こんにちは。ほぼ日の永田泰大です。
オリンピックのたびに、
たくさんの投稿を編集して更新する
「観たぞ、オリンピック」という
コンテンツをつくっていました。
東京オリンピックでそれもひと区切りして、
この北京オリンピックはものすごく久しぶりに
ひとりでのんびり観戦しようと思っていたのですが、
なにもしないのも、なんだかちょっと落ち着かない。
そこで、このオリンピックの期間中、
自由に更新できる場所をつくっておくことにしました。
いつ、なにを、どのくらい書くか、決めてません。
一日に何度も更新するかもしれません。
意外にあんまり書かないかもしれません。
観ながら「 #mitazo 」のハッシュタグで、
あれこれTweetはすると思います。
とりあえず、やっぱりたのしみです、オリンピック。
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11 スピードスケート
ふたつの銀メダルで思ったこと。
- 質量保存の法則みたいに、
メダルの色によってうれしさの量が決まっていれば、
選手は色に応じて同じようによろこぶはずだけど、
オリンピアンのよろこびは、
かならずしもメダルの色に準じない。
長くオリンピックを観ている人ならわかると思う。 - 大声で叫んで周囲と固く抱き合って
よろこぶような銅メダルがある一方で、
くやしさで涙が止まらない銀メダルもある。 - ほら、もう、こう書いただけで、
いろんな場面がつぎつぎに浮かんでくるでしょう? - 金、銀、銅の順番でうれしいはずなのに、
もらったほうの感情はちっともそれにそろわない。
そういうゆらぎがオリンピックをさらにおもしろくする。 - 高木美帆選手が500メートルで銀メダルを獲得した。
高木選手は7日前に1500メートルで銀メダルをとっている。
つまりふたつ目の銀メダルだが、反応はまったく違った。 - 最初の銀メダルのとき、高木選手によろこびはなかった。
2位という結果をただただ呆然としたまま受け入れた。
昨日のふたつ目の銀メダルのときは、
最終組の滑走をカウントダウンするみたいに
わくわくしながら見守り、
2位が確定したときは両手で大きくバンザイした。
つられてぼくもバンザイした。 - 同じ人が、同じ大会の、
同じ銀メダルをとったのに、ぜんぜん違う。 - 記録のなかではふたつの銀メダルは同等に銀メダルだ。
重さにも意味にも違いはない。
たぶん、十年くらい経って
高木美帆選手のウィキペディアを読んだら、
そこに成績として記されている2個の銀メダルは
まったく同じものに感じられるだろう。 - 数字や記録は長く残る。
しかし、気持ちや経緯やエピソードは忘れられてしまう。
こんなすごいこと絶対忘れないでしょと思っていても、
いやいや、人はけっこう忘れてしまう。 - 現にぼくがいま書いたこの文章も、
2年後くらいに読み直すと、
「で? なんで高木美帆選手は
1500メートルの銀メダルはよろこべなくて、
500メートルの銀メダルはよろこんだの?」
とか思っちゃうはずだ。
だから、2年後の読者のために書いておこう。 - 1500メートルは高木美帆選手がもっとも得意とする種目で、
平昌オリンピックでは銀メダルを獲得、
今季も世界選手権3戦全勝と絶好調で、
かなり金メダルの可能性が高いといわれていた。
ところが今季が最後のオリンピックと言われている
オランダのビュスト選手がオリンピックレコードを叩き出し、
高木美帆選手は0.44秒及ばず呆然の銀メダルとなった。
それは、典型的な「くやしい銀メダル」だった。 - 一方、昨日の500メートルは、高木美帆選手が
これまであまり出場したことのない距離で、
平昌オリンピックのときもエントリーしてないし、
記録をざっと調べたところ
すくなくとも2019年までは入賞記録がない。
メディアの下馬評も「入賞なるか」という感じだった。
出走順も13組中4組目で、
「早い組でいいタイムが出せたのはラッキーだった」と
レース後に高木美帆選手はコメントしている。
つまり、500メートルは、思いがけず獲得できた、
「うれしい銀メダル」だった。 - そしてもうひとつ、
高木美帆選手がその銀メダルをよろこんだ理由がある。
それは、昨日記録した「37秒12」が、
自己ベストの記録だったということである。
つまり、高木美帆選手は、とてもうまくすべれた。 - オリンピアンのよろこびの量は、
かならずしもメダルの色に準じない、と最初に書いた。
しかし、どの選手だろうと等しく喜ぶものがあって、
それは「自己ベスト」である。 - 競技を終えて自分の記録が表示されたとき、
そこに添えられた
「PB」(パーソナル・ベスト)という文字を
よろこばないアスリートはいないとぼくは思う。 - この日のために来る日も来る日も練習して、
その、まさに「この日」に、
過去のぜんぶの自分の記録のなかで
いちばんいい成績が出る。
それはもう、メダルと別次元で、
とんでもなくうれしいことなのだと思う。 - 昨日の原稿のなかで、
ぼくはスポーツを観るよろこびのひとつを、
