国内最大級のクラウドファンディングサービス
「CAMPFIRE」の創業者、
家入一真さんに、糸井重里が会いに行きました。
「現代の駆け込み寺」を目指すシェアハウス「リバ邸」や、
誰でも簡単にネットショップを開設できる
「BASE」の共同創設など、
「CAMPFIRE」以外にも
次々とユニークなサービスを生み出し続ける家入さん。
「ちょっと、近いところがあると思っていました」
そんな糸井の言葉から始まった対談は、
さまざまなアイデアをかたちにしてきた、
ふたりの「社長」の言葉が交わされます。
共鳴し合うのかと思いきや、
じわじわと浮かび上がる、「まるで違う部分」。
まさにそこにこそ「家入さんの根っこ」が待っていて、
とても面白いのです。
「絶対うまくいかない」と、
「それ、お前にしかわかんないよ」と、
何度も言われながら、ここまでやってきた。
全5回でお届けします。

>家入一真さんプロフィール

家入一真(いえいりかずま)

1978年生まれ。国内最大級のクラウドファンディングサービス、CAMPFIREの創業者。「paperboy&co.」創業、「BASE」共同創業、「リバ邸」創設など、数々の事業を手掛ける連続起業家でもある。2014年には政治団体「インターネッ党」を立ち上げ、都知事選に出馬したことも。

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第5回 これからも、「戻れる場所」を。

糸井
家入さんは今、軽井沢に越してこられたわけですけど、
ここしばらく、いろんな人がいろんな理由で、
軽井沢に移ってますよね。
家入さんは、主にどういう理由だったんですか。
家入
1つはさっきお話したように、
CAMPFIREが「地域」をひとつのテーマにしていること。
「これからは地域だ」と言ってる自分が
東京のど真ん中に住みつづけていることに
すごくモヤモヤしだした時期があったんですけど、
コロナの影響で会社をフルリモートに移行して、
僕自身どこにいてもよくなったときに、
「地域で生きてみる」というのを
現実的に選択できるようになったのが、まず1つでした。
糸井
コロナ、大きいですよね。

家入
大きかったです。
CAMPFIREは今、200人ぐらいスタッフがいるんですけど、
フルリモートに変えた瞬間、多くのスタッフが、
いろんな地域に移住したんです。
地元に住む人もいれば、全然関係ないエリアに住む人もいて。
今は採用も「日本全国対象」に切り替えたので、
コロナをきっかけに会社はだいぶ変わりましたね。
糸井
その、フルリモートにする思いっきりって、何ですかね。
家入
これは僕の考え方というか、組織論なんですけど、
よく、リモートになると
「ほんとに働いてるかどうか管理できなくなる」
とか言われたりするんだけど、
べつにオフィスで一緒に働いてたとしても、
働いてるかどうかなんて
ほんとの意味では監視なんてできないじゃないですか。
PCの前に向かってたら仕事してるのかと言ったら、
そういうわけでもないし。
寝っ転がってぼーっとしてるときに
すごいいろんなことを考えてることもあるし、
ネットサーフィンだって情報収集になってるわけで、
「何をもって仕事をしているとするか」は、
「1ヶ所に集まる」ことによって
担保されるものではないと思ったので、
じゃあもう、フルリモートにしていろいろと試してみよう、
という思いがありました。
糸井
で、試したら、案外大丈夫だった。

家入
そうですね。
もちろん全く問題ないってことはないんですけど、
わかったこともいろいろあって。
たとえば、そもそも僕は「居場所を作る」という活動を
いろいろとやっているつもりなんですけど、
「会社」もまた、やっぱりひとつの居場所なんですよね。
いざリモートになったらみんなよろこぶのかな
と僕は思ってたんですけど、
東京の狭いマンションに一人暮らしだったり、
家族と暮らしてて仕事できる部屋がなかったり、
「会社で仕事をする」というのが
ひとつの大切な居場所になっていたスタッフも、
やっぱりたくさんいたんですよね。
フルリモートになった瞬間、
その「居場所」を失ったストレスから、
メンタルの不調を抱えるメンバーもやっぱり出てきて。
あとは、「背中で覚える」ということが失われたりと、
「教育面における難しさ」なんかも
やってみてわかったところでした。
糸井
そうですよね。
それは今、オフィス勤務とリモートの中間あたりに落ち着く、
みたいなことになってきてるんですか。
家入
はい。チーム単位で定期的に集まるとか、
マネージャークラスは月に1回必ず集まるとか、
今はそういうかたちで。
でもまだ、正解はわからないです。
模索しつづけている感じですね。

