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その7 消え去る思い出。
家のことを考えているのは
すごく楽しいですね。
現実じゃないから楽しいのかなあ。
ウィンドウショッピングじゃないけど
ショールーム見るのとかも楽しいですよね。
こないだキッチンのショールームで
高級キッチンをためつすがめつ見ていたら
「業者のかたですか」とたずねられましたが。
ぼくは結婚と持ち家を機に
趣味と生活を切り離すことにしたわけですが、
武井さんは一緒がいいんだ。
僕は切り離したくはない。
キッチンに住みたいくらい、
といいつつ、眠るときに、
料理や食材の匂いがするのはいやなんですよ。
ほー。
そっか。例えばキムチ鍋をして、
そのキムチの匂いが残ったなかで
寝ちゃうのはいやなんだ(笑)。
いやなんですよ。絶対にいやです。
換気扇に対するこだわりとか無いですか。
ほんとはあるんですけど、
もう賃貸はしょうがないじゃないですか。
しょうがないですね。
賃貸の換気扇ってきかないっていうか、
パワーがないですもんね。
いくら強にしたって、
部屋中充満しちゃったりするでしょ、匂いが。
それでも分譲賃貸だから
かなりいいものがついてるんですが、
それでも‥‥ね。
あ、ダイソンの扇風機を逆につけたら、
どんどん吸い込むんじゃないか?
わははははは!
あれは気流を作るんで、
いいアイデアかもしれないですね。
そういうこと考えてると、いくらでも楽しめます。
面白いなあ、
家にいっぱい人が来るのがイヤだったという武井さんが
やっぱり人を呼びたい部屋をつくってる。
それをもっと現実にしましょうよ。
だから、問題はお金で‥‥。
鈴木さんはいいなあ。
設計中ってことは
もう楽しくて楽しくて
しょうがないんじゃないですか。
それが、何十年も夢見てきたことが
リアルになりつつあるのに、
なんだかこうね、まだ胸弾むとか、
そういう感じではないんです。
どうしてなんだろう?
きっとまだ具体的に想像できてないからですよ。
土地は取り壊す前の家が建ってる状況です。
あれが更地になって、
じっさいに建築が始まったら
もう全然違いますよ。
うわっ、ここかーっ! ていうね。
これだけ大きいことになると、
ワクワク感って徐々に
ボディブローのように来るんじゃないかなぁ、と。
ものすごく大きな決断をしたわけじゃないですか。
さっき、テープ回る前に、
結婚よりも離婚よりも大きな決断だったって
おっしゃっていました。
えっ、ほんとうですか。
うん。ローンを組むっていうことの大きさは。
それくらい悩んだってことですか。
ほんとにいいのかって、
こんなことしちゃってっていう。
もう、絶対後戻りできないじゃないですか。
いや、そりゃまぁ結婚だってそうですけど、
経験がないからわかりませんが
離婚のほうが大変だっていいますよね。
そうそう!
結婚は何べんもしてもいいかもしんないけど、
離婚だけは二度としたくない。
ぼくはすごく円満に別れたんですよ?
強調して言いますけど。
すごいプライベートな話になってきた。
じっくり時間をかけて
平和に別れたつもりだったんですけど、
でも一人になった途端に後悔とか
いろんな感情がどーっと押し寄せてきて……。
うわ、うわ、うわ、うわ。
おおー、キツー。
いや、ほんっとにキツかったですよ。
そして今回ローンを組むという決断は
ある意味、それよりもキツかったんです。
いや、すみません、妙な話を振ってしまって。
家って‥‥家のこと考えるって、
そうとう人にカミングアウトさせちゃいますね。
生活におけるあらゆる瞬間が
積み重なったものが、家だからですよね。
例えばすごい嬉しかった瞬間だって宿ってる。
それはお母さんからの電話一本かもしれない。
そのときのソファーの感覚とか
そういうものが堆積した結果が家なんです。
新しく家を建てるときにも、
そんなことをいかに大事にできる家にするか。
それが、僕がやりたいと思ってることです。
その「思い出の堆積」ですが、
一気になくなっちゃうんですよ。引っ越すと。
10年住んで引っ越しの日が来て
荷物が運び出されたとき、
そこは突然「廃虚」のようになっちゃった。
僕も覚えてます。学生時代に6年間、
大学院まで一回も引越ししなかったんです。
18歳で入った一人ぐらしの部屋と、
24歳でベルリンに旅立つ部屋が同じ部屋だった。
最初空っぽでね、ベッドと机だけがあったのが
徐々に物だらけになって。
それこそ、学生時代は建築模型だらけになるんですよ。
捨てないですから。図面や模型は。
「あー、将来もっとでかい本棚欲しいな」と思いながら
ギュウギュウにものだらけの部屋になって、
さあベルリンに行くぞと荷物をまとめ、
いっさいなにも無くなった瞬間に、
「え、なんだ? 俺の部屋じゃない」っていう。
積み重ねた6年間の思いみたいなものは、
あっという間に消えてしまった。
ベッドがあったところに寝転がってみても、
おんなじ天井、おんなじ風景が見えてるのに、
もう違う部屋なんですよ。
僕はもうヨーロッパに行くことにウキウキしてたから、
別に未練はないはずなんですけど、
「よっしゃ頑張るぞ」と思いつつも、
「あっさり終っちゃうんだな」っていう‥‥。
あっ、あっさり終る感じですね。あっさりですね。
そうなんです。
家っていうのは。人が住まなくなった瞬間、
廃墟になるんです。
家族っていう共同体のバトンみたいなものが、
これから、少子高齢化で回らなくなると、
一瞬にして廃墟となる家も増えていく。
そういうなかで、プライベートとパブリックの
境界線っていうか、
そういうことがテーマになっていくと思うんです。
奇しくも内田先生が、
パブリックな場所(凱風館=合気道道場=「みんなの家」)
として自邸をつくったように。
(つづきます)
2013-02-14-THU
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