『ホテル・カリフォルニア』とヘロヘロ
田中さんが参加する際、
糸井さんから説明というか、
「こうしたいんだ」というようなものは
伝えられたのでしょうか?
- 田中
- ああ、なんとなく最初に
糸井さんと話したの覚えてます。
で、説明というより雑談の中で出てきた
バンドがいくつかあって。
その中の一つが
「イーグルスの『ホテル・カリフォルニア』!」
端的ですねえ(笑)。伝わりました?
- 田中
- 伝わりました‥‥というか
勝手にイメージつくっちゃったんですが(笑)。
アルバム『ホテル・カリフォルニア』の最後に
『ラスト・リゾート』って曲があるんだけど
ぼく、それが大好きだったんですね。
なんだろ‥‥ひとつの曲が
どうのこうのって、言うよりも
アルバム聞き終えたあとの余韻‥‥
その余韻の質感みたいなものが
なんとなく自分がマザーの音楽にかかわるうえで
根底にあるかも‥‥。
へええ~、そうなんですか。
- 田中
- 糸井さんは
「New Kid in Town、はいいよねえ」とか
話してくれて、
僕はアルバムのB面の最後の
2、3曲の流れが好きで。
で「ラスト リゾート」の最後の歌詞が
「You call some place paradise - kiss it goodbye.」
なんか、その「キス イット グッバイ」を聞いて
終わる‥‥のが意味なく好きで(笑)。
- 糸井
- うんうんうん。いい歌だよね~。
- 田中
- あと、これはじめて言うんですけど、
糸井さんと共感できる既存の曲より
もっと『MOTHER』の音楽の根底には
もうひとつ大事な音楽があるんです。
それはまだ『MOTHER』の開発が
始まりかけた頃
糸井さんが弾いていたメロディなんですよ。
メロディ? 糸井さんが弾いたんですか?
- 糸井
- は?????
- 田中
- そう、そうなんです、
当時ね、糸井さんの事務所へ
おじゃましたとき、
たぶん糸井さん忙しくて、
もうヘロヘロの時があったんですよ。
で事務所に、こんなちっちゃなキーボードがあって
それを糸井さんが、ヘロヘロ‥‥って感じで
弾かれてたんですよ‥‥
なんかビブラートが
ヒョロヒョローってかかってて‥‥。
で そん時の音の印象が なんか強烈で
その時の音色が、もう、ゲームの奥の方を
ぜんぶ支配してるんですよ。
- 一同
- へーーーーーーっっっ!!!
- 鈴木
- はははっ! たまげたなあ、こりゃ、
初めて聴く話が多いねぇ!
- 糸井
- ‥‥口にゲンコツが入りそうだ。
- 田中
- あの、読者からのメールに、
「『マジカント』の音楽が
~♪やさしいね、やさしいね♪~
って聞こえました」
っていうのがあったでしょ?
