こんにちは。ほぼ日刊イトイ新聞の永田です。
『MOTHER3』の開発者である
糸井重里のインタビューをお届けいたします。
『MOTHER3』の開発が再開されてから3年。
ぼくは、糸井重里が『MOTHER3』に関わる現場の
9割に同行していました。
ですから、このインタビューは、
第三者が疑問をどんどんぶつけていくようなものには
なっていないと思います。
けれども、挨拶や雰囲気づくりを抜きにして
核心に近いところで
ほんとうのことだけを
飾りなく語ってもらえたのではないかと思います。
12年ぶりの新作の、ライナノーツとして。

第7回

合宿。

ゲームの器となる部分が7割から8割ほど、
できてきたのが去年の夏前ごろでした。
そこから、いよいよ、糸井さんが
『MOTHER3』にことばを入れていく
「合宿」に入ります。

糸井
長かったですねー。
吉祥寺と、渋谷と、あと、糸井事務所で。

はい。
まず、糸井さんの初期のシナリオと、
2年の打ち合わせのなかでできてきたことばが
ゲームのなかにすべて入っている。
それを、エクセルの表に
がーっと貼りつけている膨大なファイルがあって、
そのファイル上のことばをすべて
自分が過去につくったものもふくめて
糸井さんがぜんぶ書き換えていくという、
まあ、途方もない作業でした。

糸井
そうですね。
「これはそのまま使おう」
というものもありましたけど、
それにしても9割がた‥‥
いや、けっきょくぜんぶかな?

ぜんぶでしょう。けっきょく。
目をとおしたのが完全に10割、
書き換えたのが、ほぼ10割、
っていうところじゃないでしょうか。

糸井
1ヵ月じゃぜんぜん終わらなかったね(笑)。

作業に付き添った立場として報告しますが、
だいたい朝10時ごろホテルの部屋に集合して、
休憩や食事をとりながら、深夜2時ごろまで。
それを2泊3日でやって1セット。

糸井
ムリなんだよね、それ以上はね。
だって、だらだらする時間も含めて
15時間くらいぶっ続けで
同じ場所にいるんですから。
しかも、ずっと同じメンバーでね。

メンバーとしては、まず、
進行を管理していたのが、
任天堂の呉服(和幸)さん。
必要なファイルを呼び出して、
「今日はここからここまでやります」って感じで
エクセルのセリフ集を
ずらーっと画面に並べる。
で、それを糸井さんが口頭で
ひとつひとつしゃべりながらつくっていく。
で、できたセリフを、戸田(昭吾)さん
(『MOTHER2』のシナリオの
アシスタントを担当)がチェックしたり、
聞いてうなずいたり、笑ったりしながら、
全員でOKを出していく。
それを、呉服さんが書きとめて、
エクセルの新しいファイルをつくっていく。

糸井
そんなつくりかたってないよね(笑)。

『MOTHER2』のときも、
糸井さんがセリフをしゃべって、
それをスタッフの方が書きとめるかたちで
つくっていったと聞きましたが、
今回の『3』のやりかたとは違うんですか。

糸井
違います。
『2』のときはね、ぼくと、
ぼくがしゃべるセリフを書きとめてくれる子と、
ふたりだけでやってたんです。
するとね、その子の立場が弱いというか、
「うわぁー」って言う役割になっちゃうんですよ。
それは、言ってるぼくとしては気持ちいいんだけど、
ぼくが暴走したときに止められないんだよ。
そうすると、破綻もするし、
冷静な判断ができなくなってしまうんです。
だから、今回は、自分にとっての
最初のお客さんというか、
最低限のギャラリーが必要だったんです。
つまり、ちょっとした客前で芝居をする感じで。

ああ、なるほど。

糸井
たとえばさんまさんの
『さんまのまんま』は、
お客さんを呼んでるわけじゃないんだけど、
収録しているスタジオのなかに
なんか26人くらいギャラリーがいるんです。
スタッフや見物客を含めて。
あの、さんまさんがときどき、
「こんなん好き?」って
その見物客をいじるでしょう?
あれ、いないと、違うと思うんですよ。

第三者の目が、ちょっとあるんですね。

糸井
その、「ちょっと」が必要なんですよ。
その、こういう言い方をすると失礼だけど、
「なんでもいいから反応してくれ!」
っていうお客さんが必要だったんです。

はい(笑)。

糸井
アドバイザーなのか、オブザーバーなのか、
ただの野次馬なのかわかんないけど、
でも、それって、できる人は
日本中に何人もいないわけでね。
そういう最低限の信頼できるお客さんを横に置いて、
ものすごく集中しながらセリフを言って、
横にいる人が、笑ったり、
心臓の鼓動を速めたりするのを感じながら、
おーしめしめ、考えてるぞとか言って
ぼくはつくっていったわけです。
そういう環境が整うと、
短い時間に、密度の濃い往復ができんですよね。
セリフをしゃべって、反応を見て、
それでまた変えたり、つぎに行ったり。
その往復がその場でできるから、
どんどんつくれるというか、
どんどん直せるんですよ。

はい。

糸井
で、重要なところ、このポイントによって
レールがガッチャンって切り替わるぞ、
みたいなところは、そうとう深く話し合ったりね。
「あ、待って。さっきのもう一回直す」とか。
それをどんどん呉服さんが書いていく。
「だとすると、これはどうですかー?」なんて
付随する箇所をすぐに出して参照させたりして。

はい。そういう合宿でした。

糸井
ぼくが走って止められることもありましたし、
逆にぼくが止める役割をすることもありましたね。

ひとつ直すことで
ずっと前までさかのぼって直すことになったり、
ひとつのセリフが入るだけで
みっつくらいの問題が一気に解決したり。

糸井
バランスと、仕事の密度、ね。
まあ、濃かったですね。
それは仕事を超えて、
終わっちゃって、さびしいくらいですよ。

はい。

糸井
あんな機会は一生ないよ。
あんなふうにつくる仕事は、もうない。

ないだろうなあと思いながら、
ぼくも立ち合ってました。

糸井
ないない。
ほかの仕事を、
あの密度でやってみたいっていう
気持ちはあるけどね。

ともかくそんなふうにして、
合宿を重ねるごとに、
セリフができていきました。
で、おもしろいことにというかなんというか‥‥
これは立ち合った人間として
声を大にして言っておきたいところですが‥‥
糸井さんのことばが入ると、
ものの見事に、ほんっとうに、
『MOTHER』になっていくんですよ。
ゲームが。片っ端から。

糸井
岩田(聡)さんの言ったとおりに(笑)。

はい。なりました。

(続きます)

2006-04-26-WED