インディーゲームの祭典BitSummitに、
ほぼ日の見習い勤務の鳥、シジュちゃんが
取材に行きました。
どうしてシジュちゃんが呼ばれることになったのか、
根本的に謎です。大丈夫なのだろうか。
ゲーム市場は、エンターテインメント産業のなかでも
成長の割合がいちばん大きいと言われています。
そのホットスポットで、インディーゲームの「いろは」について
巨体の銀の鳥が教わってきました。
インディーゲームの第一歩、みなさんもぜひ
シジュちゃんといっしょに踏み出しましょう。
第2回
世界には認めてくれる人がいる。
京都で開かれるインディゲームの祭典
「BitSummit(ビットサミット)」の主催のおひとり
Skeleton Crew Studioの村上雅彦さんに
お話を訊いているだジュよ。
ゲームの世界のどこからどこまでが
「インディーゲーム」なのか、
もはやぼやけてわからなくなってるんだジュな。
村上
「これはほんとにぼくらがめざしていた世界なんです。
じつはインディーゲームは、
カウンターカルチャーとして
はじまっているような一面があります。
巨大になったゲーム業界に対して、
『俺らは違う』というような気持ちを
根っこにもってスタートしたところがあるので、
インディーゲームに資本が入りだしたいま、
ここからさらにまた違った形の
カウンターカルチャーが出てくる可能性があります」
村上さんご自身は、
インディペントなゲームと呼ばれているものが、
今後どういうふうになってったらいいと
思っているだジュか?
「まず、インディーと呼ばれてること自体、
なくなっていけばいいな、と思っています。
個人的に作っている味わいのあるゲームがあったとしても、
それがゲームのなかの
ひとつの分野のようになっていけばいいと思います。
ゲーム業界として、
みんなが知っているような大きなタイトルのゲームを、
着々とつくっていくことは、当然今後もあります。
ここ何年かはオンラインでゲームが
できるようになりましたから、
これがもっと一般化し、
たとえば子どもたちもオンライン空間に自由に入って、
友達とたのしく遊ぶような、
開かれたゲーム産業に発展していくのだと思います。
かたや、このBitSummitに出ているような、
ちょっと個人的すぎたり、
思いが入り込みすぎている作品もあっていい。
ゲームのなかにはそういうのもあるよね、という感じで
存在していけばいいのではないかと思います」
芸術って個人的なところから
出発しているものだとシジュは思うんだけども、
インディーゲームって、たとえば
アートっぽいゲームってことだジュか?
「アートのようなゲームが
インディーゲームに入ることもあるでしょうね。
また逆に、ゲームのひとつのジャンルとして、
芸術作品も入っていくと思います。
ところで、絵画などのビジュアルアートと、
ゲームの違いって、なんだと思いますか?」
ええっと、ボタンを押したら、動くとか‥‥?
「そうそう。
ゲームにはアクションと、
それに対するフィードバックがあることが特徴と言えます。
遊びのような仕掛けに対し、
プレーヤーが何かをしたことによって変化が起きる。
そのフィードバックが、
うれしかったり、悲しかったり、驚きだったりします。
鑑賞するだけでは完結しません。
介入することで、変化して進んでいくものです。
たとえば、シジュちゃんが座っている椅子に、
センサーを仕込みまくって、
なんらかのアクションをすると
どこかが光ったり音が鳴るようにしておいたとします。
シジュちゃんは、最初は気づかない状態だったとしても、
何度か反応が起こっていくうちに
『こう動いたら、なんかの音がするんだな』
ということがわかっていって、
そこから遊びがはじまります。
もっと言えば、テクノロジーを介さなくてもいいのです。
紙に数字を書いて配って、
ルールを作って遊べば、ゲームです。
もっと境界線が消えて、
ゲームというものの選択肢が増えて、
なおかつそれぞれがしっかり作品として認められるような
価値観が広がっていくといいなとぼくは思います。
たとえば今回のBitSummitには、
固定電話機やアイスの棒などのような、
ゲーム機でないものを使って遊ぶゲームも
出展されていますし、
カードゲームやボードゲームなどの、
アナログゲームにも参加してもらってます」
村上さんは、こういうイベントをすることで、さらに
ゲームの境界をどんどんなくしていこうと
思ってるんだジュな。
「境界をなくしていくと、開かれていくんです。
たとえばある人が『Aでないと、はぐれものになる』と
思い込んでいるとしましょう。
でも境界がなくなっていくと、
『AはAでも、ぼくはちょっとだけBよりのAなんです』
なんてことも言えるようになります。
そうやって、いろんな人たちが
自分の居場所が見つけられるようになったら、
さらに作り手も多様化していくでしょう」
ところで、村上さんご自身は、
どういう経緯でBitSummitの主催側に
なったんだジュか?
