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子どもの頃、秘密基地を作るって、素敵なことでしたよね。
僕は2段ベッドだったから、
常に上に兄貴がいるみたいな感覚って、
いまだになんとなく覚えてて。
上と下でケンカしたり、
「いま、兄貴寝てるから、俺は何してもいいんだ」って。
毛布を引っ掛けると完全に個室になるから、
自分の好きな漫画を置いて
延長コードでライトをひっぱってきて、
まさしく秘密基地みたいにしてみたり。
武井さんもそんなタイプじゃないですか?
秘密基地を住まいにしているような感覚。
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そうですね。
一昨年の3月に十何年ぶりに引っ越したんですけど、
やっとこういう部屋がいいって決めて、探したんですよ。
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判断基準は?
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キッチンです。
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料理好きだからだ!
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前のキッチンは、部屋の隅が三角形で
そのいちばん奥にガス台があって‥‥
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使いにくい。
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体斜めにして、フライパンを‥‥。
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いや、そらまた変な‥‥。
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ただ、大きな公園に面した
すばらしい立地だったんです。
もうほんとにいい場所で。
ただ、建物が老朽化してて斜めになってたのと、
なにしろキッチンが使いにくかった。
当然、人が呼べなかった。
だから、使い勝手のいいキッチンと、
人が呼べる広さがほしいということを
優先順位のいちばん上に置きました。
ガランとした箱でいいから、そういうのが欲しい。
で、キッチンで探したいって不動産屋に伝えて、
散々探してもらったんです。
それでわかったのは、
いわゆる賃貸用として作ったマンションじゃダメ。
設備が安普請なんです。
で、見つかったのが、大家さんが
自分の息子夫婦が住むように中古マンションを買って、
使いやすいように改築した物件でした。
息子夫婦は手狭になって出たので、
そのまま貸しているという古い物件でしたが、
キッチンが幅3.3mぐらいあるんですよ。
食洗機ついてて、オーブンついてて。
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うわっ、広っ!
普通2mちょっとです。
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シンクで水浴びできそうでしたよ(笑)。
で、「ここだ!」と思って。
だから、他の条件、例えば窓からの風景は良くない。
もう、目の前で電線がこんがらがってる。
でもそのキッチンで決めました。
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それだと思うんです。家づくりって。
欲張りであれもこれもは、
たぶん相当限られた富裕層でない限りは、無理なんですよ。
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ここに、ルーフバルコニーがあったら最高だな、
とは思いますよ。でも、無理。
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そうそう。ルーフバルコニーがいいんだったら、
もうユニットバスで我慢して、
キッチンはもう壁にちょこってついてる程度で、
あとはもう基本的にコンビニとレストランで行って、と。
そういう人は、ルーフバルコニーで
友だち呼んでバーベキューが
年に何回かできればそれが一番大事なんだと。
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そうそう。
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あるいは逆に、俺はもう温泉みたいな風呂に入ることが
いちばん大事だ、という人もいるでしょう。
フィンランド人の森やサウナと一緒ですよね。
どこに優先順位を置くか。
武井さんの、男の一人暮らしのキッチンっていうのは
すごく珍しいパターンだと思うんです。
だから、そんな物件、ほとんど無いはずなんですよ。
たまたま合致した。
賃貸物件というのは、そういうニーズに対して、
いま供給されているものは、
なかなか合わないっていうことが
現実的にあると思うんですよね。
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そう、そもそも賃貸の物件って
そんなにバリエーションがないですよね。
結局もう、駅からの距離と、家賃、広さ。
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その三つを軸にして選ぶしかないですよね。
ダメなら引っ越せばいいや、ぐらいに思って
決めないと。
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そう、どっかに引っ越せばいいやっていうのは、
持ち家だとできない。
ここに住むって決めたら最低10年とか、
ローンが30年であれば30年はここで、
っていう決意があるわけで。
で、賃貸はダメになったら動こうと。
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それが、45歳で引越してみて思ったんですけど、
自分は会社員ではあるけれども、
保証人をつけるのが大変だったんです。
一人っ子で、親が老齢というのは。
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あっ、そうなんですよね。そうそう!
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父、元気で仕事もしている。
なのに、保証人としてはダメ。年齢でダメ。
いまは保証会社というものがあるんで、
保証会社にお金払って半分持ってもらって、
父と連名にして借りることができました。
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ひどいなあ。
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いろいろからくりがあるんです。
100%保証会社を使う場合もある。
「保証人不要」っていう物件はそうですよね。
その場合は敷金礼金のほかに
保証会社に支払うお金が必要になるわけです。
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じゃ、60になって引っ越せるのかな?
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そう! だから、
こりゃ先々かんたんには引っ越せないぞと思ったんですよ。
親がもっと高齢になったり、
例えばいま会社員ですけど、
フリーランスになった途端に難しいですよね。
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かといって、経営者はまたダメですよ。
僕は会社の決算書を3期分出しました。
会社の借金の返済計画表であるとか。
直前の決算が赤字だったら、まずアウトです。
おそらく30代の会社員のほうがローンはおりやすい。
そういう意味で、
「家を建てるなら会社員で、若いうちに」
というふうに、日本の社会って作ってあるんだ、
って思いました。
いろんな仕組みが。持ち家政策につながってるんだなと。
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そうだと思いますよ。
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新幹線乗ったりすると、結構郊外に行っても
建て売り住宅がものすごい多いでしょう。
これ、誰がこんなことしたんだろう(笑)って思う。
買えや、買えやっていうふうに見えるんです。
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僕は海外から友だちが来ると、
まず山手線を一周しろって言うんです。
東京を一番理解するのには
山手線の先頭に立って一周するのがいいぞと。
一時間で済むから、とにかくそれを一周しなさい、と。
で、次に、六本木ヒルズに登りなさい。
高いところから街を見て、水平に一周する。
で、もっと時間があれば、
“のぞみ”じゃなくて“ひかり”か“こだま”で、
東京から新大阪まで行きなさいと。
極力F席を取ってね。
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窓際ですね。
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進行方向右側だと富士山も見えるし、
ずーっと見れば、日本の風景が分かる。
当然東京から品川は都市ど真ん中ですよね。
ビルの間を抜けて行って。
で、品川と新横浜を過ぎたら、
武井さんが言ったようなちっちゃい家がね、
いっぱい建ってるのがわかる。
新横浜を離れて何分も経っても、
まだ結構ちっちゃい家が
いーっぱい丘の上まで‥‥。
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ありますよね。
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あの密集度っていうのはなかなか類を見ない
家のつくり方なんです。
ほんとにあれ、住まわれてんのかなと思うぐらい。
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でもきっと住んでるいるし、
そこはひとりひとりにとっては大事なホームであって、
帰る場所なんですよね。
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そうなんですよ。帰る場所。
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夜になれば灯かりがつく場所なんです。
そこを否定するつもりはない。
けれども、ふと疑問に思うんですよね。
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都市型の生活において、武井さんの料理であったり、
いろんな価値観が多様化してるなかで、
これからの家づくりっていうのはどうあるのかなぁ、
っていうのはすごく、建築家としては、
どうやってそこに供給できるかを考えてしまう。
そのニーズに対してどれだけアンテナを張っていられるか。 |
(つづきます) |