「救われる音楽に。
『エイト・メロディーズ』」
好きな食べ物はオムライスだったから
オムライスを食べるたびに思い出してたの。
あの、メロディーと一緒に。
小学校の先生になって3年目かな、音楽の教科書に
「エイトメロディーズ」が
載っていたときは興奮した。
リコーダーや鉄琴、木琴、ピアニカ、エレクトーン、
トライアングルなどを使った
シンプルながら美しい楽譜だった。
始めはリコーダーのみ、
繰り返すうちに楽器が増えていくの。
8回目の繰り返しで全部の楽器が
美しいハーモニーとなる。
授業参観で、保護者の皆さんに披露したもんね。
6年生だったあの子たち、今年成人式を迎えました。
あのとき、この曲は
マザーって言うゲームのキーになってる
曲なんだって教えたら
男の子達「マーザーツー」って歌っていたっけなあ。
何だかいろんなことが蘇ってきて興奮する。
サントラのカセット、どこへ行っちゃったんだろう。
ゲームの内容、いっぱい忘れちゃってるな。
でも、オムライスとエイトメロディーズ、
今でも胸がキュンとします。
(佳代)
- 糸井
- いっちばん悩んだのは、
『エイト・メロディーズ』です。
- 鈴木
- うん。
- 田中
- ああ、そうそうそう。
- 糸井
- 音楽づくりが順調に進むなかで、
唯一「違う!」ってストップをかけたような気がする。
なぜかというと、ぼくのなかに最初から、
わりと明確なコンセプトがあったんです。
‥‥賛美歌なんですよ。意味として。
要するに、教会で聞えてくる音楽にしたかった。
それを聞いた人が
救われたような気持ちになるような、
そんな音楽にしたかったんです。
これは、けっこう難しかった。
- 鈴木
- うん。あれは確かに、難しかった。
ひろかっちゃんと私で、
両方で違うアプローチしてみたりね。
- 糸井
- あの曲だけは、ダメ出しを何回もやってると思う。
「なんかさ、もうちょっとさ」って。
ほかの曲でそんなふうに思ったこと1回もないし、
「ありがたいな、これオレの想像を超えてるよ」
って、ずーっと思ってたんだけど、
『エイト・メロディーズ』だけは、
「君たちはわかっとらん!」って思ったもん(笑)。
- 鈴木
- 何度も作り直した記憶があるよ。
でも、賛美歌ってのは、いいヒントになった。
糸井さんのなかにあった具体的なイメージを
もう少し詳しく教えてください。
- 糸井
- もちろん、賛美歌といっても、
形として賛美歌のような曲にしたいってわけじゃなくて。
宗教がないと成り立たないような世界観って、
長年、人間の歴史ってのはつくってきたわけですよ。
こざかしい人間の理屈を、超えたような何かってのを、
ずうううっと、人間は必要としてきたんでさ。
宗教のない民族なんて、ひとつもないわけですよ。
そういうなかで、「教会」ってのが、
仕組みとしてよくできてると思うんですよ。
仕組み?
- 糸井
- うん。たとえば、
「教会」のいちばんいい仕組みっていうのは、
なんにも知らないでフラッと訪ねてきたヤツが、
一気に救われちゃうようなところなんです。
で、教会で鳴っている賛美歌という音楽って、
そういう仕組みの一部として機能してるんです。
お寺の木魚の音だけじゃ、かなりむつかしい。
- 鈴木
- うん、うん。箱全体で鳴らして、
エコーで説得するんだよ、西洋は。
- 糸井
- そうそう。
寂しい人だとか、悲しい人だとか、
打ちのめされてる人だとか、
いろいろいるわけじゃないですか。
それが、短い音節でパッと聴けて、
一気に「救われた」って思える音楽ってのは、
すごいと思うんですよ。
だからぼくは『エイト・メロディーズ』を
そういう役割の音楽にしたかったんです。
それで、「賛美歌」。
- 糸井
- うん。人を救う音楽には、ゴスペルのように、
迷う人の背中を強く押してくものもあるけれど、
オーソドックスな賛美歌の持ってる──。
- 鈴木
- 引いてる感じ。
そこに、ただ在るというね。
- 糸井
- そう!
