こんにちは、ほぼ日の奥野です。
いま、毎週土曜日の午後10時から放送されている
NHK連続ドラマ『3000万』も、いよいよ佳境。
毎週ドキドキ・ワクワクしながら見てますが、
残すところ数回のこのタイミングで、
物語を書いた4人の脚本家さんに話を聞きました。
それぞれ作家性を持ったプロが集まって
ひとつの物語をつくりあげていく、
そのおもしろさ、あたらしさ、大変さ‥‥など
いろいろ聞いてきました。
1+1+1+1が「4以上」になる!
チームワークのヒントが、かくされているかも?
全5回、どうぞおたのしみください。

>4人の脚本家のプロフィール

弥重早希子(やしげ さきこ)
1987年、京都市生まれ。大学卒業後にシナリオ・センター大阪校、映画美学校脚本コースで脚本を学ぶ。2019年『邪魔者は、去れ』にて第45回城戸賞佳作を受賞。

名嘉友美(なか ともみ)
1983年生まれ。2004年に劇団シンクロ少女を旗揚げ。以後全ての公演で作・演出を務める。FMシアター「ガラクタな人々」脚本。

山口智之(やまぐち ともゆき)
1988年生まれ、埼玉県出身。主な脚本作品に、映画「笑いのカイブツ」「きばいやんせ、私」「こどもしょくどう」、ドキュメンタリードラマ「ケーキの切れない非行少年たち」(NHK BS1)など。

松井周(まつい しゅう)
1972年生まれ。1996年俳優として劇団青年団に入団、2007年に劇団サンプルを結成。劇作家・演出家としての活動を本格化させる。2011年『自慢の息子』で第55回岸田國士戯曲賞を受賞。2020年より「演劇」を通して世の中に思いをめぐらそうと立ち上げたスタディ・グループ、「松井周の標本室」を運営。ハレノワ創造プログラム 松井周×菅原直樹『終点 まさゆめ』の公演(11月〜1月)が控える。俳優・小説家としても活動している。

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第4回 物語とは、なぜ必要か。

──
これは、物語に関わる人に、
チャンスがあったら質問しているんですけど、
ぼくは「物語」というものが、
人間が生きていく上で
「必要欠くべからざるもの」だと思っていて。
ようするに「必要」っていうのは
お金とか愛情とか健康とか、
政治とか経済とか法律とか、
なんか、そういうのと同じくらい。
松井
なるほど。
──
みなさんは、どう思われますか。
もし同じように必要だとお考えだとしたら、
それは、どうしてでしょうか。

