暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

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前編 キャンプで編みもの。  文化出版局 三角紗綾子さん

 
三國万里子さん初めての
作品集『編みものこもの』(2009)から
最新刊の『またたびニット』(2023)まで、
三國さんと一緒に数々の本をつくられている、
文化出版局・編集者の三角紗綾子(みすみ・さやこ)さん。
編みものやソーイング、刺繍など
洋裁、手芸の本を中心に、
年間10冊ほどの書籍を手がけられています。
三角さんにお会いするといつも、
手編みのニットと古着などを組み合わせて、
「着ること」を楽しんでいらっしゃる印象です。
「身につけたいものしか編みません」と三角さん。
好みを刺激したのはどのようなニットなのか
見せてもらいたいと思い、
取材を申し込みました。
取材場所として打診されたのが、なんとキャンプ場。
キャンプで編みものをするという「キャンプ編み」が
最近のリフレッシュになっているという三角さんと、
長野県にある五光牧場オートキャンプ場をおとずれました。

 
「キャンプをやってみたかったというより、
欲しいと思った車がキャンプに適していたり、
仕事仲間がキャンプにハマっていたり、
できる環境が先に整ったことで、
なんとなく“キャンプに呼ばれている”と思ったんです。
そこから、YouTubeやアウトドア雑誌をみたり、
キャンプの先輩に教えてもらったりして、
次第にハマっていきました」。
やかんやカトラリーなど、
必要かどうかではなく
「かわいいから買ってしまった」
というアイテムがそろいます。
「楽しみにしていることは、焚き火とごはん。
お肉を焼いたり鍋をしたり、
難しいことはしないけれど
せっかくならキャンプならではの
おいしい料理を作りたいです。」

 
おやつに作ってくださったのは、
バターとシナモンで味付けした焼きりんご。
やわらかくて、とろけるような味わいです。

 
テントをたてて、料理や焚き火の準備をしたあと、
ひと息つける静かな夜。
お酒を飲む代わりに選んだのが、編みものでした。
「お手洗いがテントの近くにないことも多いので、
キャンプに晩酌は適していないんです。
飲みすぎないように、
空いた時間で何かできないかと考えて、
思いついたのが編みものでした。」

 
これまでも「編みものピクニック」と称して、
友人と公園に集い、
編みものをしていたという三角さん。
お出かけのお供に編みもの、
というのは身近なことでした。
「温泉に行って、友だちと、
気ままな編みもの合宿をしたこともあります。
足湯をしながら編んで、ごはんを食べたら編んで、
布団の中でもおしゃべりしながら編んで。
編みものに、さらに楽しいことを
組み合わせるのが好きなんです」。
キャンプ場は持ち物やできることが限られているため、
針と糸さえあればできる編みものは
ぴったりだったと言います。
「キャンプ場で編むのは小物など小さくて、
編み図を見ないでも編めるようなもの。
キャンプ場に持っていく道具は、
編み針と糸だけです。
編み図は念のため携帯で写真を撮っていくけれど、
見ることはほとんどないです。
わからなくなったら、その日はそこでおしまい。
そのくらい気楽な気持ちで編んでいます」。

 
持ってきていただいたものは、
どれも愛用している感じが見て取れます。
「編んだものは必ず着ます。
はやる気持ちがおさえられなくて、
ボタンをつける前に羽織ったり、
夏糸なら袖をつける前に
ノースリーブで着てみたり(笑)。
めいっぱい、作品を楽しみます」。

 
こげ茶のニットは、
Ravelry(世界中の編みものファンが集うSNS)で
活躍されているJunko Okamotoさんのデザイン。
英文パターンの勉強も兼ねて、
編むことを決めたそうです。
「絶対にこのこげ茶の糸で編みたいと思って、
ルーマニアの糸を取り寄せました。
黄色とグレーは手持ちのジェイミソンズの糸。
糸の太さが違ったので
すこし仕上がりが凸凹していますが、
編みものをしない友人からは
『手編み感があっていい』と評判だったので、
良しとしています」。

 
「赤いニットはmichiyoさんのデザインです。
ずっとメリヤス編みが続くようなニットよりも、
ときどき増やし目や減らし目があるニットを
編むほうが好きなので、
編んでいて楽しい作品でした」。

 
帽子は日常的に出番が多いアイテム。
頭が冷えると体調を崩しやすいため、
ニット帽はコーディネートに欠かせません。
「このバラクラバもmichiyoさんのデザインです。
頭が冷えないように気をつけていて、
これはゴミ出しなどちょっとした時にも
サッと被れて、便利です。
カシミヤウールで肌ざわりがいいので、
被り心地が気持ちいい。
キャンプはふだんよりも寒いので、
この帽子を被ったまま寝ることもあります」。

 
編みもののおかげで、
キャンプの隙間時間が寂しくないと三角さん。
コーヒーを片手に焚き火の前で手を動かす時間は、
大らかで、気持ち良さそうに感じました。

 
ニットデザイナー三國万里子さんによる
4年ぶりの全点新作の作品集、
『またたびニット』が文化出版局さんより
刊行されました。
ミトンやつけ襟など週末で編みあがるものから、
フェアアイルカーディガンやアランの
セットアップなどの大作まで19点を掲載。
雪の残る早春の北海道にたたずむ
市川実日子さんの表紙がめじるしです。
ほぼ日ストアで購入いただくと、
新作の編み柄をほどこした
ブックカバーをプレゼント。
個性的で愛らしい作品たちに、
「編みたい」気持ちが刺激されて
目うつりしてしまいます。
ぜひ一度、手にとってみてください。

(次回は三角さんのお仕事の話です。)

写真・川村恵理

2023-11-15-WED

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