結果や展開を具体的に祈って
それがときどきかなうことだと書いた。 - けれども、ぼくはときどきこんな妄想をする。
もしも、ぼくがスポーツの神様のように、
いま熱心に応援しているこの競技の
勝敗の行方を決めることができたとしたら、
うれしいどころか困るだろうなあ、と。 - だって、ある選手に勝ってくれと願ってはいても、
ほかの選手を負けさせたいわけではない。
矛盾するけど、ほんとうだ。
そういうことは、自分で決められないからこそ、
自分勝手に祈ることができるのだ。 - 男子フィギュアスケートで
銅メダルを獲得した宇野昌磨選手が
競技後の記者会見で「金メダルへの意識」を訊かれ、
「ネイサン選手の実力が明らかに自分より上だったので、
この大会で金メダルを目標にすることは、
自分の成功じゃなくネイサン選手の失敗を願うことになる。
だからまったく考えていなかった」と答えていて、
この人はすごいなとぼくは思った。 - スポーツによって常識や文化がさまざまに違うように、
勝利やメダルの価値観も
ひとりひとりの選手によってまったく異なる。 - どうしても共通項を見つけるとしたら、
それは勝利やメダルの色よりも
「自己ベスト」のほうが近いとぼくは思う。 - 逆にいえば、オリンピックに出ているすべての選手には、
「自己ベスト」という目標がある。
それって、ちょっとすばらしいことだと思いませんか。 - ウサイン・ボルト選手が9秒58を切ることを目指すのも、
初出場の選手が自分の入賞を目指すのも、
なんなら完走や出場自体を目指すのも、
まったく同じことなんですよ。 - 実際、ぼくらはしばしば目にしている。
名も知らぬ外国のアスリートが予選の最初のほうで
ゴールして何度も拳を握っているところを。
あれは、目指した目標がかなった瞬間なのだ。 - 日本チームに目を移しても、
女子アイスホッケー、スマイルジャパンが
予選リーグを突破したのはすばらしい自己ベストだし、
滑るたびに自己ベストを更新している
三浦璃来、木原龍一ペアは
団体でメダルを得たという結果以上に
じぶんたちの状態に手応えを感じていると思う。 - だから、もしも自分が競技の勝ち負けを
神様みたいにぜんぶ決めることができたらという
たいへん自分勝手な妄想の話に
戻らなくていいのに戻るけれども、
もしもぼくが決めるなら、
出場した全員の記録を自己ベストにして、
そのうえで「たいへん恐縮ですが」と
応援する選手の勝利を添える。
神様なのに腰が低いのである。
シェフの気まぐれ自己ベスト・
贔屓選手の勝利添えとはこのことである。
ああ、最後の最後でとんでもなくくだらない結論になった。 - じゃあ、妄想ついでに、
おおげさなデザートを添えておこう。
オリンピックに出ているすべての選手には、
「自己ベスト」という目標があると書きましたが、
驚くことにそれって、
ぼくやあなたにも当てはまるんですよ。 - 羽生結弦選手が4回転アクセルを目指すみたいに、
ぼくやあなたも自己ベストを目指すことができて、
それって、平野歩夢選手や小林陵侑選手の
金メダルと等しいんですよ、驚くことに。
たいへん恐縮ですが。 - スポーツを観ることで勇気をもらえるって、
あれ、ほんとのことなんですよ、と
ぼくがしばしば言ってるのはそういうことです。 - 「PERSONAL BEST!」とプリントされた
Tシャツがほしくなった。また明日。
(つづきます)
2022-02-14-MON
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北京2022オリンピックを観ながら「#mitazo」を読んだり
「#mitazo」をつけてTweetしたりすると最高にたのしいです。
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もういっそ、この機会にはじめちゃいましょうよ。
この下には最近のTweetがいくつか自動で表示されています。これまでの「観たぞ!」シリーズ
2004年 アテネオリンピック
『昨夜、オレは観た!』2006年 トリノオリンピック
『観たぞ、トリノオリンピック!』2008年 北京オリンピック
『観たぞ、北京オリンピック!』2010年 バンクーバーオリンピック
『観たぞ、バンクーバーオリンピック!』2012年 ロンドンオリンピック
『観たぞ、ロンドンオリンピック!』2014年 ソチオリンピック
『観たぞ、ソチオリンピック!』2016年 リオデジャネイロオリンピック
『観たぞ、リオデジャネイロオリンピック!』2018年 平昌オリンピック
『観たぞ、平昌オリンピック!』2021年 東京オリンピック
『観たぞ、東京オリンピック!』オリンピックじゃないけど
2005年 全国高校野球選手権大会
『おらが夏の甲子園。』2007年 大阪世界陸上
『観たぞ、大阪世界陸上!』wiki 読者がつくる「観たぞ」用語集・ミタゾペディアはこちら。
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