森
あのね、よく
インタビューなんかでも質問されるのが、
「どんな使命感があって、
『A』や『A2』を撮ったんですか?」
っていうことなんですけど。
糸井
ああ、多いでしょうね。
森
はい。やっぱり、取材する人も、
相手がオウムのドキュメンタリーを撮った人で、
もとはテレビの番組制作会社にいて
映画を撮るためにそこを辞めてみたいなことが
経歴に書いてあると、
そう訊きたくなっちゃうんですね。
それはよくわかります。
でも、ぼく自身の認識としては
そういうわかりやすい使命感に
基づいて動いてきたわけではないんです。
『A』にしても、所属していた番組制作会社から
契約を解除されてからも撮り続けた理由は、
きっと他の局でテレビ番組として
放映してもらえるだろうと思っていたんです。
ひとりになっても撮り続けるぜみたいな、
そんな雄々しい姿勢じゃなくて、
でも、他の局や制作会社を回っても、
結局はどこからも相手にしてもらえなかった。
糸井
うん。
森
しょうがないから
昔やってた自主映画しかないかなと思って
自主映画にしたという、
いってみれば消去法なんですよ。
で、ふと考えるとぼくの人生って
これまでずっと消去法できているんですね。
大学時代には映画を撮っていた。
当時の自主映画って役者がいませんから、
劇研にもいたぼくは
役者をやることも多かったんですね。
その勢いもあって、大学を出てからは
新劇の劇団の養成所に入った。
糸井
あ、そうなんですか。
森
はい。
劇団養成所に3年間、行きましたね。
でもそこが潰れちゃったんで、
地方で児童演劇をやったり、
シティボーイズが旗揚げをするときに
スタッフというか
付き人みたいな感じで手伝ったり。
糸井
へええ。
森
そんな時期もあったりしたんですけど、
けっきょく二十九になったときに
自分は芝居が下手だってやっと気づいて。
じゃ、何しようかというところで、
今度は不動産会社でサラリーマンを
2年間やったんですよ。
当時はバブル真っ盛りでしたからね、
会社ではみんなダブルのスーツ着てね、
どう見てもカタギじゃないだろう
みたいな雰囲気の会社で、
やっぱり馴染めなくて。
そういうときに、たまたま新聞で
テレコムジャパンという
テレビ番組の制作会社が人を募集していて。
さすがにもう、映画を志す年でもないけど、
テレビだったらどうにかなるかな、
ドラマでもつくりたいな、
と思ってそこに入るわけです。
ところが入ってみたら
「ドラマ? うちはドキュメンタリーだよ」
って言われるわけです。
糸井
(笑)
森
ドキュメンタリーなんてまったく興味がないし、
見てもいなかったけれど、
でも、まあ、やってみたら
おもしろいかもしれないなと思って
ドキュメンタリーをつくりはじめた。
そんななかで『A』がはじまって、
テレビ番組になるだろうと思ったらだめで、
しかたなく映画になっちゃった。
糸井
しょうがないから、の連続なんですね。
森
はい。
で、『A』が映画になったから、
そこからは映画監督として
やっていけるのかと思ったけれど、
お客が入らないからやっていけない。
だから今度は本を書いた。
もう、ことごとく、消去法なんですよね。
なんというか、がんばって
ここまできたという感じでもないんです。
糸井
だけど、
ほんとはみんなそうなんだっていう
気もするんですよ。
森
そうなのかなあ。
糸井
うん。
たとえば、あの萩本欽一さんだってね、
「不本意な仕事しかやってこなかった」
っておっしゃってるんです。
だから、その、何かを成し遂げた人が
「望んでやった」っていうのは、
どうもぼくね、
あとから言ってる気がするんですよ。
森
ああ。うん、そうかもしれない。
糸井
それこそね、ミスユニバースになった、
みたいな人の話は別ですよ。
それは、投票されるために
立候補しなきゃいけませんから。
でも、きちんと立候補するような場面って
人生の中でそんなにしょっちゅうはない。
だから、逆にいえば、
立候補するのが平気な人って、
きっと、ちゃんと出世してますよ。
森
はい(笑)。
糸井
いわゆるITバブルの人たちって、
立候補するのが大好きとはいわないまでも
平気なんですよ。
昔でいうと、弁論部みたいな人たちで。
森
ああ、うんうん、いますね。
生徒会にふつうに立候補できるような人たち。
糸井
そう。そういう人たちは、いる。
でも、多くの人たちは、みんな、
森さんみたいに進んできてるんじゃないかな。
森
そうか‥‥。
そう言ってもらうと気が楽になるんですけどね。
やっぱり、経歴と作品だけを見られると、
ものすごく使命感とか目的意識が
ある人だというふうに思われがちなんですよね。
でも、じつは、べつに、
だめだったらだめでいいと思ってたし、
『A』をつくってるときも、これ1本撮ったら、
田舎に帰って就職しようと思ってましたしね。
糸井
というか、使命感だけで
『A』をつくっていたとしたら、
怖いですよ、それは。
森
あ、かもしれないですね。
(続きます)
2007-02-21-WED
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN