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その5 風邪を引かない家。
建築家というのはやっぱり
施主のリテラシーが高いと
仕事がしやすいものなんでしょうね。
嬉しいですよ。住宅設計って、対話をしながら、
リテラシーを一緒に高める作業だと思うんです。
僕だっていままでの33年間の生活しか経験がない。
映像や本で知ったことも含め、経験としては33年間です。
で、例えば内田樹先生は僕の人生の倍近くあるわけです。
そんな人と一緒に家づくりをするっていうのは、
僕自身が一番スポンジ状態で、
共有するっていうか、吸収する、学ぶ側にいる。
その学び方はすさまじいんですよね。
光嶋さんの本を読むと分かりますが。
それは内田先生だからっていうわけじゃなくて、
常にその関係にあるんです。
対話をすることでお互いのリテラシーを高めたい、と。
さっきお金があれば家を買いたいって言いましたけど、
そのときにひとつ大事なことがあるんです。
ぼく、風邪ひきやすいんですよ。
だから、一番ほんとに欲しい家は、風邪をひかない家です。
それは思いつかなかった!
僕もすごい風邪ひく!
すごく大事です。
冬は床が暖かく、裸足でも歩いて熱くない。
乾燥しないでね。
そう! ストーブの熱じゃなくて、
エアコンの熱でもなくて、暖かい家。
裸でお風呂まで行って平気な家。
夏は、冷房を強くつけなくても風が
──空気が動いているという意味ですが──通り、
ちゃんと日差しも浴びられるんだけど、
暑すぎず、快適に暮らせる家。
そして、夜、快適に寝られる家。
夏は冷房のつけすぎで、
冬は寒くて、もう、いつも風邪をひくかひかないか、
みたいなとこで生きてますからね。
僕今武井さんにすごく仲間意識が
芽生えてきたんですけど(笑)!
まさしく今、鈴木邸と同時進行で
もう1件、担当している家づくりがあって、
そのお施主さんは、まさにいま武井さんが言った、
気持ちがいい家づくりを望んでいらっしゃるんです。
たとえば、自然素材を使う。
絶対に人工的なものを使わないでほしい。
空調もほこりとかにすごく敏感だからやめてほしいと。
分かります。
そこで檜の木と土の土壁にしようと考えているんです。
いわゆる竹小舞、竹を組んでそこに土を塗る土壁です。
まさに昨日、構造設計を担当してくれる
アラップ(ARUP)っていう会社と打ち合わせをしたんです。
そこの事務所は世界のいろんな
名だたる建築の構造設計をしているんですが、
現代において、土壁を
そういう古典技法でつくることの環境的な側面や、
夜どうやって風を引き込んで、
熱くなっちゃった建物を冷やしてあげるか、
そんな話をしてきたんです。
そのお宅は、夜は山から海へ、日中は海から山へっていう、
すごく分かりやすい風が吹く土地なんですね。
そういう風をどう取り入れるか。
それを、空調機じゃなくて、パッシブに取り込みたいとか。
で、僕が昨日打ち合わせしてたなかで
面白いなと思ったのは、
その風を取り入れる煙突を作ろう、
っていう話になったんですけど、
その煙突で、光も取り入れられるんじゃないかと。
いいですねー!
そうすると、左官の技術なんですよ。土壁だから。
左官ってことは直線である必要がないんですよ。
曲げられるんです。
そうすると何ができるかって言うと、
トップライトが光入って来ますよね。
晴れた日にはピカンと東の光が入る。
その光を壁に当てて湾曲させると、
時間帯によって壁が光る。
それがパッシブ・デザインだと思うんです。
鏡みたいにキラキラ反射するわけじゃないけど、
っていうことですよね。
そうそう。でも、ツルッツルに鏡みたいに、
白ーく、テッカテカの漆喰を塗ればそう反射するし、
もっと柔らかいざらざらしたもの、
もしくはそこに石を入れるとかすれば、
キラキラ、キラキラって光ったり。
いろんなことができるんですよね。
で、それがまさに風邪をひかないための家なんですよ。
いいなあ! それはでも一軒家じゃないとできない。
立地もそうとう吟味しないとならない。
いくらお金があっても都心では
難しいことなのかもしれない。
マンションの中では、
効率の良い照明と床暖房入れましょうって話になる(笑)。
ま、PSっていう、放射冷暖房っていうのもあるんです。
空調機だけれど冷たい風を出すんじゃなくて、
ラジエーターっていうかフィンの中に冷たい水を流す。
室温が例えば28度とか30度超えてるときに
10何度の水を流すと表面にダラダラ汗をかくんですが、
それがつまり除湿してくれるし、
それによって放射で冷えるんですよ。ひんやり。
ただ、これはムラがあるので、その周辺だけしか効かない。
離れると暑い。そういうのをうまくコントロールして、
どこに設置したらよいかを考える。
決して安いものではないので、
どこにでもつけることはできない。
じゃ、生活の一番大事なコアなところに、
2基つければ十分だ、と。
値段的に言うとそのPS1基で、
通常の室内用空調機が10個ぐらいつきますから。
10倍!
当然お金も関係してくる。
予算のなかで、何を重視するか、
そこにも設計の面白さがあるので、
そこで明確な優先順位を持たれてる
クライアントっていうのはすごくやりやすいんです。
欲張りにあれもこれもっていうのは
どうしたって無理です。
で、逆に、お金はいくらでもあるよ、
土地もどこでもいいよ、
いつでもいいよって言われたときに、
すばらしい設計ができるかと言うと‥‥
必ずしも、そうとは限らないでしょうね。
普請道楽の人の奇妙な家ってありますもんね。
建て増し、建て増しで迷宮になったような家。
世界中にあるんですよ、
昔のお金持ちが建てたおかしな家が、
観光名所になったりしてます。
制約がないとそういうことになっちゃうんですよね。
名作は制約の中で生まれてきた、
というのは間違いないと思うんです。
洋服もそうですよね。
デザイナーにとって、
レディースこそ大変なんですって。
なんでもできちゃうから。
けれども紳士服は様式がある。
ジャケット、シャツ、パンツ。
その細部をつきつめて、
新しい提案をする楽しみがある。
際限のないクリエイティブを見せるレディースは、
魂のすり減る仕事だと聞いたことがあります。
建築も一緒ですよ。その制約との戦いっていうか、
やっぱそれがあるからこそ、努力というか、
新しい何かっていうのは出ると思いますよね。
光嶋さんと話してるとどんどん家が欲しくなる。
(笑)。
(つづきます)
2013-02-12-TUE
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