ああ、ありましたありました。
マジカントをプレイしていると、不意に祖母が
「これ、♪やさしいね、ほらやさしいね♪って、
言っているの?」
と、私に聞いてきました。
当時のファミコンゲームの音楽に歌詞なんてついていません。
私は
「音だけで、何も言ってないよ」
と冷たく言い放ちました。祖母は、
「何だか、♪やさしいね、やさしいね、♪って
言っているみたいに聞こえたんだよ」
といいましたが、私はその時祖母に対して、
老人だから耳が遠くて、変に聞こえてるんだ、位の事を思い、
心の中で「けっ」とか思っていました。
普段、母が涙を流す位いじめるくせに、
やさしい、とかを口にして、
半端な感受性を見せている彼女に、
子供ながら腹を立てたのかもしれません。
その二年後、私が6年生のとき、祖母は亡くなりました。
口には出さなくとも、絶対言ってはいけないような
悪態を心に呟く事もあった、そんな祖母だったのに、
私は、いっぱいいっぱい泣きました。
全然マザーとは関係のない話をメールしてごめんなさい。
楽しみにしてます。
(やっち)
- 田中
- ああゆう、なんか一言では言えない音程が
微妙に揺れて、ポヨーンポヨーンってした音色、
鳴り方は、全部糸井さんのあの夜弾いてた
キーボードの音色、
「ヘロヘロ」感を引き伸ばしてるんですよ。
『MOTHER2』だと
パワースポット、あといちばん原型に近いのが
エデンの海とか‥‥あの辺りはモロって感じで。
‥‥疲れた糸井重里の「ヘロヘロ」を。
- 糸井
- ‥‥つまり、どせいさんの絵と
同じ作りかただったんだ。
あのゲームのなかに、
いかに「オレ成分」が濃いかが、
自分で、いま、わかった。
- 田中
- うん。たぶん、
糸井さんがボソッと言ったことなんかが
ザーッと引き伸ばされている。
それが『MOTHER』の音楽なんだよ。
- 糸井
- そういう、オレのなんでもないようなことを
ちゃんと聞いてくれていたんだよ。
みんな生意気な人なんだけど、
「なんかつくりたい!」っていうときになると、
生意気なヤツが、急にいいヤツになるんだよね。
- 鈴木
- うん、そうだね。うん。
- 糸井
- 『MOTHER』の音楽チームは、
バンドマンなんですよね。
ひとつが『ホテル・カリフォルニア』で、
もうひとつが糸井さんの弾く「ヘロヘロ」で。
- 田中
- まあ、もっといろんな影響があるのは
当然なんですが、
ほんと最初の切っ掛けになったのは
そういう事かも、ですね。
‥‥いや、驚きました。
そういえばゲームには全く無関心だった母が
唯一関心を寄せたのもMOTHER2でした。
後ろで洗いものをしていた母から突然
「やさしい感じの音楽やな。なんていうゲーム?」
って言われたとは驚きました。
(ヒラカワ ユウゾウ)
- 田中
- もちろん、それは僕の中の話で。
いままで言ったような音のイメージは、
マザーの世界の中にある
「自然の音」を演出するような部分にのみ
影響してるんだけど‥‥。
慶一さんはやっぱ映画として
「サントラ」を考えた時、
全体を貫くメロディとして、
ビーチボーイズとか
ビートルズとか‥‥
そういう人たちのイメージが‥‥。
- 糸井
- うんうんうん。
- 田中
- 当時、実は糸井さんから資料として
ビーチボーイズのCDを
いただいた記憶があります。
「ビーチボーイズ、いいんだよね!」
って(笑)
- 糸井
- おぼえてない(笑)。
でもね、『MOTHER』の世界を描くためには、
アメリカのいいところを出したいなって思ってた。
アメリカのイヤなところはいっぱいあるんだけど、
「おかげで助かったぜ!」っていうアメリカ、
サンキューを言いたいアメリカっていうのも、
いっぱいあるんだよ、俺たちのなかに。
- 鈴木
- うん。アメリカはイヤな国だけど、
音楽や、その周りはいい。
- 糸井
- そう。こないだも、
夜中にベット・ミドラー聞きながら
あらためて思ったんだよ。
オレはけっこうアメリカと接してるんだって。
だから、貧乏とか大臣とか関係なく、
なんかみんながなにかを、
目の前のなにかをつかめそうな気がするっていう、
そういう「いいアメリカ」の気分が、
ビーチ・ボーイズにはつまってるんだよ。
- 鈴木
- うん。だからこそ、ビーチ・ボーイズって、
明るさを装っていて、
明るくいなくちゃいけない、
そこが悲劇なんだな。
まさにアメリカ。
ホテル・カリフォルニアもね。
ほんとはさ、暗いんだよね。
- 糸井
- 暗い。で、そういうのはやっぱり
オレの性格にも合ってるんだよ。
にしても‥‥田中さん、えげつないなあ(笑)。
- 田中
- (笑)
MOTHERをプレイしてからもう十年以上たっているのに、
「サボテンは歌う・・・せつせつと歌い続けた」
と、歌うサボテンと、暗い地下で鳴り響くピアノの音が
昨日見た夢のように繰り返し甦ります。
(ひかげのかずら)