東京国立博物館(トーハク)に、
豪華メンバーが勢ぞろいしました!
一筋縄ではいかない面々たちに
投げかけられたテーマは、
「150年後の国宝を選ぶとしたら?」。
和気あいあいとした座談会ではなく、
自分の意見を忖度なく伝えあう、
まさに知的コンバットのような会議です。
ありきたりな答えに向かわず、
解決の糸口を複雑に絡ませながらも、
全員でひとつの出口を模索していきます。
自分がいたらどんな発言をするだろうと、
想像しながら読むのもおもしろいと思いますよ。
全9回、たっぷりおたのしみください!
土井善晴(どい・よしはる)
1957年、日本の家庭料理の第一人者であった料理研究家・土井勝氏の次男として大阪に生まれる。スイス、フランスでフランス料理を学び、帰国後は老舗の料理店・大阪「味吉兆」で日本料理を修行。1992年に「おいしいもの研究所」を設立。以降、日本の伝統生活文化を現代に生かす術を提案。
1987年~「きょうの料理」。十文字学園女子大学特別招聘教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員。『一汁一菜でよいという提案』(新潮社)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『料理と利他』(中島岳志共著/ミシマ社)など著書多数。最新刊は『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮社)
Twitter:@doiyoshiharu
山中俊治(やまなか・しゅんじ)
デザインエンジニア/東京大学大学院 情報学環・生産技術研究所 教授
1957年愛媛県生まれ。1982年東京大学工学部卒業後、日産自動車デザインセンター勤務。1987年フリーのデザイナーとして独立。1991~94年東京大学助教授、同年リーディング・エッジ・デザインを設立。2008~12年慶應義塾大学教授、2013年より東京大学教授。
腕時計、カメラ、乗用車、家電、家具など携わった工業製品は多岐にわたり、グッドデザイン金賞、ニューヨーク近代美術館永久所蔵品選定など授賞多数。近年は「美しい義足」や「生き物っぽいロボット」など、人とものの新しい関係を研究している。
近著に『デザインの骨格』(日経BP社、2011年)、『カーボン・アスリート 美しい義足に描く夢』(白水社、2012年)、『だれでもデザイン 未来をつくる教室』(朝日出版社、2021年)。
Twitter:@Yam_eye
篠原ともえ(しのはら・ともえ)
1979年東京都生まれ。文化女子大学短期大学部服装学科ファッションクリエイティブコース・デザイン専攻卒。
1995年ソニーレコードより歌手デビュー。歌手・ナレーター・俳優活動を経て、現在は衣装デザイナーとしても創作活動を続け、松任谷由実コンサートツアー、嵐ドームコンサートなど、アーティストのステージ・ジャケット・番組衣装を手がける。
2020年、夫でアートディレクターの池澤樹とクリエイティブスタジオ「STUDEO」を設立。 2022年、デザイン・ディレクションを手掛けた革きものが、国際的な広告賞であるニューヨークADC賞のブランドコミュニケーションデザイン部門、シルバーキューブ(銀賞)、ファッションデザイン部門でブロンズキューブ(銅賞)を受賞。
Instagram:tomoe_shinohara
松嶋雅人(まつしま・まさと)
東京国立博物館 研究員
東京国立博物館学芸研究部調査研究課長。専門は、日本絵画史。所属学会は美術史学会。
1966年6月、大阪市生まれ。1990年3月、金沢美術工芸大学卒業。1992年3月、金沢美術工芸大学修士課程修了。1997年3月、東京藝術大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。東京藝術大学、武蔵野美術大学、法政大学非常勤講師後、1998年12月より東京国立博物館研究員。
主な著書に『日本の美術』No.489 久隅守景(至文堂 2007)、『あやしい美人画』(東京美術 2017)、『細田守 ミライをひらく創作のひみつ』(美術出版社 2018)など多数。
- 山中
- プラクティカルに考えると、
いまのカレーやラーメンというのは、
どうやって展示するなり、
インデックスすればいいんでしょうね。
- 土井
- あぁ。
- 山中
- 食べなきゃわからないものを、
歴史の1コマとして残すのであれば、
その料理をどう保存すればいいのか。
どういう記号を残すと伝わるのか。
- 土井
- それはやっぱり概念ですよね。
やっぱり概念的に、
和食とは何か、懐石とは何か。
そういうようなことでも
説明ができると思うんです。
- 山中
- まずは高いコンセプトの説明がある。
- 土井
- それを手法とか目的とか、
そういうようなことでどうにかなるような。
- 山中
- 最後はやっぱり映像ですかね。
- 糸井
- 映像と音声に
近いものになるんじゃないかな。
- 土井
- 料理は写真が1枚あれば
イマジネーションが広がるから、
それだけでも大丈夫やと思うんです。
でも、その写真っていうのも、
何を撮るかっていうのが問題で。
- 山中
- むずかしいですね。
- 土井
- できたてがいいものとか、
そうじゃないものとか。
その場に応じたベストっていうのがあって、
ただ料理だけを取り出して
レシピにしても意味がないんですよね。
