最初の『MOTHER3』の話。
『MOTHER3』の構想が生まれたのは
『MOTHER2』の開発が終わるころだと
お聞きしました。
- 糸井
- 最中ですね(笑)、
『MOTHER2』をつくってる。
それは、どういう部分が
発想されていたんですか。
- 糸井
- それは、いまの『MOTHER3』に
つながってるところと
まったくなくなっているところがあるんだけど、
まず、『MOTHER2』をつくっているときに、
「街から街へ、すごろくみたいに回っていく」
っていうことが気になりはじめたんですよ。
ひとつの街を終えると、つぎの街に行く。
まえの街に戻ってみると、街の人が
「あのときはありがとう」みたいなことを
ずっとしゃべってる。
それって、絶対にそうしなきゃいけない
わけじゃないよな、って思った。
で、「つぎは、ひとつの街を舞台にしよう」
っていうふうに思ったんです。
なるほど。
- 糸井
- ゲームの進行に合わせて
人がセリフを変えるんじゃなくて、
街には街の時間が流れてて、
どんどん変わっていくようなものを
つくってみたかったんですよ。
で、どこかの木に落書きをしたら、
それはずっと残ってる、みたいな。
ぼくが10年前に
糸井さんにインタビューしたとき、
糸井さんは『MOTHER3』のヒントとして
「旅行に行くまえに部屋を散らかしていったら、
旅行から帰ったときに
部屋は散らかったままなんだよ」
って言ってたんです。
- 糸井
- ああ、そういうことですね。
それは、開発当初のプラットフォームが、
当時、大容量の記憶媒体を売りにしていた
64DDだったということが
影響していたんでしょうか。
- 糸井
- うん。それができたら、
順番に街を回っていくんじゃなくて、
階段のぼって、また降りてみて、
そこで人や街が成長してるっていう
螺旋状のたのしさが生まれると思ったんですよ。
だから、いまはこういう状況だから、
すごくわかりやすい例が出せるんですけど、
『どうぶつの森』みたいなことですよね。
ああーー。
そういえば、『どうぶつの森』も
開発のはじまりは64DDだったそうです。
- 糸井
- ああ、そうですか。
つまり、そういうことですよね。
そういうことですね。
- 糸井
- もうそれはつくらないから
どこまでもディテールを言えるんだけど、
主人公をね、
ヘボ探偵にしようと思ってたんです。
つまり、ひとつの街で、その探偵が
浮気調査をしたり、張り込みをしたり、
ちょっとした泥棒をつかまえたりして、
いろんなことに巻き込まれていく。
それによって、街や人が、
どんどん立体的になっていく、
みたいなことを、当初は、
やってみたかったんです。
それは、『MOTHER3』というよりも、
『MOTHER2』のつぎに
つくりたかったものとして。
- 糸井
- そうです、そうです。
『MOTHER3』と
はっきり名づけてはいませんでした。
ただ、そのときの、
小さな事件がからみ合ったり、
別の人には別の物語があって、
物語と物語が出会っていくみたいなことは、
いまの『MOTHER3』が
章仕立てになってることや、
章によって主人公が変わることに
かすかに残ってますね。
これも10年前の発言ですが、
主人公が切り替わる意味を説明するのに
「ぼくから見たキミと
キミのお母さんから見たキミは
同じじゃないんだよ」って
糸井さんは言ってました。
- 糸井
- あ、そのとおりですね。
そういうことがしたかったんです。
あと、もうひとつ、
物語の大きな構造というのを、
思いついたんですよ。
これは、いまの『MOTHER3』に
活きていることなので言いませんけど、
いわば、物語の
大きなプロットのようなものですね。
それは、たしか、
どこかのホテルで書いたんですが、
書いたすぐあと、スタッフに見せて
「おもしろいぞー!」
って言った瞬間のことは覚えてます。
で、スタッフに「えーー!」って驚かれた。
そのときの、心臓がドキドキするような感じは
すごくよく覚えていますね。
じゃあ、当時の『MOTHER3』というのは、
その物語の大きなプロットと
さっき言った立体的な構造を、
当時の最新スペックをつかって
映画的に表現しようとしていたわけですね。
- 糸井
- そう。最初の『MOTHER3』はね。
とにかく当時は、構造も技術も含めて、
「なんでもできるかもしれない」
っていうふうに思いすぎてたから、
思いついたことはなんでも入れたくなってた。
もともと、そういうホラを吹くことが、
『MOTHER』シリーズにおける
自分の役割みたいなところがありますから。
で、実際につくっている子たちの
制作の様子をうかがいながら、
こういう言い方は変ですけど、
「どこであきらめるのかな?」
って思ってたんです。つまり、
「こりゃ、やっぱりムリです!」
って言われたらあきらめればいいと。
ああ。
- 糸井
- それまではオレはホラを吹くぞ、
っていう姿勢でいたわけです。
ぼくは技術の部分がわかりませんから、
その枠を気にせずに発想して
どんどん思いついていくのが役割ですから。
ところが、当時いた若い子たちっていうのは
みんな好きでつくりに来ている子たちですから、
ぜんぶ入れたくなっちゃうんですよ。
だから、ムリですってなかなか言わない。
もちろんそれは、悪いことではないんですけど、
そういうところで
ひじょうに時間がかかってしまった。
それが、最初の『MOTHER3』が頓挫した
大きな原因のひとつ。
- 糸井
- そうです。
だから、最初の『MOTHER3』というのは
長く助走をして、その、
軌道に乗るか乗らないかのとこで
中止になったっていう、
そんな感じだったんですよね。