レオナルド・ダ・ヴィンチが大大大好きで、

30年以上に渡って研究を続け、

独自の「ダ・ヴィンチ論」を築き上げた、

金沢にお住まいの向川惣一さん。

仲間たちから、親愛を込めて、

ダ・ヴィンチ研究の奇人と呼ばれる、向川さん。

ダ・ヴィンチと誕生日が同じのみならず、

ダ・ヴィンチの生まれた日から、

きっかり500年後に生まれた、向川さん。

言ってることの難解さも込みで、

仲間たちから愛されている、向川さん‥‥。

「ほんの一端」ではありましょうが、

その巨大細密画のような

独自の「レオナルド・ダ・ヴィンチ論」を、

しかと全身で、受け止めてきました。

担当は「ほぼ日」奥野です。

5回の連載にまとめるのに、

正味の話、2ヶ月半くらいかかりました。

向川惣一さんと楽しい仲間たち

のプロフィール。

──
今、先生にご説明いただいたことは、
30余年にわたる研究の、
ほーんの一端だと思うんですが‥‥。
向川
ええ。
──
十分な理解はともかく、
レオナルド・ダ・ヴィンチという人が
とっても謎めく人だったんだな、
ということがすごく伝わってきました。
向川
謎です。本当に謎めいてます。
松田
左利きのレオナルドが書く文字って、
「鏡文字」なんだけど、
それも「謎っぽさ」を演出するのに、
都合が良かったんですよね。
──
あ、書いてる文字が、
すでにして「暗号」みたいに見えるから。
向川
世界の研究者が、彼の文字の形状から、
「年代」を割り出そうとしたりしてます。
で、「ウィトルウィウス的人体図」
については
みんな「1492年」とか言ってるんだけど、
最初の文字を除いたら、
だいたい
1505年から1508年の書体なんです。
──
それは、先生の「見立て」だと?
向川
うん、ぼくは博士論文で、
そのあたりのことを研究してるんですが、
あの人体図、レオナルドは、
「1492年」じゃなくて、
もっと後、「1508年4月30日の夜」に、
描きはじめているはずです。
──
え、そんなピンポイントな「夜」まで、
突き止めてるんですか。
向川
承認されてませんけどね、その論文。
ぼくの論文って、
それまでのレオナルド研究から見たら、
テーマから方法論から、
めちゃくちゃ「異端」なんで‥‥。
松田
黄金分割みたいな、
数学的観点を使ってたりするからね。
向川
これをウッカリ認めちゃうと、
今日まで世界中で受け入れられてきた、
ルネッサンスにおける
人体比例理論と遠近法についての話を、
書き換えなきゃならなくなったり。
松岡
えー、そこまで大きな話なんですか。
向川
そんなの、コミットするの嫌でしょ?
──
正直、面倒くさそうです‥‥(笑)。
向川
面倒くさいです、めちゃくちゃ面倒くさい。
実際、自分が逆の立場だったら、
そんな面倒な話に、絶対関わりたくないよ。
永江
はははは。先生そんな、おんみずから。
向川
だから、まともな神経してるなと思うよね。
──
認めないほうも(笑)。なるほど。

向川
ただ、その「まともな神経」のみなさんに
何十年も付き合わされて、
もうずっと
仕事にあぶれたまんまになっているのもね、
そろそろ勘弁してほしいなあと(笑)。
──
すみません、不勉強でアレなんですけど、
向川先生のように
ダ・ヴィンチの「絵画」を、
「数学的に」解読しようとしてる人って、
他にも、いらっしゃるんですか?
向川
おそらく、ほとんどいないでしょうね。
──
じゃあ、だからこそ、
認められにくいってこともありますか。
松田
たぶん、その認める立場にある人がね、
数学、わかんなかったりするんですよ。
──
あー、「え、何を言ってんの」と?
向川
そうそう、そんな感じです。
「君のやってること、意味わからん」って、
しょっちゅう言われてる。
──
何でしょう、
他の人とちがうところに目が行くんですか、
先生の場合。
向川
人と同じ見方をしてたら研究者じゃないし、
そちらに座ってる末松先生も、
人と同じ見方をしない、おもしろい人です。
末松
いえ、ぼくはまっとうなことをしています。