「ぼくはサンフランシスコで美術を学び、
そのままアメリカで、
コンセプトアートの分野で仕事をすることになりました。
2008年に日本に戻り、
ゲーム会社に入りました。
数年間アメリカで働いたあとで日本に戻り、
ぼくは驚くことになりました。
日本には優秀な方がたくさんいて
おもしろいものがあふれているのに、
それがなぜか海外にうまく届いていない。
なんだか、国内ですべてが終わってしまっているような
印象があったんです。
国内って、当然ですが、人口が限られています。
こんなにも作る人がたくさんいるのに、
1億2000万人のなかの何割かしか
ゲームで遊ばないとすれば、すぐにコマが埋まります。
だから、ゲームの仕事をしていても、
どうしてもチャンスがないように見えてしまいます。
『認められないのなら、
自分には向いていない、目指すべき分野じゃない』
と判断してしまっている若い人たちもたくさんいました。
いやいや、世界はもっと広くて、
自分の作品を好きになってくれる人がいるかもしれないよ、
と言いたかった。すごく悲しいと思いました。
当時のぼくはアメリカ帰りだったし、
海外のパブリッシャーとのつながりもあったので、
クリエイターの架け橋になれないかな、と模索しました。
そのまま空気の読めない、変わっている人を装って、
『村上さん、日本っぽくないからな』なんて言われて、
少しずつ風穴をあける活動をつづけているうちに、
このイベントも手伝うようになりました。
インディーゲームは、もともとは
同人ゲームと呼ばれていました。
ゲーム業界を引っ張ってきた優れた人たちが、
好きなものを作る、作りたくて作る、という土壌を
まずは耕している状況でした。
そんななか開催されたBitSummitの第1回目は、
200人ほどの規模でした。
そこで、京都府が、ゲームやアニメなどをもっと
日本の伝統的な文化として扱いたい、
と声をかけてくれました。
協力者の増えた2回めのBitSummitでは、
実はぼくは出展者のひとりでした。
その第2回BitSummitで出したぼくたちのタイトルが、
大賞をいただきました。
大賞をもらったことをきっかけに、それを
アメリカのゲームのカンファレンスに持っていき、
海外のパブリッシャーに出会いました。
それは、
『日本のインディーゲームのイベントで大賞をもらって、
そのタイトルを持って海外に行ったら、
海外のパブリッシャーからお金を出してもらえて、
ゲーム制作が実現できた』
という、わかりやすいサンプルのような
出来事だったんです」
いわば、成功例だジュな。
「これを体験したぼくらは、
BitSummitが、そんなチャンスがある
イベントなんだということを
もっと知らしめるべきだと思いました」
だからここには大きな会議室で、
パブリッシャーと商談するスペースも、
設けられているんだジュな。
海外の人たちも魅力を感じる
日本のインディーゲームの魅力って、なんだジュか?
「日本に限らず、世界のインディーゲームに
言えることだと思うんですが‥‥、
人が作ったものには魅力があります。
たとえば、食器で言うなら、
大きな商業施設で売られている
大量に作られたお皿もいいけれども、
どこかの手作り市に行って、
実際に作った人と話しながら選ぶほうが
魅力的だという考え方もあります」
きれいで使いやすくていつでも買えるお皿も好きだけど、
作りたくて作った、
しかも作り手の存在が見えるものの魅力って、
たしかにあるだジュな。
(明日につづきます)
2022-08-30-TUE
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BITSUMMIT X-Roads
BitSummitは、毎年京都で開催されているインディーゲームの祭典です。
「国内のおもしろいインディーゲームを海外に向けて発信していく」という趣旨のもとに発足。
新型コロナウイルスによる完全オンラインだった期間を経て、2022年は、8月6日・7日の2日間、京都市勧業館「みやこめっせ」で開催されました。