作家の川上弘美さんは
『MOTHER2』を何回となくやったファンで、
『MOTHER2』をつくった糸井重里は
川上弘美さんの小説やエッセイのファンで、
ゲームを切り口にいろんな話が盛り上がりました。
前回大好評いただきました
「男女が同居するということ。」に続き、
ふたりの放談をたっぷりお届けします。
『MOTHER』ファンも、そうでない人も、
ごいっしょにその場にいる気分で、
ほんわりとお読みくださいませ、なんですよねー。
そうそう。

第6回

小説とゲームに流れる時間

糸井
あと、ぼくは『MOTHER』をつくる直前に
小説(『家族解散』)を書いちゃったんですよ。
川上さんが小説を書いていることは
まったく不自由を感じさせないですけど、
ぼくは当時、「小説を書く自分」っていうのに
すごく怒ってたという状況にあったので、
それもゲームづくりに影響したかもしれません。
川上
どういう小説だったんですか?
糸井
あのね、いやーな小説だった‥‥。
川上
暗い感じの?
糸井
暗いです。
川上
読んでみたい。
糸井
あの、エッセーで書けることを
書いてもしょうがないと思ったんです。
で、小説のせいにすれば、
書けることっていっぱいありますよね。
川上
あ、それはそうですよね。
でも、小説でそれをやっちゃうと、
ツラくないですか?
糸井
ツラいんです。
川上
そうそう、
けっこうそうなんですよね。
糸井
長くかかるし。
あと、あの、なんだろう、
「なんで書いたんだよ?」っていうのが、
もう、わかんなくなってくるんです。
川上
長くなると、だんだん
「あ~~っ」て気持ちになりますよね。
糸井
なります(笑)。
川上
私もいま、長編書いてるんですけどね、
なんか「もうイヤだ!」とか言って、
すぐに明るい方向に行っちゃうんですね。
小説家でもそうなるんですよ。
糸井
あ、やっぱりそういうもんなんですか。
川上
うん、うん。
糸井
でも、村上春樹とかは、
長く書くのはぜんぜん平気で、
「短く書くのほうが難しい」って言いますよ。
川上
ああいう天才みたいな人は、また違うから(笑)。
あ、そういえば、
村上春樹さんとふたりで書かれた
不思議な本(『夢で会いましょう』)も
ありましたよね。
糸井
ええ。
川上
あれ、好きだった。
糸井
ああいうのは大丈夫なんですよ、ぼく。
だから、あれはぼく、小説とは思ってなくて。
いや、いま思えば小説ともいえるんですよ。
だけど、いまだからこそ言えるんで、
書いているときの意識は違うんです。
川上
ああ、そっか、そっか。
糸井
だから、左手で書いたほうがいいのかな(笑)?
原稿用紙に向かうと、
いろいろ考えるじゃないですか。
たとえば、ひとつのことを書くのに、
「こういう書き方をしたら
書いてないのと同じだな」
っていうようなことは、
書きたくなくなりますよね。
川上
はい、そうですね。
糸井
そういう気持ちがあるし、
かといって、もってまわるのもイヤだし、
んー、だから、
自分の位置が見えなくなるんですよ。
その、「自分が自由に書けるもの」
っていうもののツラさを知ってしまって。
で、もう、そんなものは全部、
犬に食わせてしまえということになる。
川上
そうですね。
小説って、自由に書けるからイヤですよね。
糸井
イヤですよねぇ。
川上
だから、どんどん、書いちゃうこともできるし。
糸井
うーん。
川上
でも、ただ書いちゃうっていうのもイヤだから、
そのへんのいい加減さと厳密さが、
難しいかも知れませんね。
糸井
いい小説を読むとうれしくなって、
「それでいいんだ」って思えるんですけどね。
その意味でぼくが頼りにしているのは
田中小実昌(たなかこみまさ)さんで。
何度か言っていることなんですが、
ぼくは田中さんの娘さんともいえるのが
川上さんだと勝手に思っていて。
川上
そんな、おこがましい(笑)。
糸井
川上さん、田中さんがお好きですよね?
川上
好きです。大好きですけどもね。
糸井
ぼくはそういうものがあるんだって
思うだけでこう、うれしくなっちゃう。
川上
あー、そういうのってありますよね。
書いていて、いやーな気持ちになったとき、
いいものを読むと、
「あ、しまった、私、あんなイヤなこと
書かなくてよかったんだ」っていう、
そういう気持ちになりますよね。
糸井
そうそうそう。
川上
あ、でも、『MOTHER2』を
やってるときって、生活の中で、
そういう感じになりましたよ。
糸井
うれしいなあ。
川上
ああいう感じのお母さんがいていいんだって。
‥‥そう簡単にはできませんけど(笑)。
糸井
あー。あれは、そうとう難しい存在です。
川上
ね。まあ、無理ですけど、
あのあり方もOKだと。
糸井
うん。だから、ゲームと小説の話に戻ると、
ゲームだと、あそこまでデフォルメして
描くことができるわけなんです。
もしあのお母さんを小説で書いたら、
書いてるやつバカかと思われますよね。
川上
そうですよね。書くとしたら、
ポップな感じをものすごくちりばめないと。
そうしないと、
「ウソ臭いウソ」になっちゃいますよね。
糸井
そうなんですよ。ゲームだと、
「ウソとウソのあいだに流れる時間」
みたいなものがあって、
プレーヤーがそれを埋めてくれるんですけど。
川上
そうですね。
それは、絵のあるものだからなのかな?
糸井
時間が流れているということは大きいですね。
たとえばA地点からB地点に歩いて行くときに
文章だったら2行書けばすんじゃう。
ゲームだと、開いた距離のぶんだけ、
お客さんが埋めてくれるんですよね。
川上
そうですね、小説だと、
その距離は飛んじゃいますね。
そうか、ゲームだと時間が流れてるんですね。
糸井
そうなんです。
川上
逆にいうと、ゲームって
飛ばすことはできないんですよね。
だからこそ、「RPGがすごく嫌いだ」
っていう人がいるんですね。
糸井
そうです。
で、ゲームだと、開いた距離を埋めることを
一生懸命やってくれた人ほど、
すごくよく覚えていてくれたりする。

(続きます!)

2003-08-11-MON