暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

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中編 そのときの気分を大事に編む。 料理家・くしまけんじさん、主婦・増田葉子さん

 
愛用する編みもの道具は、最小限。
道具からも、ふたりの好みがよくわかります。

 
弟・くしまけんじさんは、
木のボックスを編みもの道具入れに。
インテリアにもなじむカゴは、
キッチンの扉の上やリビングの棚など
いろんな場所に置くことができるので、
気軽に取り出すことができます。
お気に入りは、木製の縄編み針。
そのほかの道具も、
木製のものが多く統一感があります。

 
姉・増田葉子さんは、
出先で編むことが多いためさらにコンパクト。
カバンに忍ばせることができるポーチに、
道具と作品を入れています。
ほかにも付箋やマスキングテープ、
段数カウンターなど実用的なものも忘れずに。

 
「忙しくて編めなくなることも
あるんですけど、季節関係なく、
真夏でも編んでいますね(くしま)」
年中、編みものを楽しむふたりは、
いくつかの作品を同時並行で編むタイプ。

 
柄が入っているものやシンプルなもの、
セーターなど大物や手袋などの小物、
テイストのことなる作品を、
編むシチュエーションや気分で
編みたいものを編んでいるそうです。

 
「私は電車や移動中に編むことも多いので、
そうしたときは小さな小物を編みます。
ひたすら段数を重ねていく
単純作業のものを持ち歩くこともありますね。
集中して編めるときは、
難しいものに挑戦しています(増田)」

 
「小説とエッセイのように、
違うジャンルの本を同時並行で
読む感じに似ているんですかね。
その日の気分で、編みたいものを編む。
編み終えたら、すぐに次の編みたいものを探して、
毛糸を探しに行って。
一年中そんなことを繰り返しています(くしま)」

 
ときには思うように編めなくて、
糸をほどくことも。
それでも一年中編みたくなる、
その原動力はどこにあるのでしょうか。

 
「作品をつくることが目的なんじゃなくて、
編むこと自体が楽しいんです。
できあがったときの達成感もあるけれど、
それよりも、編んでいる時間そのものが幸せです(くしま)」

 
「失敗すると気持ちが冷めることも
もちろんあります。
そういうときは違うことに取り掛かって、
また気が向いたら編み始めてみて。
楽しみながら、そのときの自分の気分を
大切にして編んでいます(増田)」

 
ふたりが編みものに並んで、
長く夢中になっていること。
それが「中国茶」です。
神戸を拠点に活動する茶人、渡邊乃月さんが
食堂くしまを訪れたことをきっかけに、
中国茶とのご縁がスタート。
渡邊さんが中国茶の出稽古を
食堂くしまで開催してくれ、
ふたりも渡邉さん主宰の稽古「月乃音」に通うなど、
しとやかで端麗な空間に魅了されていると話します。

 
「お茶も美味しいんですけど、
しつらえや佇まいといった趣向が素晴らしいんです。
稽古では生徒が順番に茶人になり
お点前を披露するのですが、緊張感がものすごい。
それが精神鍛錬のような、
自分の軸を鍛える時間になっています(くしま)」
 
「お茶を淹れることで、
その人があらわになる気がします。
始めてまだ4年ですが、
学びが多く奥深さを感じます(増田)」
編みものと中国茶。
両端に存在するような趣味が
ふたりの生活を彩ります。

 
「編みものは、没入することで頭の中がからっぽになって、
リラックスできる時間です。
対して、中国茶を淹れる時は、
没入しながらも、広い視野を持つことが大切だと感じます。
その域には程遠く、まだ身体が緊張します。
だけど、その緊張感も
今の自分には必要だと感じます(増田)」

(みんなと編む楽しさ。そんなお話が続きます。)

写真・川村恵理

2021-12-21-TUE

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