トニーとポーキー
- 川上
- 『MOTHER2』のなかにある「友情」が
すごく好きなんですけど、
とくに印象に残っているのは、あの、
寮に残っている男の子。
- 糸井
- トニー。
- 川上
- そう、トニー。ああいう子を、
どうやってつくれるんだろうかと。
- 糸井
- あの、まず、彼のことは、
明らかにゲイとして描いてるんですよ。
- 川上
- うん、そうですよね。それもかわいいゲイ。
キレイでかわいい、ゲイ。
- 糸井
- うん。あの、女の子って、
「女の子どうしで手をつないで学校行く」
みたいな季節がありますよね。
女の子があれを経過してるのと同じように、
男の子にもあるんです。
- 川上
- ね、きっとありますよね。
- 糸井
- で、それを、みんなが隠しすぎてるな、
っていうふうに思うんです。
- 川上
- あ、隠してます? 男の子って。
- 糸井
- 隠してますね。
で、友情っていう名前がつけられるから、
とりあえずそこの引き出しに
入れてみたりするんですよ。
- 川上
- なるほど、なるほど。
- 糸井
- 『MOTHER2』のトニーには
その感じを出したかったんです。
たんなる友情で終わってしまうと、
ガマン比べみたいになっちゃうから。
- 川上
- そうですね、あそこだけ違うんですよね。
ほかの、4人になったときの、
ゆるやかにつながっている友情とは
ぜんぜん違って、もっと切実で。
- 糸井
- 違いますね。たとえば、その、
川上さんと僕がパーティ組んで戦ってるときに、
川上さんが危ないときに、思わず僕が
「危ないっ!」って飛び出すというのは、
戦う機能集団としての役目からなんですよ。
- 川上
- そうですね、うんうん。
- 糸井
- それは「友情」と名づけるには
ちょっと甘さが足りない。
- 川上
- ああ、あの、ほら、ええと、
塀を乗り越えるときに
トニー踏み台になってくれるでしょう?
あれが、それを象徴してるんですね?
- 糸井
- そうですそうです。
あれはね、自分で書いててね、
ちょっとホロリだった(笑)。
考えてるときにね、
ツーンとするんですよ。
- 川上
- なんかあれはね、くるんですよね(笑)。
ツーンとすると、言葉が、
「うっ」て、なっちゃいません?
- 糸井
- なる(笑)。
- 川上
- 困りますよね。
- 糸井
- だいたいそういうときって、
ガマンして、言葉をもう1回変えるんですね。
何をするかっていうと、削る。
「思い」のほうを削っていく。
- 川上
- ああ、そうですね。きっとそうです。
- 糸井
- そういうの、いっぱいありましたねー。
- 川上
- ほかにどういうところでした?
- 糸井
- いちばんイヤだったのが、
ギーグとの戦闘ですね。なんていうんだろう?
あの、生ゴミの中にリンゴの匂いが混じると、
いやじゃないですか。
イヤだけど甘くていい匂いじゃないですか。
あれを出したかったんですよ。
- 川上
- あー、難しい!
- 糸井
- ひとつ例を挙げると、
これはぼくが自分で経験したことかどうか
それすら定かじゃないんですけど、
交通事故の場面を覚えているんです。
女の人が事故に遭って、
「痛いっ!」って言っているのを
聞いたような気がしてるんです。
その「痛いっ!」はね、キツいんですよ。
たんに交通事故っていうと、
その言葉のなかには人がいないんですね。
だけど、「痛いっ!」って言われたとたんに、
そこに人が入ってきちゃうんですよ。
- 川上
- うんうん、そうですね。
実感が入ってきちゃうから。
- 糸井
- ええ。で、その「痛いっ!」に当たるものが、
生ゴミの中のパイナップルや、バナナの匂い。
- 川上
- ああ、こっちに引き戻してきちゃうものですね。
- 糸井
- で、子どものときにはそれを、
ちょっとだけいい匂い、って思うんですよ。
- 川上
- うん、うん。
- 糸井
- ぼく、小っちゃいころ、
河原でよく遊んでたんですけど、
近所の酒屋がソースを作ってて。
ソースって、タマネギとか果物を潰しますから、
その過程でできたゴミを
河原にどんどん捨てるんですよ。
そのゴミのそばに行くと、ゴミなんだけど、
ちょっといい匂いなんですよね。
- 川上
- はぁー、でも、ものすごく‥‥。
- 糸井
- すっごいイヤなんです。
- 川上
- そうですよね。
- 糸井
- だから、すっごいイヤなものと、
ちょっといいものって、
いっしょになってたほうがイヤなんです。
- 川上
- イヤですね、そうですね。
あの、ポーキーっていう人がそれなのかな。
- 糸井
- そうです! まさにそれです。
- 川上
- だから、ものすごく悪いだけの人にせずに、
どっちつかずの不安定なまま、
持っていくわけですね。難しいな、それは。