こんにちは。ほぼ日刊イトイ新聞の永田です。
『MOTHER3』の開発者である
糸井重里のインタビューをお届けいたします。
『MOTHER3』の開発が再開されてから3年。
ぼくは、糸井重里が『MOTHER3』に関わる現場の
9割に同行していました。
ですから、このインタビューは、
第三者が疑問をどんどんぶつけていくようなものには
なっていないと思います。
けれども、挨拶や雰囲気づくりを抜きにして
核心に近いところで
ほんとうのことだけを
飾りなく語ってもらえたのではないかと思います。
12年ぶりの新作の、ライナノーツとして。

第8回

クリエイティブのなかのケダモノ。

「合宿」のときの糸井さんは厳しかったですね。
それまでに何度も目にしているところでも
ばっさり削ってぜんぶ書き換える、
っていうところがしょっちゅうあって。

糸井
「あ、そこからそこまで
ぜんぶいらなーい」とかね。

(笑)

糸井
ひとつ言えるのは、
下ごしらえをしてくれた
ブラウニーブラウンさんたちが
年齢的に若いんですよね。
つまり、ゲームをつくる人たちの世代が
ぼくからしてみると、
うしろのうしろのうしろくらい、
4期くらいうしろの子たちの時代に
なっちゃってるんで、
それはやっぱり感覚が違って当然なんですよね。
だから、ぼくの思うようにやって、
若い世代のお客さんが受け取ったときに
ユーモアのセンスみたいなものが
ずれてたら困るな、とは思ったんだけど
仕上げてみると、ずれていたとも思えない。

はい。

糸井
厳密にいえば、それは
ぼくが判断できることじゃないんですけどね。
でも、『MOTHER』をつくるなら
ああやっていくしかなかったと思います。

印象的だったのは、
まちがっているところを直すのはもちろん、
まちがっていないようなところも
引っかかるところはぜんぶ直していったことです。
「こんにちは」っていうのを、
「やぁ、こんにちは」みたいに直したり。

糸井
ああ、そこはもう、生理ですからね。
ぼくの生理で書いてるから、
しょうがないんですよ。
「こんにちは」じゃだめなんですか
って訊かれたら、理由は言えない。

なるほど。
あと、どんどんセリフを
長くふくらませる一方で、
下ごしらえで長かったセリフを
極端に簡素にする修正もやってました。

糸井
意識的に省略したところは多かったですね。
わざと決まり切ったセリフに戻したり。
なんていうんですかね、
ずーっとおかしなことをしゃべっていると、
それがふつうになってしまって
だらだらするだけになるんですよ。
象徴的だったのは、カエルですよね。

「合宿」に入るまえの段階では、
登場するすべてのカエルが
いちいち違うことを言ってました。

糸井
そうすると、
それがふつうになっちゃうんです。
「カエルは違うことを言うものだ」
ということになる。

そうですね。
しかも、実際にプレイしてみると、
それをいちいち聞くことが
義務のようになってしまって。

糸井
だから、まず、それを全部、
共通のセリフに戻したんですよね。
そのうえで、
「ここのカエルは変えよう」というふうに。
つまり、手間としては二重になってるんです。
煮物をつくったのに、
また砂糖としょうゆと水に戻して、
「水煮にしよう!」
っていうようなことですよね。
そういう大きな決断は
「合宿」の最中に何度もしましたね。

そういうときは、
場がピリッとする感じで。

糸井
なんていうんですかね、
本気の度合いが高まる瞬間があるんですよね。
歯を食いしばって、
2、3発なぐられてもいいみたいな、
そういう気分で向かうわけですよ。
周囲のメンバーがみんな
「ん?」って思ってるときでも、
「いや、ここはこうするから!」って
ぼくが反対しながら進む瞬間って
何度かあったじゃないですか。
あのときって、ちょっとこう、
朝青龍な気持ちなんですよね(笑)。

(笑)

糸井
「この瞬間は、オレが上ね」っていう
すっごい動物的な気持ちで。
そうじゃないとやっぱり、
つまんなくなるんですよ。
中途半端になっちゃうんです。
まあ、理解し合ってる人たちが
相手だからこそできるんですけど、
なんていうのかな、
ケツの穴をギュッと縮めてるとき、
「よいしょっ!」っていう気持ちは
おれのほうが上だっていう
ガキのころの気持ちですよね。

はい(笑)。

糸井
それはね、絶対に必要だと思うんですよ。
その、なんだろう、
「アスリートの獣くささ」みたいなものは、
クリエイティブのなかにもあるんですよ。
こう、「黙れ!」みたいな(笑)。

周囲のメンバーが
「それをやっちゃうと、
これこれこういう影響が出ますよ、糸井さん」
の「糸井さん」まで言い終わらないうちに
「あ、ま、いいから!」みたいな(笑)。

糸井
はははははは。
あれはもう、ケダモノですよね。
そのくせ、あとから
「ほら、こうすれば、
さっきの問題は解決でしょ?」
ってフォローしてみたりね。
あの、ケダモノになるのって、
人としてはちょっと恥ずかしいことだからね。
だから、フィールドがない場所で
ケダモノになっちゃだめなんですよ。
あの「合宿」は、そういうフィールドで、
まわりの人間にも
そこの段差がわかってるからこそ、
ケダモノができるんです。
いつでもオラーッてやってたんじゃ
やっぱり、よくないというか、
おもしろくないですよね。

そりゃただの乱暴者というか、
たんに「強引な人」になっちゃう。

糸井
その意味では、やっぱり、
わかってくれる人っていうか、
いい仲間に出会えてるっていうのは、
ほんとにすごいことですよね。
だから、自分でなにかものをつくってね、
こう、人にそれを問いかけて
生きていこうっていう気持ちがある人は、
中途半端なところでニコニコしてないで、
せめて村相撲ではケツの穴を縮めて優勝する、
みたいなことをしてほしいですね。

(続きます)

2006-04-27-THU