糸井
僕らも、一時期はリモートにしましたけれども、
やっぱり「集まるって、いいなあ」というのがあって。
集まったときに得られた刺激とか、慰めとか、
その全てが、やっぱり貴重なものだと思ったんです。
メンバーにとって集まることが
「楽しみ」になっているかどうか、とても重要ですよね。
嫌だっていう人を集めようとしてもダメなので。
家入
ああーいや、そうなんですよね。本当にそうです。
糸井
今日も、家入さんと会おうかといったときに、
「じゃあリモートでやりましょう」となったら
僕はつまんないんですよ。
始まる前の、「あ、席はこっちです」とか言ってる時間も、
「会ってる」ということじゃないですか。
なんだろう‥‥「用事だけする」っていうのは、
僕は、ちょっと。
もちろん、それはそれで、
いいところがあるのもよくわかるんですけどね。
家入
そうですよね。
リモートだと、アジェンダだけになってしまうというか、
「余計な話」が前後に生まれないですもんね。
僕らもフルリモートを経験して改めて、
やっぱり人は何かしらの「戻る場所」を
求めてるんだろうな、というのはすごく感じてます。

糸井
やっぱり、「広場を作る理由」ってそこじゃないですか。
「目的もなく集まれる場所」だよ、という。
会社も、広場だらけになってもかまわないんですよね。
きっと「集まる」というのは、
人間の本性に近いものだと思うんで。
だから今は、「集まる場所」が、
仙台にあったり岩手にあったり、九州にあったり、
「あっちこっちに集まれる」っていうのが、ひとつ、
かたちとしてあるのかなと思ってるんですね。
今って少し、「本社」という考え方がありすぎるのかなって。
東日本大震災以降、
なにかとほぼ日がやり取りをしている気仙沼にも、
僕自身、住む場所を作ろうかなあと思っていたりもして、
そうやって、増やせばいいのかなあと最近は思っています。
東京の会社を倍の広さにする予算があったら、
日本中に5ヶ所くらい支社がつくれますからね。
家入
うん、たしかに。
僕も軽井沢に移住して思ったのは、
東京での会食がかなりなくなった代わりに、
いろんな人が、わざわざ軽井沢まで
来てくれるようになったんです。
来てくれるともうほんとに夜通し、
我が家で飲みながらしゃべるみたいな、
すごい濃い時間を過ごせるんです。
東京にいたころは2時間の会食とかで終わりで、
その時間でたしかに話すべきこととか要件とかは
解消できるかもしれないけど、
それ以上の何かが生まれる時間にはならなくて、
その違いはすごくあるなと感じています。
もし「糸井さんが気仙沼にいる」ってなったら、
糸井さんにもそういう時間が増えるのかもしれません。
糸井
都心と地方の両方を選べるようになるのが
一番いいのかもしれないですね。
地面から切り離されて自由になったのと同時に、
「地面があってよかったね」という安心感もあるという。
「あ、うちにおいでよ」っていうのがお互いにできて、
みんながそれぞれ、観光旅行できるようなね。
「ちょうど俺、こっちにいるからおいでよ、
今だとカツオが美味しいよ」とか、
そういう場所があっちこっちにあったらいい。
そんなふうにいろんな場所に
会社をつくったらどうなるだろうって、
最近はそういう、「日本地図、上から見る」みたいなことを、
ずっと頭の中で考えてるんです。
家入
ああ、いいなあ。

糸井
それぞれの場所にそれぞれの面白いことがあると思うし、
そこでやっと、さっきも話に出しましたけど、
「みんなに通じるけど」「平凡じゃないもの」も、
生まれていくような気がして。
家入
あー、面白い。なるほど。
糸井
さっき広場を見せていただいて、
家入さんが始めちゃってるのを見たから。
「いいカオス」でしたよね、まさしくね。
家入
うれしいなあ。
糸井
そういうことを全部に
普遍化できるかはわかんないんですけど、
でも、「できた」っていうのはもう、
法律でいうと六法全書と判例集みたいなもんで。
判例集に合わせて世の中ってできていくんで、
そういうことをやってみたいですよね。
怖いけどね。
‥‥というあたりで、時間があれなんで。
さらばと言って、帰ります。また会いましょう。ぜひ。
家入
はい、ぜひ。僕、親鸞が好き過ぎて、
浄土真宗で得度したんですけど。
ぜひまた、そこらへんの話も。
糸井
あっ、そうですね。
またじゃあそれ、続きを。
家入
はい。ありがとうございました。

(おわります)

撮影協力:コードマーク御代田

2024-09-22-SUN

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