ソースと感情のたかぶりの表現
- 川上
- 『MOTHER2』には、いろんなものが、
ものすごく細かく入ってますよね。
でも本筋は、正統派というか、
冒険しながら成長していくもので。
そこがまたいいんだろうなと思うんですけど。
- 糸井
- いろいろなものを元にしてたりするんですが、
仕上がりとしてはスタンダードなんですよね。
ほかのゲームって、構造が逆で、
元になるものが似通ってたりするんですよ。
ゲームをつくる人が勉強好きすぎて、つい、
RPGの歴史だとか、妖怪の歴史だとか、
『クトルゥー神話』だとかを
読み始めちゃうわけですよ。
- 川上
- うん(笑)。
- 糸井
- あれやっちゃうと、ソースが同じになっちゃう。
- 川上
- そうですね、ほんとそうですね。
- 糸井
- 逆に、『MOTHER2』の場合は、
元になったもののバラつきかたっていうのが、
ものすごいんですよ。小学校のとき観た、
新東宝のちょっとエロな映画とか、
そういうものがじつは入ってたり(笑)。
- 川上
- あー(笑)。でも、そういうのって大事ですよね。
以前、私、バルタン星人の名前の由来が、
シルヴィー・バルタンだっていうのを
聞いたときに感動しました。
- 糸井
- いいですよねー(笑)。
- 川上
- そういう感じですよね。そうじゃないと、
(その世界へ)飛べないんですよね。
- 糸井
- そうなんです、そうなんです。
でもそれは、川上さんの小説を
読んでいるときも感じますよ。
きっと、川上さんだけがわかっていることが
いっぱい入ってるんだろうなーと思いながら。
- 川上
- あー、それは、よくわからないです。
自分のことはよくわからないですね。
わかろうとしてもいいんだろうけど、
わかっちゃうとそれこそ‥‥。
- 糸井
- つまんなくなる?
- 川上
- ええ、ソースがわかっちゃってると
つまらないので、ボカしたままにしておくのが。
- 糸井
- あとになって自分で気づくっていうのも、
楽しいですけどね。
- 川上
- そうですね。でも、あとで、
「あ、しまった、あれの真似してた」とか
気づくと怖いでしょうね(笑)。
- 糸井
- 川上さんのお書きになる小説で、
誰かの真似とか、ないでしょう(笑)。
- 川上
- 真似じゃなくても、なんか、こう、
「あれに絶対影響されてる」とか、
あるかもしれない。
それも、本筋とかではなくて、
すごくどうでもいいようなところで。
- 糸井
- それもまた、
ゲームと小説の違いかもしれないですね。
ゲームだと、好きなものを全部、
思い切って単純化して、ぶつけちゃって、
「愛してる!」って言っていいんですもん。
- 川上
- そうですね(笑)。
- 糸井
- で、小説で「愛してる!」って言うの、
難しいですよー?
- 川上
- でも、それね、吉本ばななさんが
すごくうまくやったんですよ。
あれ、すごかったですね。
「悲しい!」とか、
いっぱい言っちゃうんですよね。
- 糸井
- あ、そうですね。
- 川上
- でもね、日本の昔のものって、
じつはみんなそうですよ。
すぐ悲しくて泣いちゃうし、
男の人もワーワー泣いてるし。
「愛してる」って言葉はないけれども、
なんか、しょっちゅうしょっちゅう
そういう感情のたかぶったようなことを、
言い合ってるんですよね。
- 糸井
- 僕はそういう感情のたかぶりを、
ネットを始めてから
簡単にできるようになりましたよ。
- 川上
- え、それはどういう?
- 糸井
- そのときに書いたものを、
「あとで直すかもしれない」というものとして
出せるようになっちゃったんです。
あの、でも、直さないんですよ、じつは。
だけど、たとえば友だちと話すときに、
「いま考えの途中なんだけど、
こんなことを言っていいかな?」
っていうふうに言えますよね?
- 川上
- はい。
- 糸井
- いまこうやってしゃべってることだって、
べつに体系づけてしゃべってることなんか
何もないわけなんですよ。
でも、体系づけたものよりも、
「考え中なんだけど‥‥」
っていうことのほうが、
じつはおもしろかったりするんですよ。
- 川上
- そうですね。
- 糸井
- インターネットって、それが言えるんですよ。
- 川上
- はぁー、そっかそっか。
- 糸井
- だから、
「途中までしか考えてない、ごめんね、
じゃ、また来週」って言えるんです。
そのあとに、その続きの話をしなくても、
べつにかまわないんですよ。
- 川上
- あー、そのおもしろさはありますね。
やっぱり活字とは違いますね。
あの、活字って、残っちゃうものだから、
直す機会があると、直しちゃうんですよね。
キチンと。そっかそっか。
- 糸井
- 商品として完成品を出すっていうことのクセが
みんなにつきすぎちゃってるのかもしれません。
インターネットだと、
会話にどんどん近くなっていくから、
「悲しくて泣いちゃった」なんていうのは、
もー、気持ちよく書けちゃう。
- 川上
- そうですね(笑)。
活字とは違いますね。
- 糸井
- あの、活字って、ちょっと昔だと、
圧をかけて押す活字をつくるまでに、
散々労働者があいだに入りますよね。
あれで、ちょっと、
「申しわけございません」なところが。
- 川上
- ありますよね! なんかそれ、ありますよね。
- 糸井
- なんか、ありますよねえ(笑)。