山口
これ、自分のオリジナルの考えというより、
どこかで聞いた話が、
いろいろ混ざっている気もするんですが、
なぜ「物語が必要なのか」って、
結局、人間とか人生を理解したい、
という思いのあらわれなんだと思うんです。
──
なるほど。
山口
だって、脈絡がないですよね。人生って。
とつぜん理不尽な目に遭ったりする。
そういうことを自分の中で整理をつけて、
受け止めたり、乗り越えたり、
人生ってこうだと理解したり、
人間ってこうだと呑み込んだり、
そのために、物語ってあるのかなあと。
──
登場人物に共感したり、思いを託したり、
ムカついたり、
嫌いになったりすることで。
山口
誰かの受け売りかもしれないんですけど、
自分としては腑に落ちる説明です。
──
松井さんは、どうですか。
松井
人間という存在が、
すでに「物語」なのかなとも思うんです。
何と言うか、物語というものがなければ、
人間って「みじめ」だと思うし。
──
みじめ。
松井
たとえばですけど、宝くじが大当たりして
億万長者になったらどうなるんだろうとか、
女の子に
めっちゃモテたらどうなるんだろうとか、
あるいは逆に、
生きるのにも困難な環境に生まれていたら
どうなっていただろうとか‥‥。
そんなふうにして
「いまの自分の人生とは、ちがう人生」を
思い浮かべてみることが、
この、いまの自分の人生をやってくときに、
助けになってくれる気がするんです。
──
あー‥‥わかります。たしかに。
松井
自分の「いま、ここ」を肯定できなくても、
どん底だと感じていたとしても、
マッチ売りの少女じゃないけど、
「ああ、ぼくはいま、ステーキ食べてる!」
とイメージすることが救いになったりする。
それが、たとえ「現実」じゃない、
つまり「つくりもの、嘘」だったとしても、
その世界に入り込んで、
一瞬、束の間の夢を見ることって、
ややもすれば「辛い人生」を生きるときに、
必要なんじゃないかなと。
未来を夢見ることは、希望にもなりますし。
──
いまのお話は、
人が物語を必要とする理由であると同時に、
人が物語をつくる理由でもある気がします。
松井
そうですね。まさに。
自分も、書いているあいだは、
ちょっと自分の人生から抜けられる感じも、
あったりしますから。
名嘉
わたしも、松井さんに近いかな。
わたし自身や、わたしの生活にとって
物語って、
やっぱりなくてはならないものなので。
──
なるほど。
名嘉
悲しい話でも幸せな話でも、
ただただバカげた話でもいいんです。
どんな物語ても、
わたしにとっては「救い」なんです。
弥重
このあいだ母親としゃべっていたとき、
誰かとケンカしたのかわからないけど、
急に、
「わたし、世の中に事実はないと思う」
って、言いだしたんですよ。
──
へええ、それは、どういう?
弥重
「だって人によって言うことはちがうし、
ある状況について
この人が言ったらこうやけど、
わたしが言ったらこうやし。
だから、歴史なんてものは、
わたしはぜんぶ、嘘やと思う」みたいな。
──
おもしろいなあ。
弥重
でも、そう言われたらたしかに、
「本当のこと」って何なんだと思います。
防犯カメラに映った映像についてだって、
誰かが「語る」ときには、
絶対、その人の何かが入るわけですよね。
山口
ちょっと盛るみたいなこともあるし。
弥重
そうそう。
目の前で起きた出来事だとしても、
自分の「主観」が入った語りの時点で、
それはもうストーリー、
ひとつの「物語」になっていると思う。
──
人生は『羅生門』ってことですかね。
嘘であっても、思い込みであっても。
弥重
そんなふうに考えると、
さっき松井さんがおっしゃったように、
人生って物語じゃん、
みたいなところに行き着く気がします。
──
みなさんの物語観、本当にそれぞれで、
本当におもしろいです。
ちなみに、
この同じ質問を池松さんに聞いたとき、
びっくりするような答えが返ってきて。
松井
俳優の池松壮亮さん?
──
はい。取材できる時間が短かったので
いきなり聞いたんですよ。いまの質問。
はじめましての挨拶のあとの、
本当に「1つめの質問」で、いまのを。
松井
へええ。
──
そしたら、ぼくが質問を言い終わるか
終わらないかの「食い気味」な感じで、
こう、おっしゃったんです。
「神様がいないからじゃないですかね」
‥‥って。
松井
えっ、すごい。
──
すごいですよね。すごいと思いました。
厳密に何がいいたいというよりも、
いろんな意味をイメージさせる答えで、
考えさせられるし、
何かの皮肉とも取れるし、
受け手によって、
何を受け取るかも変わってきそうだし。
松井
本当ですね。
──
しかも、前々から考えていて
用意していた答えなのかなと思ったら
「いま、不意にでてきた言葉です」
っておっしゃってたんです。
池松さんって、少年野球をやっていて
日ハムの新庄監督のつくった、
「だいたい九州1位の強豪チーム」で、
レギュラーだったらしいんですよ。
山口
そうなんですか。
──
そういう意味で、
初球をパカーンとホームラン打たれた、
みたい感じでした。
そこから何をくみとるのかという点で、
物語みたいな言葉だったと思います。

(つづきます)

2024-11-11-MON

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  • 4人の脚本家がチームで書いた 連続ドラマ『3000万』は 土曜の夜10時、NHK総合で放映中!

    いまから2年とちょっと前に
    保坂さんがはじめたWDRプロジェクトから、
    ついに連続ドラマがうまれました。
    タイトルは『3000万』。
    安達祐実さん、青木崇高さん演じる夫婦が、
    偶然に遭遇した事件から、
    ドロ沼にはまっていくクライムサスペンス。
    全8話、しばらく、みなさんと一緒に
    土曜日の夜を楽しみにしたいと思います!

    土曜ドラマ『3000万』
    NHK総合
    10月5日より毎週土曜夜10時放送

    WDRプロジェクト開始時の ディレクター保坂慶太さんインタビューは、こちら。

    ディレクター保坂さんの   放映開始直前インタビューは、こちら。