暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

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うれしい、たのしい、を詰め込んで。 熊谷美幸さん

 
読者のみなさんがどう編みものに夢中になったか、
大切なニットと思い出を聞く
特別編「Miknitsとの個人的な記憶の記録」。
3人目は岩手県に住む熊谷美幸さんです。
応募時に投稿いただいたカラフルな作品が似合う、
あかるい雰囲気の熊谷さん。
編みものをめいっぱい楽しんでいる様子が、
写真からも伝わっています。
幼いころから手芸店に通い、
大人になって同じ店に勤めるほどの手仕事好き。
ニットにはたくさんの夢が編み込まれていました。

この4枚は、応募時に熊谷さんが送ってくださった写真。
熊谷さんの暮らしを感じるスタイリングで色ごとの撮影が素敵です。 この4枚は、応募時に熊谷さんが送ってくださった写真。 熊谷さんの暮らしを感じるスタイリングで色ごとの撮影が素敵です。

 
冬が大好きになる編みものは、
10歳のころからはじめて24年目になりました。
おばあちゃんが編みものが得意だったこと、
そして、子どもの頃そろばんが好きで、
数学で味わうピタッとはまったときの爽快感と
編みものは通じるところがあり、
自然と夢中になりました。
指先を動かすことも、基本的に好きなんだと思います。
小学校では手芸クラブに入り、
かぎ針編みであみぐるみをつくりました。
冬になると、お小遣いを持って
町の商店街にある手芸屋さんに駆け込みました。
その年に編むものを見つけるために、
気に入った毛糸を探すのが
わたしの冬のルーティーンだったんです。
大人になっても手芸熱は冷めず、
じつは、通っていた手芸屋さんに就職しました。
面接に行ったときにはめていた手編みの手袋で、
社長は「この店に通っていた子だ」とわかったようで、
その場で採用が決まりました。
それからは寝ても覚めても
手芸のことばかり考える毎日。
編みものだけではなく、洋裁など
さまざまなジャンルが好きになりました。
それでもやっぱり、編みものは特別でした。
なかでも三國万里子さんの作品はとにかくかわいい。
編むのも、着るのもうれしくて、
何年経っても色褪せないし、
編むと常にたのしい驚きをくれます。

 
はじめてつくった三國さんの作品は、
『冬の日の編みもの』(文化出版局)の五本指の手袋。
本屋さんでたまたま見かけたのですがくぎづけになり、
何度も何度も読みこみました。
手袋とniigataのマフラーを組み合わせるのが、
私の冬の定番コーディネート。
岩手の冬は厳しい寒さなので、
アンゴラとシルクとウールの混合糸で編みました。
最高にあたたかいつけ心地になっています。

 
自宅には三國さんの本がたくさんあります。
何年も前に出版されたものでも、
今見てもかわいいデザインばかり。
「今だ!」と突然思いついて
過去の本から編むこともあります。

 
大判のショールは『冬の日の編みもの』でひとめぼれ。
ただ、使うシーンのイメージがわかず、
複雑な模様だったので、編んでいませんでした。
ある日突然思い立ち、夢中になって取り組みました。
ずっとあこがれていたアイテムが、
何年もの時を経て手元にやってきた感じがあり、
よろこびを何倍にも感じました。

 
帽子やマフラーなど小物を編むことが多かったのですが、
はじめて挑戦したウェアがヘンリーネックのベストです。
ボタン集めが趣味なので、ストックは豊富にあります。
ニットは手洗いなので繊細なボタンをつけられると思い、
焼きもののボタンを合わせてみました。
作家さんが集まるマーケットで購入したものです。

 
『今日の編みもの』(文化出版局)のカーディガンに
ついているボタンは、じつは手づくり。
かぎ針編みでつくりました。
ニット自体もアンゴラモヘアの手触りが気持ちよくて、
持っているニットでいちばんのお気に入りです。

 
手芸店は10年近く勤めたのですが、
ほかにやりたいことを見つけて退職しました。
今は主人と畑をやっています。
手芸は自分でつくったものを着られるのがたのしい。
同じように、食べることも大好きなので、
自分でつくったものを食べてみたい
と思ったのがはじまりです。
買って食べたほうが簡単だし楽だけれど、
自分たちで育てたものを自分で食べるって
言葉にならないほどうれしいんです。
ふたりとも新米なのでわからないことだらけですが、
わからないこともおもしろいんですよね。
土地がとても広いので
種類がわからない木があったのですが、
何年かすると急に不思議な実がなり、
プラムの木だとわかりました。
掘り出し物を見つけたような気持ちでした。
私はニットを編みながら、考察するのも好きです。
デザイン、色の配色、糸の使い方など
「なぜ作家さんはこうしたのか」という理由を
自分なりに考えながら編むのですが、
他の方と比べても三國さんの作品を編んでいると
より深く、たくさん考えてしまいます。
それだけ奥深くて、いつも発見があり、
三國さんの作品を編むこと、着こなすことが
私の冬の楽しみになっています。

 
いまは子どもが小さいので農業よりも
手芸の時間のほうが取れています。
私が編みものをしている横で子どもが遊んでいるのが日常。
どんなに忙しくても、手仕事は苦にならないというか、
私の一部なので気がついたら手を動かしています。
今、敷地内の古い小屋を改装して、
自分の好きなものを詰め込んだ場所を
つくりたいと構想しています。
季節の食材を使って料理教室をしたり、
縫い物や編みもののワークショップをしたり。
手芸も、食も、大好きな手仕事をめいっぱい詰め込んだ
夢みたいな場所をつくりたいと思っています。
欲をいえば、結婚式をあげられなかったので、
ウェディングドレスを編んでみたい、という
壮大な目標があります。
夢も楽しみもいっぱいありますが、
時間をかけて実現させたいです!

(つづきます。)

写真・川村恵理

2024-04-26-FRI

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