『エイト・メロディーズ』はそうしたかった。
でも、そういう意図をもって、
「お願いします」っていうのは、伝えかたとして
ものすごく、難しかったですねえ。
- 鈴木
- そりゃそうだ。そう言ってくれれば
よかったのにって、
その時は理解しにくかったろうな、
50代じゃないし(笑)。
- 糸井
- そうだよねえ(笑)。
最初のうち、慶一くんたちがつくってくれた
『エイト・メロディーズ』のデモって、
どこかのところで
曲として成り立ちすぎてたんです。
「これを聴いて、助かった」みたいな音は、
ポピュラー・ミュージックの中に
ルーツを探っていっても見つけにくいんです。
だから、もっと成り立たないものに
したかったんですよね。
でも、それってメッチャクチャ難しい注文だから、
もう、「頼むわー」って言うしかなくて。
- 鈴木
- しかも、難しかった要因がもう1コある。
『エイト・メロディーズ』は
8つに分かれなきゃいけないんだよ。
- 糸井
- ハハハハッ!
- 鈴木
- やっぱり『エイト・メロディーズ』なんだから
8小節にして1小節ずつ違うメロディーにしようと。
それは最初に決めたんだ。
ところがその構造だと
ポップ・ミュージックって
なかなか成り立たないんだよ。
現代音楽の領域だ。
フィリップ・グラスとか、
マイケル・ナイマンのね。
(※ともに現代音楽の作曲家。
クラシックから映画音楽まで幅広く活躍)
音楽のセオリーとしては。
- 鈴木
- うん。1小節ごとに違うメロディーがあって、
しかも、同じメロディーを使い回せない。
同じメロディーが出てくると、
ゲームのなかで集めるときに
わかんなくなっちゃうからね。
だから、それぞれに違うメロディーが
8コつながってひとつの曲にならなきゃいけない。
それはとても難しいんだけど、
それをあえてつくったのが、
よかったのかもしれないね。
- 糸井
- うん。実際にできたし、
「できる!」って信じてダメ出ししてたから。
音楽に関するジャッジで、
ぼくがめずらしく厳しい顔してキリッとしたのは、
あそこだけですね。
8つのかけらから成るMOTHER2の曲は
耳コピーして楽譜に落とし、
今までに使った4台の携帯全てに
着信音として登録してきました。
おとうさんとおかあさんからの着信音にしています。
(クロ)
- 鈴木
- あれは、ひろかっちゃんが先に作ったんだよね?
で、オレが作って、それを合体させて。
サビの部分がひろかっちゃんか。
- 田中
- 『MOTHER2』の
『エイト・メロディーズ』は、そうだったかな。
- 糸井
- サンプルがいくつもできてたよね。
- 鈴木
- うん。最初は、わりとアイリッシュな、
ジョン・レノンっぽい感じを
イメージしたんだけどね。
- 糸井
- はぁー。
- 鈴木
- うん。でも、「賛美歌っぽく」はなった。
ジョン・レノンの
『ラック・オブ・ジ・アイリッシュ』
(※『サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ』
に収録されたナンバー)的な部分は
8番目のメロディの最後に残ってるね。
- 糸井
- 苦労しただけあったよねえ。
ゲームのなかで「救われる」音楽になったもの。
- 鈴木
- 小学校の教科書に載ってたらしいんだけど。
- 田中
- そうらしいですね。僕も知らなかったけど。
いまのお話を聞いて、
転校生の人で、リコーダーで練習してる
『エイト・メロディーズ』を聴いたっていう
メールのことを思い出しました。
- 糸井
- ああ、あったねー。
10年くらい前、中学3年のときに、
転校生で引っ越してきたばかりの私は
何もかもが新しい学校生活で
進み具合や違う公式で解かれる授業を
泣きたい気持ちで受けていました。詳しく聞ける友達もまだいなかったし、
もう受験ムード漂う教室で行われる授業を妨げて
先生に「わかりません」というのもできなかった。
みんなが知ってる英単語を必死に辞書で調べて、
新しいものも一緒に調べて
わからないことだらけでもう嫌だ!
と思っていたときに聞こえてきたんです。MOTHER1のエイトメロディーズが。
隣の小学校から。
リコーダーで繰り返し繰り返し聞こえてくる
メロディが懐かしくて嬉しくて新しいものだらけに
囲まれて寂しくなっていた私は、
昔からの友達に会えて
「がんばれ」って言ってもらったような
気がしました。CDを聞いていたら思い出しました。
今も同じところに住んでいます。
あの時聞こえたエイトメロディーズの楽譜は
その小学校に弟が行っているということで
コピーを貰いました。
コピーしてくれた子とは今でも友達です。
一緒に「MOTHERが出るね!」と喜んでます。
(TOTO)