小説とゲームに流れる時間
- 糸井
- あと、ぼくは『MOTHER』をつくる直前に
小説(『家族解散』)を書いちゃったんですよ。
川上さんが小説を書いていることは
まったく不自由を感じさせないですけど、
ぼくは当時、「小説を書く自分」っていうのに
すごく怒ってたという状況にあったので、
それもゲームづくりに影響したかもしれません。
- 川上
- どういう小説だったんですか?
- 糸井
- あのね、いやーな小説だった‥‥。
- 川上
- 暗い感じの?
- 糸井
- 暗いです。
- 川上
- 読んでみたい。
- 糸井
- あの、エッセーで書けることを
書いてもしょうがないと思ったんです。
で、小説のせいにすれば、
書けることっていっぱいありますよね。
- 川上
- あ、それはそうですよね。
でも、小説でそれをやっちゃうと、
ツラくないですか?
- 糸井
- ツラいんです。
- 川上
- そうそう、
けっこうそうなんですよね。
- 糸井
- 長くかかるし。
あと、あの、なんだろう、
「なんで書いたんだよ?」っていうのが、
もう、わかんなくなってくるんです。
- 川上
- 長くなると、だんだん
「あ~~っ」て気持ちになりますよね。
- 糸井
- なります(笑)。
- 川上
- 私もいま、長編書いてるんですけどね、
なんか「もうイヤだ!」とか言って、
すぐに明るい方向に行っちゃうんですね。
小説家でもそうなるんですよ。
- 糸井
- あ、やっぱりそういうもんなんですか。
- 川上
- うん、うん。
- 糸井
- でも、村上春樹とかは、
長く書くのはぜんぜん平気で、
「短く書くのほうが難しい」って言いますよ。
- 川上
- ああいう天才みたいな人は、また違うから(笑)。
あ、そういえば、
村上春樹さんとふたりで書かれた
不思議な本(『夢で会いましょう』)も
ありましたよね。
- 糸井
- ええ。
- 川上
- あれ、好きだった。
- 糸井
- ああいうのは大丈夫なんですよ、ぼく。
だから、あれはぼく、小説とは思ってなくて。
いや、いま思えば小説ともいえるんですよ。
だけど、いまだからこそ言えるんで、
書いているときの意識は違うんです。
- 川上
- ああ、そっか、そっか。
- 糸井
- だから、左手で書いたほうがいいのかな(笑)?
原稿用紙に向かうと、
いろいろ考えるじゃないですか。
たとえば、ひとつのことを書くのに、
「こういう書き方をしたら
書いてないのと同じだな」
っていうようなことは、
書きたくなくなりますよね。
- 川上
- はい、そうですね。
- 糸井
- そういう気持ちがあるし、
かといって、もってまわるのもイヤだし、
んー、だから、
自分の位置が見えなくなるんですよ。
その、「自分が自由に書けるもの」
っていうもののツラさを知ってしまって。
で、もう、そんなものは全部、
犬に食わせてしまえということになる。
- 川上
- そうですね。
小説って、自由に書けるからイヤですよね。
- 糸井
- イヤですよねぇ。
- 川上
- だから、どんどん、書いちゃうこともできるし。
- 糸井
- うーん。
- 川上
- でも、ただ書いちゃうっていうのもイヤだから、
そのへんのいい加減さと厳密さが、
難しいかも知れませんね。
- 糸井
- いい小説を読むとうれしくなって、
「それでいいんだ」って思えるんですけどね。
その意味でぼくが頼りにしているのは
田中小実昌(たなかこみまさ)さんで。
何度か言っていることなんですが、
ぼくは田中さんの娘さんともいえるのが
川上さんだと勝手に思っていて。
- 川上
- そんな、おこがましい(笑)。
- 糸井
- 川上さん、田中さんがお好きですよね?
- 川上
- 好きです。大好きですけどもね。
- 糸井
- ぼくはそういうものがあるんだって
思うだけでこう、うれしくなっちゃう。
- 川上
- あー、そういうのってありますよね。
書いていて、いやーな気持ちになったとき、
いいものを読むと、
「あ、しまった、私、あんなイヤなこと
書かなくてよかったんだ」っていう、
そういう気持ちになりますよね。
- 糸井
- そうそうそう。
- 川上
- あ、でも、『MOTHER2』を
やってるときって、生活の中で、
そういう感じになりましたよ。
- 糸井
- うれしいなあ。
- 川上
- ああいう感じのお母さんがいていいんだって。
‥‥そう簡単にはできませんけど(笑)。
- 糸井
- あー。あれは、そうとう難しい存在です。
- 川上
- ね。まあ、無理ですけど、
あのあり方もOKだと。
- 糸井
- うん。だから、ゲームと小説の話に戻ると、
ゲームだと、あそこまでデフォルメして
描くことができるわけなんです。
もしあのお母さんを小説で書いたら、
書いてるやつバカかと思われますよね。
- 川上
- そうですよね。書くとしたら、
ポップな感じをものすごくちりばめないと。
そうしないと、
「ウソ臭いウソ」になっちゃいますよね。
- 糸井
- そうなんですよ。ゲームだと、
「ウソとウソのあいだに流れる時間」
みたいなものがあって、
プレーヤーがそれを埋めてくれるんですけど。
- 川上
- そうですね。
それは、絵のあるものだからなのかな?
- 糸井
- 時間が流れているということは大きいですね。
たとえばA地点からB地点に歩いて行くときに
文章だったら2行書けばすんじゃう。
ゲームだと、開いた距離のぶんだけ、
お客さんが埋めてくれるんですよね。
- 川上
- そうですね、小説だと、
その距離は飛んじゃいますね。
そうか、ゲームだと時間が流れてるんですね。
- 糸井
- そうなんです。
- 川上
- 逆にいうと、ゲームって
飛ばすことはできないんですよね。
だからこそ、「RPGがすごく嫌いだ」
っていう人がいるんですね。
- 糸井
- そうです。
で、ゲームだと、開いた距離を埋めることを
一生懸命やってくれた人ほど、
すごくよく覚えていてくれたりする。