科学万能時代とスポーティなアポロ
- 糸井
- 川上さんの作品を読むときに、
ぼくはまあ、男なんで、
行ったり来たりはするんですけど、
読んでる最中に、
どっちに濃く同化してるかっていったら──。
- 川上
- 女性のほうですか。
- 糸井
- 絶対、女性のほうですね。
- 川上
- あ、でも私、ゲームしてるときは、
男の子に同化しますね。
- 糸井
- あ、そうですか!
- 川上
- うん。『MOTHER2』でも、
仲間の女の子(ポーラ)には、
絶対同化していないですね。
不思議ですねえ。
- 糸井
- たしかに、つくっている側からすると
女の子に同化させたい気分もあるんですけど、
できないですね。
- 川上
- それからね、男の子でも、
3番目の男の子。
- 糸井
- メガネの子(ジェフ)。
- 川上
- メガネの子。あの子と、
主人公に同化するんですよね、なぜか。
- 糸井
- ああー、なるほどね。
- 川上
- メガネの子って、
私たちの世代だととくにそうなのかな?
科学万能の時代だったでしょう?
そのシンボルだから、
ああいう子が出てくると
明るい気持ちになるんですね。
いまは、ああいうのがないから。
ああいう、機械いじりがうまくて、
なんでもできるんだっという、
なんか、郷愁もあるのかもしれないですけど。
- 糸井
- 郷愁ですね。
科学という名の郷愁ですよね。うん。
- 川上
- だから、いまの子どもたちが
プレイしたときにどう感じるかは
ちょっとわからないですけれど。
- 糸井
- いまの子どもたちだと、
科学よりもスポーツでしょうね。
- 川上
- ああ、スポーツでしょうね。
- 糸井
- ぼくらは科学でしたから。
ぼくは、川上さんよりずっと歳上だけど、
スプートニクという人工衛星があったのは、
自分にとって大事件で。
科学はなんでもできるって、
いったん思いましたから。
- 川上
- そうそう、私たちだと、
それがアポロなんですよ。
- 糸井
- あー!
じゃあ、ちょっとだけスポーティですね。
アポロのほうが、
スポーティな要素が入ってますから。
- 川上
- アポロにですか? スポーティ?
- 糸井
- あの、『アポロ13』っていう
映画を観るとわかるんですけど、
あれはね、ある種、スポーツなんです。
っていうのは、地球に帰ってくるときに
コンピューターが壊れちゃうんですよ。
で、計器がまったく頼りになんなくて、
目測で降りるんですよ。
- 川上
- えー! あ、それは映画だから?
ほんとにそうだったんですか?
- 糸井
- ほんとにそうだったんですよ。
つまり、野球で150キロの球を、
バットで打ってホームランすることは、
科学的にはなかなか
説明しづらいらしいんですけど、
それと同じようなことで、
地球がどう見えるかっていうのを、
窓から見て、まるでイチローが
ボールをとらえるかのように、
とらえて降りてきた。
- 川上
- すごい。
- 糸井
- ちょっと角度が深かったら摩擦で消えますし、
浅かったら永遠に地球の周囲を
回っちゃうっていうところを、
コンピューターで計算するような角度で、
大気圏に突入してきたんです。
だから、パラシュートが開いたときに、
涙が出るんです。スポーツなんですよ。
- 川上
- ふーん。
よっぽど訓練された人だったのかな。
- 糸井
- もちろん。なにせ、トム・ハンクスですから!
- 川上
- あははははは。
- 糸井
- トム・ハンクスに不可能はないですから!
- 川上
- ‥‥わかりました(笑)。