こんにちは。ほぼ日の永田泰大です。
オリンピックのたびに、
たくさんの投稿を編集して更新する
「観たぞ、オリンピック」という
コンテンツをつくっていました。
東京オリンピックでそれもひと区切りして、
この北京オリンピックはものすごく久しぶりに
ひとりでのんびり観戦しようと思っていたのですが、
なにもしないのも、なんだかちょっと落ち着かない。
そこで、このオリンピックの期間中、
自由に更新できる場所をつくっておくことにしました。
いつ、なにを、どのくらい書くか、決めてません。
一日に何度も更新するかもしれません。
意外にあんまり書かないかもしれません。
観ながら「 #mitazo 」のハッシュタグで、
あれこれTweetはすると思います。
とりあえず、やっぱりたのしみです、オリンピック。

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17 フィギュアスケートペア

ちょこちょこした感情の放出。

 
スポーツの場では、
ふだんおさえている気持ちや、
あからさまに表現することが憚れる価値観や、
ふつうは照れくさい誰かへの純粋な応援や感謝を、
思い切り表現することができる。
わあ、泣きそうだったよ、と、
照れ隠しで笑うような場面で、
泣きそうな気持ちのまま泣くことができる。
行け、と思うようなときに、
行け、と真剣に集中して祈るだけでなく、
行けっ! と口に出すことができる。
うそだろなにそれ、と思うようなときに、
いったん冷静になろうと努めるのではなく、
うーそーだーろーーと変な声を出しながら、
ソファとかにぼすんと倒れ込むことができる。
そうして、そういう
当たり前のことを当たり前に表現しながら、
ふだん自分たちがいかにいろんなことを
我慢したり、躊躇したり、流したり、
なかったことにしたりしているのかと思い知る。
たとえば、ぼくらは、
美しいものを美しいとさえ素直に口に出せてない。
かっこいいなあ、と思うものだって、
かっこいいなあと言えるようなものは
かっこいいなあと言うけれど、
自分の中の常識感とか前言とか体裁が、
かっこいいなあと言うことを許さないときは、
かっこつけてんなあ、なんて、言い換えたりしている。
感情の解放、なんておおげさにしたいわけじゃない。
オリンピックを観ながらぼくが感じるのは、
もっとちょこちょことした、
流しそうめんみたいな感情の放出だ。
線香花火の終盤の火花みたいな、
ギタリストのアドリブのような、
のどに流し込む冷たい水くらいの表現だ。
昨日、三浦璃来選手と木原龍一選手ペアの
フリーの演技を観ていて涙が出た。
正直、ふだんのシーズンでは追えてない。
日本のペア史上初となる入賞が期待できる、
なんていうこともニュースのなかで知っているだけだ。
それでも、おお美しい、と思わず声に出したし、
スロージャンプの直前には奥歯を噛み締めたし、
投げられた三浦さんが木の葉みたいに回って
ざしゅっと降りて両手を広げたときには
なにもかもわかって応援している人みたいに、
よしっ、と声に出して、拳を握った。
そして4分30秒の演技が終わった瞬間、
ふたりの感情がほとばしるのは予想できていたが、
木原さんがあんな顔で泣くとは思ってなかったから、
ついぽろぽろと涙が出た。
演技の直前のコーチとのやりとりで
なにかがツボにはまったらしく
ふつうに明るく笑ってた場面が印象に残っていたから、
そういうギャップもあって涙が出た。
そのままいま観たばかりのスローを観て、
キス&クライで三浦さんが自己ベストの得点に
きゃあと跳ねたときは、
ぼくまで立ち上がって跳ねそうになった。
(跳ねなかったけど)
ぼくらは、ふだんの生活のなかで、
ずいぶんブレーキをかけている。
当たり前だ。それはなくてはならない抑制だ。
社会を維持するために、おだやかに暮らしていくために、
洗練された環境をいつくしむために、
ぼくらはきちんとコントロールする。
なによりもその制御は
じぶんよりも他者を大切にするためのものだから、
必死で守り続けていくべきものだと思う。
オリンピックは擬似戦争で、
人間が本能的に持っている闘争本能を
こういう場所で解放しているのだ、
ということは言われているし、
そういう面もあるんだろうなあとは思う。
けれども、もっとリアルなことでいえば、
日々のちょこちょことした我慢やブレーキを、
夕方のにわか雨くらいの感じで
オリンピックは解き放ってくれる。
ちいさなその積み重ねも、
もう16日分となれば、
かなりの量になっているのではないかと思う。
いつものオリンピックでは、
こういうじぶんの気持ちのいちいちの表出を
まとめて書いたりはしていなかったから、
振り返ると毎日書いていたこの原稿のなかで、
ぼくはじぶんのそのときどきの閃光が
総合的にはかなりの光量になっていたことを知るのだ。
さあ、最終日ですよ、みなさん。
そしていつもこの「最終日のメインイベント」的な競技に
JAPANの名前があることは
夏も冬もほとんどなかったのだけれど、
今日は我らが女子カーリングチームがいます。
フィギュアのエキシビションもたのしみだ。
オリンピックの期間はだいたい17日間とか18日間で、
その言い方が中途半端だからいつもぼくは
「オリンピックは3つ週末がある」と覚えている。
今日は3回目の日曜日で、夜に閉会式です。

(つづきます)

2022-02-20-SUN

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