合宿。
ゲームの器となる部分が7割から8割ほど、
できてきたのが去年の夏前ごろでした。
そこから、いよいよ、糸井さんが
『MOTHER3』にことばを入れていく
「合宿」に入ります。
- 糸井
- 長かったですねー。
吉祥寺と、渋谷と、あと、糸井事務所で。
はい。
まず、糸井さんの初期のシナリオと、
2年の打ち合わせのなかでできてきたことばが
ゲームのなかにすべて入っている。
それを、エクセルの表に
がーっと貼りつけている膨大なファイルがあって、
そのファイル上のことばをすべて
自分が過去につくったものもふくめて
糸井さんがぜんぶ書き換えていくという、
まあ、途方もない作業でした。
- 糸井
- そうですね。
「これはそのまま使おう」
というものもありましたけど、
それにしても9割がた‥‥
いや、けっきょくぜんぶかな?
ぜんぶでしょう。けっきょく。
目をとおしたのが完全に10割、
書き換えたのが、ほぼ10割、
っていうところじゃないでしょうか。
- 糸井
- 1ヵ月じゃぜんぜん終わらなかったね(笑)。
作業に付き添った立場として報告しますが、
だいたい朝10時ごろホテルの部屋に集合して、
休憩や食事をとりながら、深夜2時ごろまで。
それを2泊3日でやって1セット。
- 糸井
- ムリなんだよね、それ以上はね。
だって、だらだらする時間も含めて
15時間くらいぶっ続けで
同じ場所にいるんですから。
しかも、ずっと同じメンバーでね。
メンバーとしては、まず、
進行を管理していたのが、
任天堂の呉服(和幸)さん。
必要なファイルを呼び出して、
「今日はここからここまでやります」って感じで
エクセルのセリフ集を
ずらーっと画面に並べる。
で、それを糸井さんが口頭で
ひとつひとつしゃべりながらつくっていく。
で、できたセリフを、戸田(昭吾)さん
(『MOTHER2』のシナリオの
アシスタントを担当)がチェックしたり、
聞いてうなずいたり、笑ったりしながら、
全員でOKを出していく。
それを、呉服さんが書きとめて、
エクセルの新しいファイルをつくっていく。
- 糸井
- そんなつくりかたってないよね(笑)。
『MOTHER2』のときも、
糸井さんがセリフをしゃべって、
それをスタッフの方が書きとめるかたちで
つくっていったと聞きましたが、
今回の『3』のやりかたとは違うんですか。
- 糸井
- 違います。
『2』のときはね、ぼくと、
ぼくがしゃべるセリフを書きとめてくれる子と、
ふたりだけでやってたんです。
するとね、その子の立場が弱いというか、
「うわぁー」って言う役割になっちゃうんですよ。
それは、言ってるぼくとしては気持ちいいんだけど、
ぼくが暴走したときに止められないんだよ。
そうすると、破綻もするし、
冷静な判断ができなくなってしまうんです。
だから、今回は、自分にとっての
最初のお客さんというか、
最低限のギャラリーが必要だったんです。
つまり、ちょっとした客前で芝居をする感じで。
ああ、なるほど。
- 糸井
- たとえばさんまさんの
『さんまのまんま』は、
お客さんを呼んでるわけじゃないんだけど、
収録しているスタジオのなかに
なんか26人くらいギャラリーがいるんです。
スタッフや見物客を含めて。
あの、さんまさんがときどき、
「こんなん好き?」って
その見物客をいじるでしょう?
あれ、いないと、違うと思うんですよ。
第三者の目が、ちょっとあるんですね。
- 糸井
- その、「ちょっと」が必要なんですよ。
その、こういう言い方をすると失礼だけど、
「なんでもいいから反応してくれ!」
っていうお客さんが必要だったんです。
はい(笑)。
- 糸井
- アドバイザーなのか、オブザーバーなのか、
ただの野次馬なのかわかんないけど、
でも、それって、できる人は
日本中に何人もいないわけでね。
そういう最低限の信頼できるお客さんを横に置いて、
ものすごく集中しながらセリフを言って、
横にいる人が、笑ったり、
心臓の鼓動を速めたりするのを感じながら、
おーしめしめ、考えてるぞとか言って
ぼくはつくっていったわけです。
そういう環境が整うと、
短い時間に、密度の濃い往復ができんですよね。
セリフをしゃべって、反応を見て、
それでまた変えたり、つぎに行ったり。
その往復がその場でできるから、
どんどんつくれるというか、
どんどん直せるんですよ。
はい。
- 糸井
- で、重要なところ、このポイントによって
レールがガッチャンって切り替わるぞ、
みたいなところは、そうとう深く話し合ったりね。
「あ、待って。さっきのもう一回直す」とか。
それをどんどん呉服さんが書いていく。
「だとすると、これはどうですかー?」なんて
付随する箇所をすぐに出して参照させたりして。
はい。そういう合宿でした。
- 糸井
- ぼくが走って止められることもありましたし、
逆にぼくが止める役割をすることもありましたね。
ひとつ直すことで
ずっと前までさかのぼって直すことになったり、
ひとつのセリフが入るだけで
みっつくらいの問題が一気に解決したり。
- 糸井
- バランスと、仕事の密度、ね。
まあ、濃かったですね。
それは仕事を超えて、
終わっちゃって、さびしいくらいですよ。
はい。
- 糸井
- あんな機会は一生ないよ。
あんなふうにつくる仕事は、もうない。
ないだろうなあと思いながら、
ぼくも立ち合ってました。
- 糸井
- ないない。
ほかの仕事を、
あの密度でやってみたいっていう
気持ちはあるけどね。
ともかくそんなふうにして、
合宿を重ねるごとに、
セリフができていきました。
で、おもしろいことにというかなんというか‥‥
これは立ち合った人間として
声を大にして言っておきたいところですが‥‥
糸井さんのことばが入ると、
ものの見事に、ほんっとうに、
『MOTHER』になっていくんですよ。
ゲームが。片っ端から。
- 糸井
- 岩田(聡)さんの言ったとおりに(笑)。