そんなね、先生とくらべたら、ぼくなんて。

向川
そんなことない。きみもかなり、おかしい。
ともかくね、基本的には、
教科書に書かれてることを真に受けて読む、
そんなんじゃダメなんですよ。
──
思い切ったご発言です。
向川
優等生になりたければそれでいいんだけど、
研究者としては、ちっともおもしろくない。
末松
なにしろね、この向川先生という人は、
ドイツの国民的画家の
アルブレヒト・デューラーについても
「ダ・ヴィンチのパクリである」

くらいな説をね、
不遜にも、おっしゃってるんですから。
──
思い切ったご発言ですね‥‥。
向川
だってさ、論理立てて考えていったら、
そうとしか思えないんだから。
末松
ただ、それも、単なる言いがかりだとか、
ふわっとした印象論じゃなくて、
今までの話と同じように、
緻密な論理で論文に書いてるんですけど、
アレが、もし世に出たら‥‥。
──
ええ。
末松
先生のアレがね、
万が一、認められて世界に知れ渡ったら、
デューラー信者から狙われて、
命さえ危ないかもなと思うくらい。
──
そこまでのシロモノですか!(笑)

しかも末松先生も「万が一」って。
向川
まあ、もう、危なくてもいいんですよ。
この歳で結婚したいとか思ってないし、
金持ちになりたいとも、思ってないし。
──
レオナルド関連で死ねれば本望?(笑)
向川
本望。
末松
2年後、レオナルド没後500年だから、
その500年祭で、
華々しくこれまでの研究成果を発表して、
壇上で頓死するとか。
向川
本望本望。

──
そんな(笑)。
向川
でも、もしドクターをとれたら、
その2年後のレオナルド没後500年祭で、
イタリア語で、
これまでの研究発表をしたいです。
松田
イタリア語できるの。
向川
イタリア語‥‥よっぽどがんばらないと
思い出せないかもしれないけど、
その場合、英語になるかもしれないけど。
松田
レオナルド・ダ・ヴィンチは、
1519年に、亡くなってるんですよね。
500を足すと、2019年。2年後なんです。
末松
ひとつ問題なのは、向川先生は、
ダ・ヴィンチと誕生日がまったく同じで、
しかもダ・ヴィンチ生誕から
きっかり500年後に生まれているという
運命の人なんだけど、
没後500年祭で死ぬとなると、
亡くなる日まで同じになっちゃう(笑)。
──
きっかり500年後に生まれて、
きっかり500年後に死ぬ。
それはもう、生まれ変わりですね(笑)。
向川
なくはない話です。
末松
ぜひ、残すものは残してってください。

向川
その前に、せめて本を出したいけど、
自費出版でもいいから出したいけど、
はたして、50冊売れるかどうか‥‥。
お聞きいただいたように、
興味ない人には、
クソおもしろくもない内容ですから。
──
こうやってうかがっていると
先生のお人柄も「込み」になるので、
非常に、おもしろいんですが‥‥。
向川
基本的に「論文」というものは、
先行研究にはどんな研究がありますよ、
その研究の中で、
こういうことが解かれていません、
何と何と何が問題です、
その問題の中で私は何を取り上げます、
その際に、
何を使いました、何を使いました‥‥

という中に、
ぼくの場合「数式」も混じってきます。
──
ええ。難しそうなやつが。
向川
つまり、論文というのは、
そういう体裁で書かれていますから、
ぼくの言ってることは、
全体としては
「ものすごい大ボラの世界」なのに、
細かいところでチマチマと
数学的な証明を積み重ねていったら、
こうなりますって話になっちゃう。
となるとね、これ、読んでいても、
その「大ボラの世界」が、
ぜんぜん、見えてこないんですよ。
──
これは素人考えなのかもしれませんが、
先生の説には、数学つまり、
数式による証明を用いている時点で、
ある意味、
「文句のつけようがないところ」も
あると思うんですが、
そういうものでも、ないんでしょうか。
向川
まあ、数学がわかんないと、
「だから何?」って感じなんでしょう。
そもそも、ぼくは、
もともと争いごとが大ッキライで‥‥。
──
あ、そうでしたか(笑)。

思いっきり論争的な研究されてるのに。
向川
うん、美術の争いごとが嫌だったので、
絵を描くのやめて、
あんまり争いごとのなさそうに見えた
美術史に鞍替えしたのに‥‥

なんだか、
もっとヒドいことになってます(笑)。

(つづきます)

2017-07-29-SAT