。
   
    重松 へぇー。
   
    武井 テンポも、音程も、
   
    重松 その人だけなんじゃないの?
   
    武井 全員が、なんですよ。
   
    重松 全員(笑)!
 
フィンランド人の歌声にじっと
耳を傾けているとですね、
彼らの歌につられて
私の口からも歌が
ポロポロ出てきたのです。
それがなぜか
「まいにち、まいにち‥‥」と、
「あみだくじー、あみだくじー」
なんです。
およげ! たいやきくんと
あみだばばあの歌‥‥。
この共通点はなに? っていうと
メロディーが上下しない!
淡々と同じ音でいっちゃう感じ。
彼らがどんなジャンルの
何を歌っててもです。
どんなに気持ちを込めて歌ってても。
ここまでそろうと、
一晩耐えたら悟りが開けそうです。
そうだ、彼らが歌うと
カラオケがお経になる!

 

    武井 ここはじゃあ森下さんにお願いしましょう。
私の印象の「フィンランド人は音痴」
というのはほんとかどうか?!
 
     
    重松 あとね、フィンランドの音楽って
結構いいんだよ。
日本人好みというか、
俺たちの好きな、70年代の音楽に近い。
 
    武井 「イスケルマ」ですよね。
 
ムード歌謡。
自分の気持ちを代弁してくれてる、
演歌のような歌詞やロマンチックな歌詞で
歌いあげます。
専門のラジオ局もあるくらいです。
  重松 あ、イスケルマ。
いい! いいよね。
 
     
    横里 何ですか、イスケルマって?
   
    武井 イスケルマっていう
音楽のジャンルがあるんです。
歌謡曲?
   
    重松 歌謡‥‥ポップというかね、
   
    武井 歌謡ポップ演歌みたいな。
   
    重松 泣きが入るというか。
筒美京平がたくさんいるんだな(笑)。
好きなの、ほんっとに好きなの、俺。
   
    横里 じゃあメロディラインがしっかりしてて、
サビがあって。
   
    重松 そう。
   
    武井 日本語がのりそうな感じですよね。
   
    重松 フィンランド、タンゴだってあるし、
マイナーコードの哀愁に満ちた曲調って
好きなんじゃないかな。
 
タンゴにいたってはメランコリーで、
完全にアルゼンチンとは
違うものになってますよね。
フィンランド・タンゴっていう
一つのジャンルに
なってしまっているほど。
    横里 哀愁も、やっぱりムーミンに
つながってますもんね。
 
     
    武井 何か全体的にね、おじさんたちはみんな、
ムーミンパパの影があるんですよ。
自由が好きで、大工仕事が好きだけど、
何かちょっと上手じゃなくて、
そして森も海も好きで、みたいな。
   
    重松 みんな、やっぱりさ、
スナフキンになりそこねた男たちだよ。
   
    武井 たしかにスナフキンそのものという人は
少なそうですよね。
   


2012-01-02-MON

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