暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

前へ目次ページへ次へ

後編 かわいくて、思わず手が伸びてしまう。 アヴリル 井上佳子さん

 
お部屋に並ぶのは、
選りすぐりの家具や雑貨。
探し回って見つけたアンティークの本棚や、
お気に入りの雑貨店に何度か足を運び
選び抜いた小さな置き物など、
井上さんが一つ一つ大切に選んだ
かわいいものたちが、
心地よい空間をつくっています。

 
「お気に入りの雑貨屋さんや骨董市に
足を運んで、買い揃えていきました。
グッときたら購入まで早いんですが、
あまり何でも買うタイプではないです。
結構悩んで買い集めたものたちです」
 
かわいらしいくまの双子は、
実は「文鎮」にもなるという優れもの。
「ばら売りだったんですけど、
離れ離れにしてはいけないと思って
2つ買うことにしました。
置き物とか、栓抜きとか、
生活には不要なものも結構ありますよ(笑)。
だけど、かわいいと、つい手が伸びてしまう」

 
スペースに収まる範囲の物しかないため、
すっきりとしているお部屋。
「編みものでも、読書でも、
1つに集中するタイプなんです。
中途半端になってしまいそうなので、
1冊読み終わるまで新しい本には
手を出さないように決めていて。
いっぱいある、という状況が
そんなに得意ではないのかもしれません」

 
糸も買いだめはしないと言います。
「糸屋なので、かわいい糸が周りにたくさんあり、
“糸マニア”のような同僚もいっぱいいます。
だけど、私は買いだめすることはなくて、
この作品を編むならどの糸にしようかな、と
考えてから糸を買うようにしています。
必要なものを、必要な分だけほしい。
指定糸じゃない場合は
ゲージから割り出しの計算をして、
編み終えた時に糸が余っていないと
すごくうれしいです」

 
編みもの道具も最小限。
ニードルキャップ代わりのペンギンの指人形が、
愉快にたたずみます。
「編んでいる作品に必要な道具だけカゴに入れて、
部屋の好きなところで編んでいます。
だいたい、窓際が多いですね。
お出かけするときはポーチに入れて、
持ち歩くこともあります。
編みもの道具は
実用的なものばかりになってしまうのですが、
ペンギンとハリネズミは大切にしています。
なくしてしまいそうなので、いつもお部屋で待機です」

 
毛糸や作品の収納には秘密が。
収納スペースの戸棚を開くと、
Miknitsのキットが入っている白い箱が
収納ケース代わりに活用されていました。
「これはぜひ、Miknitsユーザーにお勧めしたい
箱の再活用方法です。
すっきりしたデザインですし、
中身がチラッと見えるので、
収納箱にはもってこいなんです。
私は余り糸や編み地を収納したり、
文庫本を収納したりしています。
高さもピッタリ揃って気持ちいいです」

 
気になったのは、
ご自身で作ったというカーテン。
カーテンフックの代わりに
赤い毛糸が使われていて、
白を基調としたお部屋によく映えます。
「毛糸の切れ端を会社で見つけたときに、
このまま捨ててしまうのはもったいないなと
思ったんです。品質もいいものですし。
それで、どうしようかと思いながら、
とりあえず持って帰ってきてしまって。
カーテンフックにすることを思いついて、
ミシンで縫いつけました。
2017年に開発していた、Miknitsリリヤーンの糸です。」

 
「日向ぼっこをしながら、一人で黙々とできることが好き」
という井上さん。
編みもの以外にもソーイングや読書など
いろんな趣味を持っていて、
小引き出しを開ければ
ソーイング用のカラフルな糸たちが、
本棚を開ければ背丈が並んだ
古い本たちが表れます。
整然としているけれど、
あちこちに“好き”が詰まっているお部屋は
宝箱のようなときめきが。

 
「静かに過ごせる家時間がたのしくて、
最近は街をぶらぶらすることも少なくなりました。
黙々とできることって、気分もいいんですよね。
そんな中でも編みものは、用意が楽で達成感がある。
気負わずできるところが、
性に合っているんだと思います。
私の会社は入社すると手織り機をもらうのですが、
ソーイングでも手織りでも、
大きな道具を用意しなきゃいけないのは少し大変で、
すっかり編みもの派になりました。
編み図に沿っていれば迷うこともほとんどなく、
間違えたらほどけばいい。
どんなことも楽しくやりたいので、
編みものはちょうどいいんです」

(井上さん、ありがとうございました。 編む人、今シーズンはここまでです。また編む季節に!)

写真・川村恵理

2022-03-17-THU

前へ目次ページへ次へ