それこそファッションと同じで、
「その服、どこで着るの?」がないと。
- 山中
- そうか。
- 土井
- やっぱり日本料理いうのは、
場を得ないとダメなんですよ。
西洋料理のような
決定した成果ではないですから。
日本料理は常に変化する道程の、
一瞬、一瞬なんです。
- 糸井
- おもしろいなぁ(笑)。
- 土井
- あと、日本料理でいうなら、
国宝級になるのは「下ごしらえ」ですね。
下ごしらえほど、世界一ですわ。
- 糸井
- あぁー。
- 山中
- なるほど。
- 土井
- クリエーションばかりに目が行くと、
下ごしらえの重要性を疎かにするんです。
でも、本当は下ごしらえが一番大事。
いくら料理されてても、
雑味や雑臭は必ず感じ取るものだから、
いい悪いってのはもう歴然と出ます。 - やから「日本料理って何?」って言ったら、
それこそ「下ごしらえ」ですよ。
下ごしらえをしてる最中っていうのは、
もうすべて美しいですから。
- 山中
- いいですね。
- 土井
- 完成されたお刺身を見るだけでも、
魚の処理のプロセスが
全部見えてくるんです。
そのお刺身の中に見えてくる。
いくらきれいに見えても、
これは締めてから時間が経ってるとか。
人間の仕事が全部見えてしまう。
ごはんを炊くだけでもわかりますから。
- 山中
- もしこの展覧会で、
「下ごしらえ」を国宝に選んだら、
いまのようなストーリーなしには
展示はできないわけですよね。
- 土井
- そうそうそう。
- 山中
- ということは、
下ごしらえの仕事をカメラで撮って、
そこに土井先生の解説付きの映像を作って、
それを展示できたら
国宝は1個できたようなもんですね。
- 糸井
- そのやり方で見せるのが、
いまじゃないですかね。
150年後にどうなるかわかんないけど。
- 土井
- あと、日本人は「掃除」ですよ。世界一は。
- 篠原
- どんどん出てきます(笑)。
- 糸井
- 出すなぁ(笑)。
- 土井
- もう絶対、掃除ですよ。
掃除しかないんです。
- 糸井
- それは、下ごしらえも掃除って意味ですか?
- 土井
- そうそう、そうなんです。
全部きれいにする、始末をつける。
けじめをつけるってことだけなんです。
私らが覚えたのはそれだけですよ。 - 素晴らしいコーヒーマシンがあっても、
その管理が悪かったら
まずいコーヒーしか生まれない。
機械が偉いんじゃなくて、
本当は掃除する人が偉いんです(笑)。
- 糸井
- 禅寺のお坊さんたちは、
部屋の天井を拭き掃除しますよね。
庭の葉っぱの裏まで拭いたりするし。
- 土井
- それはもう、
新しい一瞬を楽しみにするからですよ。
掃除というのは新しくなることですから。
昨日の自分は捨てて、
全部忘れていくのが基本ですから。
- 篠原
- へえーっ。
- 糸井
- 応募してくれる人がいるといいねぇ。掃除。
- 篠原
- ほんとに(笑)。
- 土井
- 日本の文化いうのは、
やっぱり「動詞」なんでしょうね。
ヨウジヤマモトさんが書いてるのを読むと、
西洋のファッションは
ガシッとした完成した形があると。
でも、彼の表現する洋服は、
女性が振り向いて、その場を去っていく
瞬間の美しさを狙ってカットしてるっていう。
- 篠原
- わぁー。
- 土井
- 日本人は動きの中に美を求めるというか。
浮世絵もそうでしょう。
雨降ってるところを表現してたり。
- 篠原
- 「見返り美人図」もそうですよね。
- 土井
- 動詞の中におもしろさを見つけたり、
それにドキッとするのが好きですよね、
日本人は。
- 糸井
- いまの話が国際的に説得力をもつのは、
どこの国にも踊りと歌があるからですよね。
全部動きであって、
流れていくものだっていう意味で。
- 土井
- そうそう、本当にそうだと思う。
いまのでちょっと思いついたけど、
私が国宝級だと思うのは、
浅草橋の『鮒佐(ふなさ)』という佃煮屋さん。
- 糸井
- 佃煮屋さん?
- 土井
- そこは佃煮を作るときに、
薪しか使ってないんです。
どうしてガスにしないのか聞くと、
「いやぁ、薪しか使ったことがない」
っていうような方なんです。
- 篠原
- へえーっ。
- 土井
- そこは江戸の最初に塩じゃなく、
醤油で煮炊きをはじめた最初の店ですわ。
チリチリした音、カランという音。
本当に美しい音しか聞こえない。
そして始末をつけながら、ひと鍋やったら、
その次の煮炊きの準備をして‥‥。
最初から最後までずーっと流れるがごとく、
無言で仕事が進んでいくんです。
- 篠原
- 素敵ですね。
- 土井
- そういうのを見たらね、
まったく日本人の仕事っていうのはね、
もう本当に見事ですよね。
- 糸井
- いいですね。
- 土井
- だから私からすると、
そういうのを日本人が評価しないで、
いったい誰が評価するんだって思いますよね。
-
150年後に伝えたい
「わたしの宝物」大募集!現在、東京国立博物館では、
2022年11月2日(水)からはじまる
『150年後の国宝展』に向けて、
150年後に伝えたい国宝候補を募集しています。150年後といえば、西暦2172年。
その頃、東京国立博物館には
どんな国宝が所蔵されているのか。
未来をあれこれ想像しながら
考えてみてはいかがでしょうか。
短い文章と写真があれば、
どなたでも応募できるそうですよ。
締切は2022年9月20日(火)17時まで。
応募詳細はこちらの公式ページをどうぞ!