いまなお、多くの人の心をとらえて離さない
『MOTHER』シリーズの音楽。
その音を紡いだのが鈴木慶一さんと田中宏和さん。
開発者の糸井重里を交えて
たっぷりとひもといてもらいましょう。
その経緯を。とっておきの秘密を。込めた情熱を。
一見のほほんとした「おじさん」たちは、あのとき、
あきらかにムキになって戦っていた!鬼だった!
なお、ときたま登場する「ムケてない」ということばは
「大人になりきれていない」という意味で使います。
あまり余計なことなど想像せぬように。

第6回

「ロンドンレコーディング」

※写真は『MOTHER2』制作時のものです

音楽も大好きなので、テープ購入しましたが、
聞きすぎて変な音になって今は聞けません。
CDを探したけれど、もう売っていませんでした。
この音楽も二度と聞くことはないとあきらめていたのに、
本当にありがとうございます!
(りんご)

MOTHERの音楽も大好きでしたが
そのころ家にはCDプレイヤーもビデオデッキも
なかったので、録音機能の付いた小さなテープレコーダーを
テレビのスピーカーに押し付け
息を殺して必死に録音してたのを覚えています。
(さとこ)

鈴木
『MOTHER』の1作目はサントラアルバムを
ロンドンで録音したじゃない?
そんなこと生まれて初めてのことでさ。
夢のような話だったんだよ。
プロデューサーとしてロンドン行って、
ミュージシャン使って録るわけじゃん?
糸井
『エイト・メロディーズ』のアレンジを
マイケル・ナイマン
(※現代音楽家。ピーター・グリナウェイ作品など
多くの映画音楽も手がける)
がやってくれたんだよね。
鈴木
そうそう、マイケル・ナイマン。
じつにぴったりの依頼だったと思うけど。

どういうつながりでマイケル・ナイマンが
『エイト・メロディーズ』のアレンジを?。

鈴木
とりあえずさ、連絡取ってみようよ、って。

うわあ(笑)。

糸井
ヒドイ話だよね(笑)。
田中
あと、あのアルバム、
人選がとんでもなくシブイんですよね。
鈴木
シブい、シブい。
も、命懸けて人選してる感じ(笑)。

それはどうやって選んだかというと‥‥。

鈴木
東京でレコーディングしたとき、
エンジニアの森さんっていう人が
私とぴったりの
ブリティッシュ・ロック・マニアで、
そんでふたりでミュージシャンリストつくって、
東京・ロンドン間で、
向こうのコーディネーターにオファーする。
で、ロンドンに着いたら、
もう、スケジュールの合わない人は
スタジオに置いてある
極秘のリストの連絡先のところ見てさ。
それをメモして、直電(笑)。

(笑)

糸井
いやー、信じられないくらい、
野放図にやってたからね。
鈴木
そうそうそう。いまだから言うけど、
やっぱり、お金もかかっちゃったしねえ。
糸井
「いいよ、いいよ」でやって、
信じられないものになったんだよ。
で、売れても(儲けを出すのが)無理ですね、
みたいなことになっちゃった。
でも当時は、「いいよ」が言えたんだよねえ。

はぁ~。すごいものができるわけですね。

鈴木
話が具体的になっていくにつれて、
「こりゃすごいことになってきたぞ!」
って感じだったね。
なにしろ、ピーター・ゲイブリエル・スタジオ
(リアル・ワールド・スタジオ)
とかに行くわけだよ。日本人初だよ?
しかもつくってる途中だったから、
工事中の場所もある。
ジョージ・マーティンの
エアー・スタジオも使ったな。
明日はジェフ・リンと
ジョージ・ハリスンが来るらしい、なんてね。
スタジオ・マネージャーが
飾ってあるポートレート拭いてるの。
「ここ来ちゃったよ!」って感じでさ。

形だけのロンドン・レコーディングっていう
わけじゃなかったんですね。

鈴木
だって、ロンドン行って、
まずボーカリストのオーディションするんだもん。
10代の女の子と、
ロック・ヴォーカリストって感じの男性と、あと、
ボーイソプラノ使おうと思ってたから男の子。
1回目に行ったときは毎日オーディションしてた。
1ヵ月に2回ぐらい行ってたかな?
オーディションが終わったら、
テレビのインタヴューシーン撮ったり、
メイキング用のビデオクルー頼んだり、
取材用にその女の子と対談したりして。
そういうふうにして、どっぷり作ったから、
なんかこう、終わったあとの充足感はすごかったね。
「仕事したー。ロンドンで、ありとあらゆる」って。
レコーディングが終わったとき、
チェリストの溝口肇さんが
たまたまロンドンに来てて、
スタジオででき上がったのをぜんぶ聴いたの。
正確にはバースってとこだけど。
溝口さん、「感動しました」って言ってくれたのを、
おぼえてるなあ。うん。すごくうれしかった。
異国で、英国人のなかで日本人いなかったし。
「サウンズ・グッド」じゃなくて、
「感動しました」って、日本語で。
糸井
あのアルバム、慶一くんは、
自分をフルにぜんぶ出したような感じしますよね。
鈴木
うん、ぜんぶ出した。
だからこのあと、困っちゃうんだけどね(笑)。
ま、もともとつくった音楽が
ストレートにつくっていったもので、
ロンドンで録るからといって、
小細工できるようなものじゃなかったからね。
素直にポンって提示するほうが、
ちゃんと歌ってくれたり、
ちゃんと演奏してくれたりで、
いろいろ上手くいくかなと、思ったし。
東京で録ってるときも、
東京中のシンセサイザーのプログラマーが集まって
──そりゃちょっとオーバーだけど(笑)、
でも、いい音色を供給してくれたし。
スタジオも、エアー・スタジオとかで
いい経験をしたよね、ほんと。
ミュージシャンはつぎからつぎへ来るから、
決断はすぐしなきゃいけないし、
スタジオにいる人はスタッフもティーボーイも
全員音楽に詳しいし。
みんな、「音楽が好きだ!」って感じでね。
音楽をやっていることが、スペシャルじゃなくて、
あるひとつの職業なんだっていうのを
身にしみて学んだね。いい環境だった。
糸井
けっきょくそれって、ぜんぶ、
お客さんに還元したサービスになったわけだよね。
鈴木
うん、そうだね。そうだったといい。
糸井
そんだけの原料費かけたものが
ふつうの音楽と同じ値段で行き渡ったわけだから
サービスとしては一級品だよね。
鈴木
うん。まさに大サービスとしてね。
プロデューサー能力としては、金をかけすぎた。
商品の値段は決まってるわけだから、三流だ。
一同
(爆笑)

