作家の川上弘美さんは
『MOTHER2』を何回となくやったファンで、
『MOTHER2』をつくった糸井重里は
川上弘美さんの小説やエッセイのファンで、
ゲームを切り口にいろんな話が盛り上がりました。
前回大好評いただきました
「男女が同居するということ。」に続き、
ふたりの放談をたっぷりお届けします。
『MOTHER』ファンも、そうでない人も、
ごいっしょにその場にいる気分で、
ほんわりとお読みくださいませ、なんですよねー。
そうそう。

第3回

科学万能時代とスポーティなアポロ

糸井
川上さんの作品を読むときに、
ぼくはまあ、男なんで、
行ったり来たりはするんですけど、
読んでる最中に、
どっちに濃く同化してるかっていったら──。
川上
女性のほうですか。
糸井
絶対、女性のほうですね。
川上
あ、でも私、ゲームしてるときは、
男の子に同化しますね。
糸井
あ、そうですか!
川上
うん。『MOTHER2』でも、
仲間の女の子(ポーラ)には、
絶対同化していないですね。
不思議ですねえ。
糸井
たしかに、つくっている側からすると
女の子に同化させたい気分もあるんですけど、
できないですね。
川上
それからね、男の子でも、
3番目の男の子。
糸井
メガネの子(ジェフ)。
川上
メガネの子。あの子と、
主人公に同化するんですよね、なぜか。
糸井
ああー、なるほどね。
川上
メガネの子って、
私たちの世代だととくにそうなのかな?
科学万能の時代だったでしょう?
そのシンボルだから、
ああいう子が出てくると
明るい気持ちになるんですね。
いまは、ああいうのがないから。
ああいう、機械いじりがうまくて、
なんでもできるんだっという、
なんか、郷愁もあるのかもしれないですけど。
糸井
郷愁ですね。
科学という名の郷愁ですよね。うん。
川上
だから、いまの子どもたちが
プレイしたときにどう感じるかは
ちょっとわからないですけれど。
糸井
いまの子どもたちだと、
科学よりもスポーツでしょうね。
川上
ああ、スポーツでしょうね。
糸井
ぼくらは科学でしたから。
ぼくは、川上さんよりずっと歳上だけど、
スプートニクという人工衛星があったのは、
自分にとって大事件で。
科学はなんでもできるって、
いったん思いましたから。
川上
そうそう、私たちだと、
それがアポロなんですよ。
糸井
あー!
じゃあ、ちょっとだけスポーティですね。
アポロのほうが、
スポーティな要素が入ってますから。
川上
アポロにですか? スポーティ?
糸井
あの、『アポロ13』っていう
映画を観るとわかるんですけど、
あれはね、ある種、スポーツなんです。
っていうのは、地球に帰ってくるときに
コンピューターが壊れちゃうんですよ。
で、計器がまったく頼りになんなくて、
目測で降りるんですよ。
川上
えー! あ、それは映画だから?
ほんとにそうだったんですか?
糸井
ほんとにそうだったんですよ。
つまり、野球で150キロの球を、
バットで打ってホームランすることは、
科学的にはなかなか
説明しづらいらしいんですけど、
それと同じようなことで、
地球がどう見えるかっていうのを、
窓から見て、まるでイチローが
ボールをとらえるかのように、
とらえて降りてきた。
川上
すごい。
糸井
ちょっと角度が深かったら摩擦で消えますし、
浅かったら永遠に地球の周囲を
回っちゃうっていうところを、
コンピューターで計算するような角度で、
大気圏に突入してきたんです。
だから、パラシュートが開いたときに、
涙が出るんです。スポーツなんですよ。
川上
ふーん。
よっぽど訓練された人だったのかな。
糸井
もちろん。なにせ、トム・ハンクスですから!
川上
あははははは。
糸井
トム・ハンクスに不可能はないですから!
川上
‥‥わかりました(笑)。

(続きます!)

2003-08-06-WED