暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。
- 原宿にある老舗のヴィンテージショップ
「TORO Vintage Clothing」。
オーナーの山口郁子さんとご主人が
世界各国で買い付けた、
個性的なヴィンテージアイテムが並びます。
幅広いジャンル、色とりどりの一点モノ、
ふたりの審美眼によって見つけられた
アイテムを眺めていると、
宝探しのようなワクワクする気持ちになれます。
来年2023年には、オープンして30年目を迎えます。
- また、山口さんはオリジナルレーベル
「IRREGULAR」を展開。
2016年に移転したお店の中には
そうしたリメイクやアイテムづくりのための
アトリエスペースがあります。
- そのアトリエスペースに
ときどきあらわれる毛糸たち。
ヴィンテージを愛する山口さんらしい理由で、
作品たちが誕生します。
この日は60年代のモヘアセーターを
丁寧にほどいて、糸巻きにして、
あたらしいセーターが生まれつつありました。
- 「これは昔気に入って買い付けた
60年代のイタリアンモヘアのセーターです。
イタリアンモヘアって発色が綺麗で、
独特の淡い色味が可愛らしいんです。
このミントグリーンに惹かれて買い付けました。
- 最近身につけていなかったのですが、
時代の経過とともに生まれた唯一無二の風合いを
捨ててしまいたくない。
タンスの中で眠ってしまっていた毛糸をほどいて、
糸巻き機に巻いて、
あたらしい作品のための素材として使うことで
またうれしい出会いがあるかもしれません。
まだ、どんな作品にするか考え途中だったので、
今回はメリヤス編みとドライブ編みといった
イタリアンモヘアによく使われる編み方を
ニットに落とし込んでみました。
スワッチのようなものです。」
- 時間をかけて、丁寧に糸巻きに巻いていく時間も
楽しみの一つ、と山口さん。 - 「糸巻き機に巻くときは、風合いを残すためにも
なるべく毛糸にハサミを入れないようにほどく、
というのを大事にしています。
毛糸のはじまりを見つけて、
スチームをかけながら
縮れている毛糸の捻りを戻して、
糸巻き機に巻く。
少し手間はかかりますが、
そのほうが編みやすくなります。
- ほどく作業は私の中で編む作業と似ていて、
だんだんと無心になっていくんです。
気づくとものすごく集中している瞬間があり、
心が整理されるような気持ちよさがあります。」
- 相棒の糸巻き機は、日本製の古いもの。
骨董店を営む友人から譲り受けたもので、
可愛らしいデザインに加えて
使用しない時は折りたたむことができるという
優れものです。
- ほかにも、古物市で毛糸を見つけてきたり
ダーニングでお気に入りのニットを修復したり、
古いモノを大切にする気持ちは
編みものでも原点にあります。
- 山口さんが好んで編むのは、
手の中で編める小さなもの。 - 「手持ちの洋服のアクセントになる
ソックスや帽子といった、
小物ばかり編んでいます。
本を参考にすることもありますが、
もっぱら、好きにデザインを考えて編んでいます。 - これは、冬に履くサンダル用のソックス。
最初の頃はプレーンなソックスを編んでいたのですが、
せっかくつくるなら自分に合うものが欲しくて。
トングサンダルだったので、
足袋のような形状で足裏にフリンジをつけて、
モップみたいな見た目にしました。
サンダルと合わせるといい感じなんです。」
- 作り手をリスペクトするからこそ、
素材選びにもひと工夫。
お店でも販売されている
定番アイテム「目出し帽」には、
こんな思いが込められていました。
- 「すでにミックスされている
1本の毛糸からつくっているように見えますが、
実は、いろんなメーカーの毛糸を
自分なりに組み合わせて編んでいるんです。
- 既製品の糸1種類のみで
オリジナルアイテムをつくるというのは、
それを生み出したデザイナーさんや作家さんのセンスを
勝手に利用している気持ちになってしまって。
自分でいろんな種類の糸を集めて、組み合わせることで、
ここにしかないものが生まれます。
そして、自分らしさがそこにあらわれる気がします。」
- それぞれの個性や風合いを活かしながら、
自由に楽しく、あたらしい作品を生み出せる。
何度もやり直しがきくのも、
編みものの良さだと山口さんは話します。 - 「編みもののいいところは、
失敗してもいつでもほどけるところ。
お洋服は布を裁断してしまうと
それで形やデザインがある程度決まってしまうけれど、
編みものは何度だってやり直せます。
だから、好きなようにできるのが楽しいんです。」
(次回は山口さんが編みものを始めたきっかけや道具の話です。)
写真・川村恵理
2022-10-27-THU
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キットのような編みものの本、
『Miknits TO GO』販売中です。おうちで、バスの中で、公園で。
どこでも、だれでも、気軽に編みものを楽しんでほしい。
そんな思いがつまったムック本「Miknits TO GO」。
三國さん監修の編み図と編み針、
オリジナルのアラン糸がセットになっているため、
この一冊で作品を編みはじめることができます。
no.3は葉っぱ柄のベレー帽「木の葉のタム・オシャンター」、
no.4は編み込み柄が素敵な「オーロラミトン」を編めます。