こんにちは。ほぼ日の永田泰大です。
オリンピックのたびに、
たくさんの投稿を編集して更新する
「観たぞ、オリンピック」という
コンテンツをつくっていました。
東京オリンピックでそれもひと区切りして、
この北京オリンピックはものすごく久しぶりに
ひとりでのんびり観戦しようと思っていたのですが、
なにもしないのも、なんだかちょっと落ち着かない。
そこで、このオリンピックの期間中、
自由に更新できる場所をつくっておくことにしました。
いつ、なにを、どのくらい書くか、決めてません。
一日に何度も更新するかもしれません。
意外にあんまり書かないかもしれません。
観ながら「 #mitazo 」のハッシュタグで、
あれこれTweetはすると思います。
とりあえず、やっぱりたのしみです、オリンピック。

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16 カーリング

1点取らせるスポーツ。

 
たいていのスポーツは、たくさん点をとったほうが勝つ。
芸術点やスコアを競うスポーツも、
数字がいいほうが勝つ、と思えばいいと思う。
だから、スポーツを観ながら応援するときは、
「勝て!」「点をとれ!」というのが
まずは第一段階としてのおもしろがり方だ。
ここまではいいじゃん?
問題はこのつぎだとぼくは思っている。
勝つために、つまり点をとるためになにをしているか。
あるいは、点をとらせないためになにをしているか。
これがわかるとスポーツはもっとおもしろい。
この第二段階のおもしろがり方ができるかどうかが、
その競技をたのしむ大きなカギだとぼくは思う。
たとえば、蹴ったシュートが入るかどうかとか、
投げたボールで三振がとれるかどうかとか、
7メートルのバーディパットが入るかどうかとか、
そういうフィジカルな部分での決定率は
いったん運に任せると考える。
練習によってその確率は安定させることができるけど、
いったんそれは考えないようにする。
ぎりぎりのところのフィジカルなラストショットが
決まるかどうかが運だとすると、
勝つためにできることは、
「いかに多くのラストショットを打つか」だ。
つまり、母数を増やすことが、
いずれ点が入ることにつながる。
逆に、守備的にいえば、
「いかに多くのラストショットを打たせないか」、
つまり、いかにクジを引かせないかが、
自分たちの勝利の確率を高めるということになる。
そのようにして、
勝つために、あるいは勝たせないために、
なにをしているかが理解できると、
スポーツ観戦のセカンドギアがガチャンと音をたてて入る。
どこをどう発見しておもしろがるかは、
人によって好みが違うと思うけど、
ぼくにとってカーリングという競技を観るうえでの
セカンドギアは「1点取らせる」ということだった。
点を取るスポーツなのに、相手に1点取らせるんだよ?
そんな構造ある?
説明すると、カーリングというスポーツは、
10のエンドに分かれていて、
ひとつのエンドごとに
両チームが8個ずつストーンを投げる。
そのとき、どっちのチームが先に投げるかによって、
そのエンドの有利不利が変わってくる。
具体的にいえば「後攻が有利」だ。
これはジンクスではなく、はっきりと、
カーリングは「後攻が有利」なスポーツなのである。
そして、どちらかが点を取ると、
点をとったほうがつぎのエンドで先攻となる。
このあたりのルールが絶妙だ。
後攻のチームに点が入りやすいスポーツだけど、
点が入ると先攻と後攻が入れ替わってしまう。
「ゲームとはジレンマのことである」というのは
名作『ダービースタリオン』の生みの親である
薗部博之さんのことばだが、
おもしろいスポーツのルールには
絶妙なジレンマが組み込まれている。
後攻のチームに点が入りやすいが
点を取ると相手が後攻になってしまう。
だとすると、カーリングという競技では、
自分が後攻のときに2点以上取り、
相手が後攻のときに1点でおさえていくと、
勝つ確率が高くなるということになる
これを覚えておくと、
カーリング観戦がきっとたのしくなる。
「自分が後攻のときは、2点以上取りたい。」
「相手が後攻のときは、1点だけで抑えたい。」
北京2022オリンピック、女子カーリング準決勝、
日本対スイスは熱戦だった。
全体に両チームの守備がすぐれていて、
ともに最低限の得点を「取らせながら」進んでいった。
個人的なクライマックスは第9エンドだった。
そこまで、7対5と日本がリード。
第9エンドはスイスが後攻。
だとすると、日本はスイスに1点を取らせて、
7対6にして最終エンドを後攻でむかえたい。
最悪、スイスに2点取られたとしても、
7対7の同点という状態で、
有利な後攻で最終エンドをむかえられることになる。
しかし、ストーンを6個投げ合った状態で、
日本はかなりまずい状態に陥っていた。
ハウスのなかにはスイスのストーンが4個。
一方、日本はゼロ。
残されたストーンは
藤沢五月選手の投じる2個しかなかった。
大量失点の可能性が高いことは、
にわかファンにもよくわかった。
しかし、藤沢選手は1投目で
スイスの3つの石を動かして2個を外に出し、
自分のストーンもファーストストーンにした。
そして最後の1投で相手の石をふたつ外へ弾き出し、
スイスのラストストーンが決まらなかったこともあって、
大事な大事な第9エンドを、
まさに「1点だけ取らせる」ことに成功した。
その流れのまま、最終エンドは大きな波乱なく
(最後のショットはめちゃくちゃどきどきしたが)、
後攻の日本が1点を取って試合が終わった。
決勝進出。
平昌オリンピックの銅メダルを上回った。
ロコ・ソラーレはここまでいつも
ぎりぎりの戦いを勝ち上がってきた。
先に3勝したほうが日本代表となる
北海道銀行との決定戦ではいきなり2連敗。
そこから開き直って3連勝して、
ぎりぎりで日本代表となった。
北京2022オリンピック出場枠をかけて戦う
世界最終予選では一位通過での決定ののがしたが、
2〜4位で2枠をかけて戦うプレーオフで勝利して
ぎりぎりでオリンピック出場を果たした。
そしてご存知のように、昨日まで行われていた
北京2022オリンピックの総当りの予選リーグでは、
最後の試合を勝ちきることができず、
敗退したと思いこんでいたところから、
他国の結果によって思いがけず
ぎりぎりで準決勝へ出られることになった。
そして今日、強豪スイスをやぶり堂々の決勝進出。
そんなドラマの完結が、オリンピックの最終日に
残されているだなんて、なんて幸せなことだろう。
準決勝を突破したロコ・ソラーレ。
勝った瞬間にメダルが確定するから、
観ているぼくらにとって準決勝の勝利は
ある意味ゴールだったりする。
ところが、オリンピックに出ている人たちは、
準決勝に勝ったときよろこびはするものの、
すぐに静かなモードに入る。
夢にまで観てきた金メダルへの
具体的な挑戦がすでに始まっているからだろう。

(つづきます)

2022-02-19-SAT

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