1. 1通のメール
その6 秘密基地に住む。
やえさんも秘密基地派ですよね。
まさしく秘密基地です。
自分の本とか漫画とかがばーっと並んでます。
本棚はかなり大きい?
そうですね、いまの部屋で気に入ってるのは、
本棚がつくりつけだったことです。
もともとロンドンに駐在していた新聞記者の方が、
高齢になられて奈良に家を建て隠遁する、
東京の部屋はもう住まないからと言うので、
父の伝手で、安く貸していただくことになって。
読書家、蔵書家の方だったので
本棚はつくりつけのものがいっぱいあったんですよ。
さらに自分の持ってきた本棚もあって、
いまは壁面かなりの量が本棚になってます。
いいな!
僕、人んち行くとまず本棚を見るんですよ。
自分の本棚もそうで、
脳の中がちょっと覗けるというか。
同時に、人に来てもらったときに
光嶋裕介はこういう本読んでるんですよっていう、
当然、ある種のアピールにもなる。
それは、僕の場合は事務所でもあるっていうことで
パブリック性があるからでもあるんですが。
けれどもきっと完全に自分の部屋でも、
やっぱり本棚ってすごく大事だと思っています。
自分で確認したいんですね。
「あ、俺、こういう本読んでる」とか、
自分の第三者的な目を。
やえさんはどうですか、
パブリックとプライベートで。
うーん?
人を呼んで遊ぼうという空間じゃないですね。
武井さんはパブリックですよね、かなりね。
そうなのかな。
人を呼びたいっていうのはパブリックですよ。
料理でもてなしたいということだから。
私は自分の趣味のものだけがきれーいに並んでいると、
それだけで快感なんです。
漫画もちゃんと、出版社別に並べてます。
こっちは花ゆめ系、こっちはジャンプ系、みたいな。
(笑)出版社別!
だって、マークが違いますもん。
同じ背表紙が並ぶときれいじゃないですか。
小説などの単行本で悩むのは
装丁や判型が違うから
でこぼこすることです。
小説はまだいいですよ。
写真集ですよ、いちばんでこぼこするのは。
そうですよね。
あと、ゲームソフトも、ゲーム機別に並んでます。
へぇ、それは面白い。
たぶんコンセプトで言うと、
「蔵としての家」ですね。
まさしく、蔵ですね。
何が家を家たらしめてるんだろうってことを考えると、
ファッションを鬼のように好きな人っていうのは
ウォークインクローゼットさえあれば
満足なんだと思うんです。
本もそうじゃないですか。
やえさんは自分の図書館に住んでるんですよ。
図書館! もう最高ですね!
私、図書館の写真集とか買っちゃうんですよ。
うっとり、みたいな。
そうそう。『ライブラリー』ってありましたね。
カンディーダ・ホーファーの。
(Candida Hofer : Libraries)
理想で言えば、
ブティックとレストランと図書館と体育館が、
なんていうふうになっちゃいそうですね。
内田樹先生が自宅に合気道の道場がほしい、
というようなことや、
漫画家の井上雄彦さんが
バスケットボールができる環境の仕事場がほしい、
と考えるというようなことは、
人それぞれに「だいじなもの」があるということですよね。
井上さんは仕事の合間に
シュートが打てるってことがすごく大事なわけで。
そういう意味では、家を家たらしめてるっていうのは、
“もの”であり、身体性なんですよね。
もちろんバスケットボールのコートがあるっていうのは
成功者の一例ですけれども、
僕は昔の家に蔵があったっていうのは
やっぱり理にかなってると思うんです。
むかしの日本の家は、
部屋の役割がいまほど明確ではなかったですよね。
そもそも部屋にものがなかった。
家具も少なかったですよね。
ベッドはなくて布団ですし、
食卓ですら、片付けることができたし。
ものは押入れと納戸、蔵に入っていた。
そして家というものがとてもパブリックだった。
お客さまが来るということがあたりまえでした。
でも、今は、やえさんのように
自分ひとりがうれしい場所、
という家も、とても増えている気がしますね。
あるときみうらじゅんさんが「ほぼ日」に
対談にいらっしゃってしゃべっているときにですね、
集めた公園の銅像の写真集を持っていらっしゃって、
それをひとつひとつ解説してくれていたんです。
わたしもそうですが、オタクというものって
あんまり他人と付き合いがあるわけじゃないんですよ。
おのおの独立してて、ジャンルがありますから。
ですからほかの人が趣味に没頭している姿というのを
あんまり見かけたことは無かったんです。
そしたらみうらさんが話の途中で、
パラパラってめくったなかの1ページを凝視して、
しばらくの間ニマー! って笑っていたんです。
それを見て、「あ、さすがに私は人の前で
こんな顔をしちゃいけないわ!」って思って(笑)。
きっと、家にいると、その状態なんですよ。
ダーッとマンガが並んでるの見て
「ンフハー!」みたいな。
ぼくもまったく同じです。
本が好きで、それが仕事でもあるから、
賃貸探すときは常に、
まず本棚が10本なら10本置ける
壁があるかどうかっていうのを、まず見ました。
けれども結婚して、
家を建てるにあたっては、
そこはいっさい、捨てました。
本棚は一箇所にギューッと寄せてもらい、
そこからはみ出る分は置かない。
そう決めたんです。
他者との共存という関係性において
自己を変革したんですね。
かっこよく言わなくていいです(笑)。
妻との暮らしを快適にしたかっただけです。
というか、とにかくとっても狭いから。
また自分の理想の話になって恐縮ですが、
ぼくはお金が自由になるのであれば
“見せ冷蔵庫”がほしいです。
見せ冷蔵庫?
ほら、ケーキやさんがケーキ入れてるのとか、
魚屋さんがお魚ならべてるのとか、
お肉屋さんやチーズ屋さんのケースとか、
あるでしょう、冷蔵庫だけどガラス張りで
平置きででっかいやつ。
陳列冷蔵ケースっていうのかな。
あれにおいしそうなチーズいれたりハム入れたり、
くだもの入れたり、野菜、肉、調味料、
それから常備菜をかっこよく飾って‥‥(うっとり)。
ワインはまた別にかっこいいワインセラー置いて。
ああ、理解しました。
冷蔵庫ってすごく脇役じゃないですか。
キッチンの中でとにかく端っこのほうに冷蔵庫がある。
でも、本来冷蔵庫って料理好きな人にとっては
まさしく「宝庫」なんですもんね。
そこをきれいに見せたい気持ち、すごく分かりますよ。
野菜がきれいに見えてたら
たぶん料理の発想が変わりますよね。
そうです! 何が楽しいって、
何を作ろうかって考えてるときが一番楽しいんだから。
せっかく買ってきた美しい食材を、何故閉じ込める。
理想はぜいたくな食材を1週間に1回買い出しに行って、
きれいに並べて、ニマーってしてるのが‥‥。
(笑)完全にオタクですね。
でも業務用冷蔵庫ってすごくうるさいんですよ。音が。
かっこいいんだけど、とてもじゃないけど
リビングに同居できないです。
ウイーンってずっと鳴ってるし。
でもまあ、こういうこと言ってるのは
趣味の料理好きだからですよね。
プロはぜったい家でそんなことしないと思う。
やえさんのマンガやゲームと同じなんですね。
(つづきます)
2013-02-13-WED
前へ 最新のページへ 次へ
メールをおくる ツイートする ほぼ日ホームへ