こんにちは。ほぼ日刊イトイ新聞の永田です。
『MOTHER3』の開発者である
糸井重里のインタビューをお届けいたします。
『MOTHER3』の開発が再開されてから3年。
ぼくは、糸井重里が『MOTHER3』に関わる現場の
9割に同行していました。
ですから、このインタビューは、
第三者が疑問をどんどんぶつけていくようなものには
なっていないと思います。
けれども、挨拶や雰囲気づくりを抜きにして
核心に近いところで
ほんとうのことだけを
飾りなく語ってもらえたのではないかと思います。
12年ぶりの新作の、ライナノーツとして。

第6回

ゲームの器をつくる。

開発が軌道に乗るまでは、
現場のスタッフと糸井さんのやり取りが
ずいぶん難航していた印象があります。

糸井
それはもう、必然的なことなんですけどね。
今回のゲームボーイアドバンス版の開発は、
まあ、開発中止の教訓を活かしてというか、
「とにかく作業の早いチームを」ということで
任天堂さんからブラウニーブラウンさんという
ソフトハウスを紹介してもらったんですが、
なんていうんですか、名刺交換からはじめるという、
いわば、お見合いみたいなかたちで
スタートしたものですから、
きちんとした仲間としてコミュニケーションが
とれるようになるまで時間がかかったんですよね。

伝える糸井さんのほうも、
受け取るブラウニーさんのほうも、
もどかしさがあったようでした。

糸井
最初の戸惑いは、ブラウニーさんのほうが
大きかったんじゃないかな。
やっぱり『MOTHER』って、
つくりかたとしては、そうとう特殊ですから。
一回、ぼくが大きな構造の話をしておいて、
それを整理してかたちにしてもらって
そこにさらに注文をつけていくわけですからね。
「あ、それはぜんぶ違う」っていうようなことも
しょっちゅう言いましたし。
でも、いったん下ごしらえをしてもらってはじめて
「違うからこういうふうに直そう」っていう
会議ができるわけですから、その意味では
ブラウニーさんには、すごく感謝してますね。
彼らにとってはそれが仕事なんだ、
っていう言い方もできますけど、
「それはできません」って言われたら
もう、それでおしまいですからね。

そういうふうにして、
少しずつ仕上がりはじめたのが
2年前くらいでしょうか。

糸井
吉祥寺のブラウニーブラウンさんのところに
ぼくが直接、通いはじめてからですよね。
やり取りを密にしていって、
ブラウニーさんたちが
「あ、こういうところは自分たちで
どんどん行っちゃっていいんだな」って
わかってからは、進みだしましたよね。
それは勇気なのか、
たのしんでもらえるようになったのか
わかりませんけど、だんだんと
妙ちきりんなモンスターとか、
オバケのいる城のなかとか、
すっごくいい雰囲気の絵ができてきて、
「うん、背景はぜんぶいいです!」って
ぼくが言うようになるんです。
もともと、ドット絵とか
細かい2Dのアニメーションっていうのは
すごくうまい人たちですから。

はい。
ただ、『MOTHER』の場合、特殊なのは、
シナリオに沿って絵ができることで
ゲームが徐々に完成していくかというと
まったくそうではない。

糸井
そうなんですよね(笑)。

さきほどの糸井さんの話に、
「一ヵ月くらい集中して時間をとって
セリフやシナリオを書けば完成する」
と思って開発を再開したという話がありましたが、
極端にいえば、最初の2年間というのは、
セリフを入れるべき「器の部分」を
とにかく練り込んでいくという作業でした。

糸井
そうですね。
「ことばが『MOTHER』の神髄だ」
っていうことを、よく言われたりしますけど、
パンにお寿司のネタを乗っけても
しょうがないですからね。
だから、スタッフみんなで
うんうん頭を悩ませて、
「あとは、ことばでなんとかします」って
ぼくが言えるようになるところまで持っていくのに
2年、かかってるんですよね。

はい。

糸井
たださ、ほんとに、
ことばでなんとかできるかどうかなんて
誰にもわからないわけだよ。
あの、岩田(聡)さんがね、
「最後に糸井さんがことばをぜんぶ書けば、
そこでゲームが変わりますよ」って
ずっとぼくに言ってたんですけど、
「そんなこと言われてもなぁ‥‥」
っていう気持ちも自分のなかにはあるんです。

あ、そうなんですか。

糸井
そうですよ。

糸井さんをしても、そうですか。

糸井
そうですよ。
ぼくは、やっぱり、
経験だけはけっこうありますから、
自分がいいと思ったことだけが
すべてじゃないんだっていうことは
知ってますから。

それは、その、
単純に自信がないとか、
そういうこととも違いますよね。

糸井
自信はあります。
「あとからことばを入れれば大丈夫だ」って
そうとう自信は持ててます。
でも、自分ひとりがそういう自信や確信を
持ってるだけではだめなんだよ。
誰か信頼できるほかの人が、
ひとりでもそれを認めてくれて、
はじめて成立するんです。
つまり、どういうんでしょうね、
軸をふたつとらないと
中点ってとれないっていうか、
コンパスを2回使わないとだめなんですよ。

あああ、なるほど。なるほど。

糸井
どういうものでもね、
ふたつで1点をさがしていくんですよ。
そのときに、自分だけの部分で
1点をさがした気になってる人が
「かんちがい」なんですよ。

それはすごく大事なところですね。

糸井
大事なところです。
自分だけの、こ〜んなにでっかいコンパスを
1個持ってるだけではだめなんです。

そういう意味でいうと、
ことばを入れていくまえ、
つまり、「合宿」に入るまえというのは
糸井さんのコンパスがひとつあるだけ、
という状態だったわけですね。

糸井
そうですよねぇ。
2年、そういう状態でした。

で、けっきょくのところ、
「合宿」で糸井さんがことばを入れていくと
どんどん『MOTHER』に‥‥。

糸井
なっていきましたね(笑)。
でもね、それは、ふたつ目のコンパスが、
いや、4つのコンパスがあったからこそ
確信が持てる部分なんですよ。

(続きます)

2006-04-25-TUE