暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

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前編 自分の手元からつくりだしたい。 スタイリスト 西川木乃美さん

 
スタイリストの西川木乃美さん。
5年ほどスタイリストの轟木節子さんの
アシスタントをつとめられ、
現在は独立して雑誌やWEBを中心に
スタイリングを手がけられています。

 
「靴下と古着と編みもの」が好き、という西川さん。
以前から、西川さんが編みものに夢中、
という噂を聞きつけていたミクニッツチームは、
この日を楽しみにしていました。
西川さんとお母さまの好きなものが共存する
素敵なご自宅におじゃましました。

 
洋服は好きだったけれど、
高校卒業後の進路に迷いがあったとき、
服飾の学校を卒業した母の助言がありました。
「デザイナーにならないなら、
服飾に進まなくてもいいんじゃない? という
話があったんです。
美術部の友だちと行った美大の学祭が楽しくて、
美大の建築やインテリアを学ぶ学科に進学しました。
学科の勉強も楽しかったのですが、
友だち何人かとファッションフォトを撮る、
自主制作のような活動をしていました。
初めて、人にスタイリングをする、という経験をして、
それが今の自分の原点にあると思います」。

 
就職するタイミングで建築事務所に出入りするも、
あまりしっくりこなかったのだそう。
美大での経験もあって
スタイリストの仕事に興味を持ち、
スタイリストアシスタントの派遣会社に登録をします。
「私は大きなものをつくりだすよりも、
もう少し身近なものから表現できる、
そういうものを自分の手元から
作り出したい気持ちがあったんです。
それで、スタイリングのお仕事だと思って。
スタイリストの基礎がなかったので、
ひとまず派遣会社に登録をして、
いろいろな現場で働きました」。
そろそろ誰かのところでしっかり学びたいと思っていた頃、
轟木節子さんのSNSでアシスタント募集を発見します。
「スタイリストという職業を意識する前から
素敵だなあと見ていたものが、
実は轟木さんの手がけたものがたくさんあり、
“この人かもしれない”と直感的に思いました。
師匠を通して、洋服や雑貨などさまざまな
スタイリングのお仕事に関わり、
自分の気持ちにフィットしていると改めて感じました」。

 
編みものをはじめたのは、お母さまがきっかけ。
「母が服飾の専門学校を卒業していたこともあって、
洋服をつくるのも編むのも、手芸全般がすごく得意。
幼い頃から姉とおそろいの服をつくってくれていました。
大学3年生くらいのときですかね。
お洋服に関わる仕事をしたいと思うようになって、
手芸を自分でやってみようかな、
というタイミングがあったんです。
手芸の中でも何から手を出そうかと考えたときに、
洋裁はミシンを出して、布を切って、
手間もかかるしスペースも必要で。
でも、編みものなら道具も少ないですし、
途中で別のことをしてもまた始められる、
そういう気軽さがすごく魅力だなと思いました」。
はじめたのは、かぎ針編みからです。

 
「手がきつかったのか、
かたくてぎゅっとしたものができあがってしまって。
どうしてなんだろう、と考えながら、
無心でいろいろ編み続けていました。
一度夢中になると
ハマってしまうタイプなんだと思います。
時間があればずっと編んでいました」。

 
「そろそろいいんじゃない?」
無我夢中でかぎ針編みをする西川さんを
よく見ていたお母さまから声をかけられ、
自身のかぎ針編みの“集大成”のような
大きなひざ掛けを完成させて、棒針へ。
アシスタントの仕事も忙しいなか、
お休みの日には編みものに手を伸ばしていました。
「お仕事は忙しい時期とそうではない時期があり、
ポンッとお休みがあるときもありました。
そういうときに、服飾について学んでいない自分が、
お洋服をつくる工程を一から勉強するためにも、
なにか手を動かしたいと思って、
棒針編みにチャレンジしたんです。
利き手が左なので、
右利き用の編み図だとちょっとやりづらくて、
最初は鎖目もぜんぶねじり目に。
左利きだとどう編めばいいのか考えて、
今は編み図を頭のなかで逆に変換して
左から右に編むという方法にたどり着きました。
特殊ですよね(笑)」。

 
集中して編むため、
作品の数はどんどんたまっていきます。
ふたたび、母からの、
「そろそろいいんじゃない?」という
言葉をきっかけに自分のものだけでなく
人にプレゼントするためのものを編むように。
「友だちにプレゼントするために編む、
と決めると編みものに対する意識が変わりますよね。
母はきっと、私の技術が蓄積してきて、
そろそろプレゼントできるクオリティに
なってきたとわかっていたんだと思います。
最初は、手編みのものをプレゼントするって、
ちょっと躊躇があったんです。
人によっては迷惑な可能性もあるので(笑)。
でも、友だちから「手袋を編んでほしい」と
言われたことをきっかけに、
リクエストを聴いて編むようになりました」。
ときには1年に1テーマ決めて、
友だちの誕生日プレゼントに編みものをあげる、
という課題を課していたこともあったそう。
「自分で編むので、
個人的なお願いも聞くことができます。
親指を出したいと言われたら親指が出る手袋にしたり、
轟木さんに靴下を編んでプレゼントした際は、
ときおりTabiブーツを履いていらしたので
それに合うように編みました」。

撮影:西川さん 撮影:西川さん

 
最近は、友だちに生まれた赤ちゃんのために
黄色い帽子やネイビーのロンパースなど、
キッズセットをつくっているという西川さん。
その人に合う色やモノを選んで、手を動かすさまは、
スタイリングのお仕事と共通しているかもしれません。

(後編では、西川さんが編んできたものをご紹介。)

写真・川村恵理

2024-11-04-MON

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