こんにちは。ほぼ日の永田泰大です。
オリンピックのたびに、
たくさんの投稿を編集して更新する
「観たぞ、オリンピック」という
コンテンツをつくっていました。
東京オリンピックでそれもひと区切りして、
この北京オリンピックはものすごく久しぶりに
ひとりでのんびり観戦しようと思っていたのですが、
なにもしないのも、なんだかちょっと落ち着かない。
そこで、このオリンピックの期間中、
自由に更新できる場所をつくっておくことにしました。
いつ、なにを、どのくらい書くか、決めてません。
一日に何度も更新するかもしれません。
意外にあんまり書かないかもしれません。
観ながら「 #mitazo 」のハッシュタグで、
あれこれTweetはすると思います。
とりあえず、やっぱりたのしみです、オリンピック。

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04 小林陵侑選手と川村あんり選手

メダルって、なんなんだろう。

 
小林陵侑選手が
ジャンプ男子ノーマルヒルで金メダルをとった。
今回の北京2022オリンピックで
もっとも金メダルが確実視されていた選手だと思う。
しかし、オリンピックを
長く観ている人ならわかると思うけど、
金メダルを確実視されている選手が
金メダルを確実にとることはほんとうに難しい。
金メダルを確実視されているというのに
おかしなことだ。
一方、金メダルの可能性があるといわれていた
スノーボード女子の村瀬心椛選手や
モーグル女子の川村あんり選手はメダルに届かなかった。
昨日も書いたけれど、冬のオリンピックは
敗戦のインタビューに独特の切なさがある。
だって寒いんだもん。
メダルって、なんなんだろう。
これも、オリンピックを長く観ている人ほど、
考えることなんじゃないだろうか。
4位も3位もほとんどいっしょじゃないか。
でも、違うんだよなあ。ぜんぜん違うんだよ。
なぜなら、4位は目指してないからだ。
アスリートはその存在証明として
かならずなにかを目指している。
そしてそれは4位ではない。
メダルって、なんなんだろう。
日本でもっともその問いと向き合った人は、
上村愛子さんではないかとぼくは思う。
7位、6位、5位、4位、そして4位。
きっと多くのスポーツファンが諳んじられる順位だ。
年代を添えてきちんと書いてみる。
1998年、長野オリンピック7位。
2002年、ソルトレークシティオリンピック6位。
2006年、トリノオリンピック5位。
2010年、バンクーバーオリンピック4位。
2014年、ソチオリンピック4位。
「なんでこんなに一段一段なんだろう」と言ったのは
バンクーバーオリンピックの一度目の4位のときだ。
そしてこの一段一段の順位に
ぼくはぜひ付け加えておきたい。
結果的に最後のオリンピックとなった
ソチの二度目の4位のとき、
最終滑走者のハンナ・カーニーがすべるまで、
上村愛子は3位のソファに座っていたのだ。
つまり、最後のオリンピックの
最後の決勝の最終滑走者が最後の最後で
3位の上村愛子をひとつ超えていった。
一段一段上がってきたのに、最後の最後で。
「いい滑りができたので、滑り終えたとき、
得点も見ずに泣いてしまった」と上村さんは言った。
それ以上のことは誰にもわからない。
小林陵侑選手の話に戻る。
これが「金メダル」という領域に入ると、
たいへん失礼な表現になるが、
はっきりと異常性があるとぼくは思う。
昨夜の小林陵侑選手は、異常だった。
(ほめことばです、とかいちいちもう書きません)
超気持ちいい、と叫んだ北島康介選手。
勝った、と真下の氷に向かって叫んだ羽生結弦選手。
かわいい外国人選手ほどブン投げて倒したくなる、
と語った吉田沙保里選手。
内村航平選手、上野由岐子選手、室伏広治選手‥‥
そして、いま、高木美帆選手。
日本人選手に限らず、
「金メダル」と常に向き合っている選手は
異常な領域にあるとぼくは思う。
(ほめてますよ。また書いちゃった)
もうすこし具体的に表現すると、
リオデジャネイロオリンピックで
銀メダルに輝いたレスリングの太田忍さんは、
「オリンピックチャンピオンには
アクシデントが起きても余裕で勝てるような
実力がないとなれません。
70〜80パーセントで戦っても
チャンピオンになれる人でなければ」と言った。
北京オリンピックの男子4×100mリレーで
銀メダルを手にした高平慎士さんは、
自身にその異常性がないと認めたうえで
「ぼくは1回のチャンスを簡単に
ものにできる選手ではないと思ったので、
長く続けて複数回オリンピックに出て
1回引っかかればいいやと判断した」と語った。
(おふたりの発言は
「ほぼ日の學校」でいまも聞けます。
めちゃくちゃおもしろいです)
昨夜、1回目のジャンプから2位以下を突き放し、
最後も堂々と飛び終えて金メダルを確信した
小林陵侑選手は、その領域で思考していたと思う。
漫画みたいな演出でわざわざ異常性を
アピールするようで恐縮だけれど、
競技直後の小林陵侑選手は
外気マイナス10度とか20度のなかで、
マイクを向けられて開口一番
「暑い!」と叫び、
コメントし終わったあとはたまらず
ジャンプスーツのジッパーをおろして半袖になった。
身体からもうもうと湯気が立ち上った。
女子モーグルの川村あんり選手は
決勝1回目、2回目と
連続してメダル圏内にいながらも、
最終滑走では5位に終わった。
終了直後のインタビューでは、
涙を浮かべながら周囲に感謝を語り、
「がんばれば夢はかなうと伝えたい」と
自分のなかの自分をねぎらうように言った。
カメラがNHKのスタジオに切り替わったとき、
上村愛子さんは「悔しいね」とちいさな声で言って、
それはおそらく放送に乗せるつもりではない
ひと言だったと思う。
最後の最後で手から滑り落ちてしまった
メダルというものの意味を、
後悔と達成感がないまぜになった混乱を、
寒さのなかで呆然としているその瞬間を、
誰よりもいちばんわかっているのが
上村愛子さんなのだろうとぼくは思った。
「ご自身と重ね合わせていかがですか?」と
アナウンサーから訊かれた
上村愛子さんは笑顔でこう締めた。
「まだまだたくさんチャンスはあります」

(つづきます)

2022-02-07-MON

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