MOTHERと言えばサウンドトラック。
特に「1」のサントラCDは名盤で、名曲揃い。
ロンドン録音された事や、
マイケルナイマン氏による「エイトメロディーズ」の
アレンジ(!)も聞き所のひとつでしょう。
僕は1000枚程のCDを所有していますが、
その中でも永遠と僕の中のトップ5に入っています。
勿論物語が秀逸であるが故、
思い出を反芻出来る部分も大きいです。
(*ORGAN*)

わたしの『MOTHER』再ブームは、最近訪れました。
もちろん、こどものときに遊んで以来、
忘れられないゲームでしたが、
大人になってから偶然ムーンライダーズのファンになり、
恥ずかしながら、初めて鈴木慶一さんのお仕事だったことを
知ったからでした。
何も知らずに刻み込まれたあのメロディが、
鈴木慶一さんの音楽だったこと、
その音楽にちゃんとたどり着けたことが運命的で、
とても感激しました。
サントラを買い、ニューファミコンを買い、
『MOTHER』を探し求めて中古屋さんをめぐり、
去年ようやく見つかって、遊ぶことができました。
(hisayo)

慶一さんに質問ですけど、
ミュージシャンの方がゲーム音楽をやるときって、
斜に構えるというか、ことばは悪いですけど、
力を出し切らずにこなすような印象があるんですが、
うかがっていると、慶一さんは、
『MOTHER』の音楽に対して、最初から
まっすぐに、正面から、取り組まれてますよね?

鈴木
うん。当時、まわりにもゲームの音楽を作ってる
ミュージシャンがいたんで、
つくるまえにいろいろと訊いたのね。
「どうやって作ってるの?」って。
そしたら、「デモ・テープ渡して終わり」
っていうふうなのが多かった。
やっぱりね、そういうつくりかたは
やっちゃダメだと思ったんだ。
ゲームが好きだったから。
だから、田中さんとふたりで
バスドラの音からつくり始めたんだよ。

あああ、なるほど。

鈴木
ゲームの音楽だから、
当然、私の名前を知らない人が、
聴くことになるでしょ? 子どもも含めて。
それってコマーシャル音楽とか、
映画音楽と近いんだけども、
不特定多数に知らないうちに
入ってく音楽っていうのを、
ちゃんとやんなきゃいけないな、
っていうふうにあのころ思ってたんだよね。
自分の名前でつくる音楽って、
きっと誰か、聴きにきてくれるでしょ。
でも、コマーシャルなんて、
無料で聞こえてくるわけだ。
そのへん、なんか使命感に燃えてたんだな。
糸井
それも、ムケてないよさですよね。
鈴木
うん、そう、ムケてないよさ。
それをちゃんと作っておくことによって、
聴いた人は何かを感じるわけだよ、
無料であろうが、ゲーム音楽であろうが。
で、それは、これ、
大それた話になってくるけど、
音楽界のためにいいんじゃないのかな?
とかまで思ってた‥‥思ってたんだけどなあ。
糸井
いや、その通りだと思うよ。

こんにちは。
とうとうこのゲームの、音楽のお話ですね!
この時を待っていました(大げさ?)!

私もMOTHERの音楽に魅了されたひとりでして、
というか、実は最初にMOTHERと出会ったのは、
音楽CDの方だったのです。
CDショップに寄った時にMOTHERのCDを見かけまして、
なんだかすごいあおりがついていたじゃないですか。
「音量を上げて」なんて書かれていて、
そしてジャケットの裏側には大きな山に向かう少年少女。
あまりに印象的なこの一枚に、私の心は釘付けでした。
このCDを、聴いてみたい‥‥と。
ところがこれは、ゲーム音楽である様子。
そういうわけで、CDを聴くのであれば、
まず最初にそのゲームをやらなければダメだろう、
と考えた私は、MOTHERのゲームを買いに走ったのです。

その音楽の素敵な事、そしてゲーム内容の素晴らしい事!!
ストーリーとシステムと音楽が、皆で持ち上げあっている!
驚きの連続でした。
兄とセーブデータを分け合って、夢中でプレイしました。
そして勿論、その後CDも購入しましたよ。
歌詞付きのものは全て英語で構成されているというのも、
当時の私にはとても新鮮でした。
エイトメロディーズくらいの短い音楽なら、
今でもソラで歌う事が出来ます!
勿論MOTHER2の方も、CD購入しました。
今でもとても大切な二枚です。

語りだすと止まらない勢いですが、
とにかくMOTHERの音楽、大好きです!!
たった四つの音源(でしたよね? ファミコンは)でも、
感動的な音楽は作れるのですよね!

とにかくMOTHERの音楽最高! です。
語っていたら、また聴きたくなってしまいました。
これからCD聴きまーす。
(イクミ)

(続きます!)

2003-06-05-THU