余韻
ハイ、それじゃ『MOTHER２』行きますか、
という気分には、ぜんぜんなれないのである。
正直、『MOTHER１＋２』を買った当初は、
ああ、早く『MOTHER２』をやりたいなあと
思っていたような気がするのだけれど、
いまはまだ余韻のなかに過ごしたい気分なのである。
というか、
まだエンディングが続いているような気分がある。
顕著な例として、鼻歌が激しい。
口ずさむこと、甚だしい。
日射しの強まりだした街を歩きながら、
仕事中にコーヒーを補充しながら、
キーボードをぱたぱたと叩きながら、
口笛や鼻歌がずうっと鳴っている。
それを無理に認識し直してみると、
どうやら『エイト・メロディーズ』を
軸にしながら移ろっていて、
ひとりのときのフィールドの音楽と、
クイーン・マリーの宮殿の音楽と、
友だちができたときのフィールドの音楽と、
オープニングの音楽がランダムで口ずさまれる。
とくに、『エイト・メロディーズ』と
ひとりのときのフィールドの音楽は、
僕のなかでかなりのヘヴィローテーションである。
電車のなかでゲームをやらなかった。
思えば一ヶ月ぶりのことである。
暇を持て余すように中吊り広告を眺める。
ＯＬとサラリーマンが眠っている。
ドアのそばの高校生の男女は
なにやら諍いをしている最中だ。
進行方向に目を転じると、
突き当たりのドアの向こうに隣の車両が見える。
両方の車両を比べてみると、思いのほか、
電車がうねった場所を進んでいるのがわかる。
まだ『MOTHER２』を始める気になれない僕は、
『エイト・メロディーズ』を歯の隙間で鳴らしながら
うねる車両をぼんやり見比べている。
駅と駅をつなぐ長い連絡通路を歩くとき、
思い立ってゲームボーイアドバンスＳＰの電源を入れた。
といってもゲームを始めるわけではない。
オープニングの音楽を聴くためだ。
電源を入れっぱなしにして、地下の通路を歩く。
ゲームの音楽のもっともよいところは、
終わりから始まりへ間断なくループするということだ。
『MOTHER』のオープニングテーマは、
静かに始まり、徐々に盛り上がって、
まるで転調するように始まりへ帰る。
安心して身を任せながら、乗り換えのホームへ歩く。
ぴったりのタイミングで滑り込んできた電車に乗り込み
さほど混雑していない車両の端の席に座る。
ヘッドホンからはずっとループする柔らかいメロディー。
ぐるぐる回る音楽に合わせて
意識のなかでそれを口ずさんでいたら、
いつのまにか寝た。
思えばそれも一ヶ月ぶりのことになる。
