「ギーグのセリフ、作っててもきつくてさ」
『MOTHER2』は
ヘビイな一面も持っています。
- 糸井
- 終盤とか、いやぁ~な決断を迫られますよね。
「なんて答えてボタンを押せばいいんだ?!」
みたいな。
博士と話す場面とか、
作っているときに自分で怖かったもの(笑)。
プレイヤーとしても、恐怖を感じました。
- 糸井
- ああ。ありがとうございます。
その瞬間まで思い出して言えるものなあ。
博士が、断崖のところまで歩いていって、
言いにくいから間があって、
背中向けたままで言うんですよね。
「いいにくいんだが」。
しかも、いままで歩いてきた道が道だから、
そういう展開を信じていいんだかどうなんだか、
いろんな意味で不安になるんですよね。
こう、いつのまにか、深い道へ入ってるんですよ。
あの感じが『MOTHER』にしかない。
- 糸井
- そうなればいいなぁと思ってつくっていたから、
うれしいです。
自分のつくったものだけど、
あらためて見ると、嫉妬しますね(笑)。
で、同時に、「二度とできない」っていう恐怖がある。
だけど、そのいっぽうで、ファイトも湧くんですよね。
読んでいる人は、なんのこと言ってるのか
わかんないかもしれないけど、
それを実感できるっていうのがゲームのよさですよ。
もうね、ギーグのセリフとかね、
作ってて、苦しくてさ、泣いたもの(笑)。
そういう入れ込み方って、一回性のものだからなぁ。
(笑)
- 糸井
- ギーグって、要するに、その、
なんだかわからないものじゃないですか。
でも、愛すべき生ものっぽい部分がある。
あれが、『憲兵とバラバラ死美人』における
筑波久子のおっぱいなんですよ。
‥‥は?
- 糸井
- 『憲兵とバラバラ死美人』における
筑波久子のおっぱいなんですよ。
不勉強でわかりませんが。
- 糸井
- 誰にもわからないと思いますが。
なんですか、ソレ?
- 糸井
- トラウマ。
トラウマ? 糸井さんの?
- 糸井
- そう。子どものとき、映画館で、 まちがって観ちゃった映画が 『憲兵とバラバラ死美人』(※)って題名の 新東宝の映画だったの。 観たあと、家に帰って、無口で元気がなくなって、 親に心配されたっていうくらいショックを受けた。 なにせ、レイプですよ。河原で。映画のなかで。 そのときに、おっぱいをむんずとつかむと、 おっぱいがボールのようにゆがむんですよ。 それが、もう、ね。脳を直撃なんですよ。
※【編集部註】
映画そのものは存在していることが判明したが、
内容まで、そういうものだったかどうかということは、
不明のままであります。案外、糸井重里少年の
記憶違いということもありそうでもあります。
糸井少年の。
- 糸井
- 糸井少年の。
つまり、犯罪とエロティシズムが
隣り合わせになったときの
恐ろしさっていうのがあって、
それが最後のギーグのセリフなんですよ。
あのなかで、「イタイ」って言うじゃない。
あれが‥‥おっぱいなんですよ。
こう、なんというか、生ものな感覚というか。
ええと、これはどうすればいいんだろう。
- 糸井
- もう、書いちゃえば?
あははははは。
- 糸井
- ほぼ日ならではの情報。
でもね、これは、オレしか知らない。
当たり前ですよ。
- 糸井
- でも、けっきょく、あの場面は、
プレイヤーの心を動かしたわけで。
それはそうですが。
- 糸井
- あれがさ、たんなる悪者がいてさ、
「わっはっはっ!」とか笑っててもさ、だめでしょう。
まあ、悪者が「わっはっはっ!」って笑うのも、
考えてみると、興味深い様式なんだけどねー。
悪人がクライマックスで「わっはっはっ!」と笑う
ということはどういうことなのかということを、
徹底的にひとりで何日も考えても無駄じゃないですね。
そういうことをする人は、
ゲーム業界では、あんまりいなそうな気がする。
ゲーム業界にかぎらないと思いますが。
- 糸井
- つまり、「悪人が笑うとはなにか?」うーむ。
ギーグの話に戻ってください。
- 糸井
- あの、その当時って、
ぼくはコンピュータが使えなかったんですよ。
だからね、セリフを口でね、しゃべるわけ。
隣にスタッフがいて。
三浦弟、まーちゃんというんだけど。
部屋にぼくとそいつだけがいて、
ぼくがしゃべると、彼がタイピングしていくんです。
へええ~。
- 糸井
- ひと文字、ひと文字、言うわけ。
すると、それが、すぐにタイピングされて、
画面にひらがなで出てくる。
ひらがなだから、またちょっと怖いんだよね。
「てんてんてん(・・・)」まで言うんですよ。
「あなたは」って言うと、『あなたは』って打たれる。
画面見て、「いや、『あなたは』消して」って言うと
消してくれて、しばらく考えて、
「‥‥グ、ギ、ゴ、ゲ、ガ」とかって言うんですよ。
で、画面の『グギゴゲガ』を見ながら、
「『ゴ』を、もう1個増やして‥‥うん‥‥
『てんてんてん』‥‥
もう3個『てんてんてん』‥‥
一行空けて‥‥もう一行空けて‥‥
まだ空けて‥‥はい、改行!」って言うの。
‥‥すごい制作風景ですね。
- 糸井
- そんなふうにしてつくっていると、
「うわあ!」っていう瞬間があるんですよ。
言った本人が「うわあ!」って思って、
打ってる三浦くんも「‥‥糸井さん」って
ちょっと、泣きそうになってるんですよ。
で、「オッケー、そこまで」って。
たぶん、ひとりでやってたら、ああはならないですね。
「グギゴゲガ」を自分で打って、消して、
もう1個打ち直して、みたいなことは、
自分でタイプしてたら、手の面倒くささに合わせて、
口のほうが遠慮しちゃうと思うんですよ。
過剰に丈夫な手足になってくれる人がいてくれたから、
ぼくは考えることだけをすればよかったんです。
しかも、横でセリフを打っている彼の顔が見えるでしょ。
そのセリフがすごくいいときは、
彼の顔つきが明らかに変わるんですよ。
そうやって、集中しながら、
小さい反応を見ながらできるやり方っていうのは、
偶然の発明だったですね。
次回へ続きます!